”水牛を甕に詰めて”byトッサポーン・ヒンマポーン
タイの仏教ポップス、レーを代表する歌手である、トッサポーン・ヒンマポーンの新作アルバムが届いた。
とか言ってるが、それを購入した店でそう教えてもらったから「ああそうなのか」と知るばかりである。現物のジャケには例のタイ文字が踊るばかりで、どれがアーティスト名なのかさえ分からない。もちろん、タイトルの日本語訳もそう教えてもらったから記してみたのであって、歌詞の内容等も分かってはいない。
この問題、何とかならんのかと思うのだが、世界中の音楽を相手にしている身、いちいち各国の言葉をマスターしていたら音楽を聴いている暇はなくなるのだからしょうがない。とは言え、文字の発音くらいは分かるようになりたいものだが(以下、略)
冒頭、まず飛び出してくるのが涼しげな木琴の音で、続いて民俗調の太鼓がまったりとリズムを刻み始める。鈴が鳴り、素朴な笛が隠し味的にシンプルなメロディを繰り返す。
おお、今回は電気楽器は無しのアコースティック編成である。なんか”日向ぼっこ”みたいな親しみ易い暖かさや明るさに溢れたサウンドだ。
レーとは仏教の僧侶が上げるお経の節回しに影響を受けて出来上がった民俗ポップスなのだそうだ。まあ、基本的にはタイ演歌であるルークトゥンの一種なのだろうが、ある種、ヨーデルのようにレロレロと裏返る不思議な歌唱法が印象的である。当方としてもその響きの面白さに惹かれてレーに注目するようになった。
が、この盤のトッサポーンの歌唱は、あまりあからさまなレロレロ歌唱法でもない。こちらもバックの音と同じく、地味に地味に裏返りつつ、歌いついで行く。なんだか以前聞いた60年代のレーのベテラン歌手の歌唱など、ふと思い出させる。
もしかして今回は、アメリカの黒人音楽の用語で言うならば”ダウン・トゥ・アース”がテーマなのではないか。原点に戻ってレーを歌ってみよう、そんな地味な決心でもしたのではないか、ひょっとして。まあ、そんな四角四面な雰囲気は無いのであって、むしろ、先に述べたように日向ぼっこ的のどかさが支配する作品であるのだけれど。なんだか、聞くほどにジワジワ好きになって行きそうなアルバムだ。
それにしても、この音楽の詳細を知りたいものだなあ。レーに関する情報は今のところ、何もないに等しい。
仏教とのかかわりはお経からの歌唱法上の影響のみで、それほど抹香臭い音楽世界ではなさそうな気がするんだが。ジャケを見ても普通のルークトゥンとあまり変わらないカラフルさであるし、トッサポーン自身のルックスも、今回のジャケ写真では、なんか日本のホスト出身のタレント、花咲仁クンみたいな感じになってきているし。
ああでも、この音楽に溢れている、日当たりの良い田舎道をのんきに転がって行くみたいなポコポコのどかな空気を御仏の慈悲の光に照らされている様、とするならそれを仏教ポップスの霊験あらたか、と納得できる事かも知れない。
と。いや、こんな風にわけの分からん考えをもてあそびながら、未知の音楽の前で入り口が分からずムズムズする、感覚、これがワールドミュージック愛好の醍醐味の一つなんだよなあ、とか強がってみる。が、誰もそんな当方の姿に興味は持っていない、と・・・