”Sofia-Bourges-Istanbul”by Gurultu & Petko Stefanov
かってバルカン半島からギリシャ、トルコあたりに君臨したオスマン=トルコ帝国の大衆音楽を再現する、といった民俗音楽上の試みのアルバムと読んだ。ともかくイスラミックな旋律とバルカン名物の変拍子乱れ飛ぶ、その辺のスキモノにはこたえられない世界が展開される。
冒頭から鳴り響く葦笛的響きのリード楽器の音に、「おお、我が最愛の民俗音楽系ジャズロックバンド、AREAのキーボードは、この音をシンセに組み込んでいたのだな」とかニヤリとしてみたり。
が、曲順が進むうち、なんじゃこりゃ的展開が始まってしまうのである。急に曲にリズムが消えうせ、奇妙な、現代音楽的とも思えるコーラスが始まり、バルカン音楽はどこかへ消えうせてしまい、そのまま曲は終わってしまったりする。次の曲も、バルカン的な曲調を真面目にやっているかと油断していると、バックに流れているブラス隊の奏でるハーモニーが、どう聞いても近代ジャズにおける和音展開なのである。
素朴な民族調アンサンブルに絡む、お洒落でジャズィーなホーン・セクション。そして無理やり入り込む現代音楽調実験音楽の要素。おいおい、こいつら、なにをやりたいんだ?
慌ててジャケ解説を読むと、意外にもジョン・ケージ触れられている部分もあり、けど、なんだか分かったような分からないような。そのいきさつにはサラッと触れただけで、ジャケの解説文は黒海沿岸の込み入った民俗音楽事情を語るばかりなのである。
結局意味不明のまま、アルバムは終結へ向かって進んで行くのである。強引に時間&空間軸を無視して入り込んだ異要素は音楽総体を食い破るでもなく、楽団の演奏は、民俗音楽の部分だけを聞けば力強い躍動感を失わぬまま、続いて行くのであった。ジャズィーなホーンセクションをお供に。
改めて問う。こいつら、何やってるんだ?
あなた、どこか外国の田舎町に行って地元の民俗音楽の楽団の演奏を楽しんだとして、そのついでにジョン・ケージの実験音楽も楽しみたいとか思いますか?
バックにジャズっぽいホーンを流すとかって、実は楽団メンバーの趣味だったりするのだろうか。
客からの要望でそんな事をやるとは考えにくく、となれば演奏する側の趣味と言うことになるんだが、バルカン音楽と前衛音楽とジャズ。無理やり同居させねばならない必然性はまるで感じられない。さっぱり溶け合わない結果に終わっているのだから。
と言うわけで、疑問符だらけのまま放ってあるのだが、このCD、製作意図の分かる方、おられましたらご教示を!しかし、不思議な音楽があります、世界には。