ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

夜明けのニューロック

2006-11-11 03:17:51 | 60~70年代音楽


 たまに、夜明け近くのラジオの深夜放送というものを聞くのだけれど、もうその世界では視聴者としてのターゲットを中高年に絞っていたりするのだった。私なんかにはメチャクチャ懐かしい音楽がかかりまくる。総人口に対する高年齢層の占める割合の増加はこれからもいや増し、そんな状況に対応しての事だろう。

 けれども、その中高年層にまさに属する立場で、「我々の時代が来た」とか能天気に喜んでいる人なんているんだろうか。ラジオの送り手は、そんなニュアンスで番組を作っているみたいだが。気分としては、「こんなことになっちまって・・・大丈夫なのかよ?」みたいな湧き上がる時代への不安を握り締めて、なんて感じじゃないだろうか。

 などと言いつつ、オノレもまたその中高年層としてその番組を寝入りばなにふと聞いているわけだが、昨夜、というか昨朝(?)にかかったタイガースの、あれは解散真近かのシングルみたいだったが「ラブラブラブ=愛こそすべて」なんて曲には「おおおっ」などと、面目ないが血が騒いでしまったものだった。

 60年代末のグループサウンズ流行時、私の好みは実力派のゴールデンカップスやサイケが売り物のモップスだったのであって、タイガースなんてメジャーで甘口のバンドに興味はまるで無かったし、そのような曲があったことも忘れていた。

 だが、時代が30数年も遠方に過ぎ去った今となっては、「ラブラブラブ」なる歌の、そのサウンドのうちに立ち込める時代の空気に、もう辛抱たまらん!みたいな気分になってしまったのだ。ガオガオと鳴り渡るハモンドオルガン、エリック・クラプトンに影響を受けた、なんてものじゃない、レコードからコピーしたフレーズをそのまま歌にはめ込んだギターの響き、あっと、クラプトンはもちろん、クリームの頃の、だぜ。当たり前じゃないか。

 そうそう、あの時代はそんな感じだったんだよ。この雰囲気、ニューロックだぜ、アートロックだぜ、イェイ!タイガースも俺もまた、同じ時代を過ごしたんだよなあ。俺の青春を返せ!くっそう!・・・とまあ、絵に描いたようなオヤジの感慨なんだけれども。

 こんな話をはじめてしまっても、その後のまとめが思いつかずに困るんだが。同窓会で「やあやああの頃は」なんてニコニコ出来るのは、それなりに”あの時代”の決算がついてしまっているからで、いまだ、当時の懊悩を引きずっています、みたいな私のような者には、どうにも居場所がない。

 いや、居場所はあの、空っ風吹き抜ける60年代末のあの街角なのであって、そこに戻る方法が無い以上、「あの時、こうだったら」みたいな、考えても取り返しの付かない、人生に対する中途半端な後悔をかみ締めつつ生きて行くしかないんだが。

 なんて事を思いつつ、居心地の悪い眠りに落ちる夜明けなのだった。懐かしのメロディなんてものは心の奥底に秘め、普通は鍵をかけて、そんなものは無かった顔をしているべきものであって、日常的に垂れ流されてもちょっと対処に困るんだよなあ。

 むしろ、聞きたくも無い”最新流行”に囲まれて不愉快な思いをしているほうが居心地は良いのかも知れない。過ぎ去った時代に思いを残して後ろ向きのまま年老いて行こうとしている者にはね。