ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

新村ブルースがまた流れれば

2010-02-09 21:47:10 | アジア
 ”君のいない通り”by 新村ブルース

 こいつは良い湯加減のブルース温泉だなとか、やっぱり青春はブルースだよなあとか、とぼけた感想を口にしてみるが、なにやら甘酸っぱいものを感じないでもないのだ。
 新村(シンチョン)とは韓国の大きな学生街であり、この新村ブルースは、70年代の後半あたりからではないかと想像するのだが、音楽好きの学生たちが集まって結成されたバンド、というよりはサークル、あるいはもっと広げて共同体とでも呼ぶべき集団だったようだ。
 この集団から、ハン・ヨンエ、キム・ヒョンシュクといった韓国のブルース~ロック界をリードしたミュージシャンが何人も世に出ている。

 今回のこのアルバムは彼ら、新村ブルースのデビューアルバムである。1988年作。街角に佇むメンバーと通りかかったリヤカーを押す老人、という取り合わせのモノクロ写真が、当時の韓国のブルース気分の湯加減を伝えてくれる。
 収められているのは、照れくさくなるくらいストレートな、絵に描いたようなブルースばかりだ。それもレイジーなスローブルースの連発。さすがブルース共同体らしく複数の男女の歌手が廻りもちでリードボーカルを勤め、サウンド面でもスライドギターが前面に出たり、ハモンドオルガンが長いソロを取ったりするのだが、曲調は最後の曲まで変わることはない。が、これが当時の彼らには最高にかっこ良かったのだろうから放っておいてやってくれ。

 各楽器陣はかなりしっかりしたテクニックを誇り、ボーカル陣もそれなりの貫禄さえ漂わせ、このデビュー作の録音時点ですでにバンドはかなりのライブの場数を踏んでいたであろうことをうかがわせる。加えて漂う暗く湿っぽい70年代気分、その世代にはたまりませんな。

 その一方、演奏の根幹には、”黒っぽさ”への希求は意外にもあまり感じられない。彼らの4thアルバムのジャケ写真には片隅にジョニー・ウィンターのレコードが写っていたりするのだが、実のところ、新村ブルースの内包していたブルースの深度は彼のような”白人ブルースバンド”のレベルのブルース理解と考えていいのではないか。
 遡ってマディ・ウォータースやら、さらにはロバート・ジョンソンがどうのといった泥沼まで、彼らは踏み込んでいない。そして彼らは”より深い黒っぽさ”との格闘の代わりに”韓国人なりのブルースのありよう”を手に入れようとしていた気配がある。このデビューアルバム、つまり第1章までの粗筋においては、ということであるが。

 この一月、新村ブルース初期の中心メンバーの一人であったキム・ヒョンシュク、過度の飲酒が原因で、40代の若さで世を去った彼の思い出を忍ぶ20周忌コンサートが開かれたと聞く。
 ここは、かっての主要メンバーが久方ぶりに集まって行なわれたというコンサートを収めたライブ盤のリリース待ちというところなのだが。
 それにしても20年の歳月。いやあ、やっぱりブルースは青春だねえ。と言ったところでこの慨嘆、私のような青春時代にロック界がブルースブームだったという事情を持つ者以外には通用しないのだろうけど。うん、そりゃそうだな。




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2 コメント

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はじめまして (icylake)
2011-04-08 01:41:46
今日初めてブログをみた韓国人でございます。アジアのいろんな音楽の紹介ありがとございます。(日本語ほんとに下手ですのでごめんなさい)新村ブルスは私もすきなグルップです。お蔭で久しぶりに聞きました。新村ブルスは普通の韓国人にとてはフォークと同じのと見られそうですね。70年代の韓国のブルスといえば米軍基地あたりのアメリカンーブルス或いは歌謡化された酒場ブルスが中心だったんですが、新村ブルスは雰囲気、歌詞、楽器、歌手の背景などの側面からむしろ見れば70年代青年文化の主流だったフォークと似ていった気がします。
社会一般に不健全なものとみられた既存のブルースと距離を置いたこと、そして歌詞とリズムなどでフォークの要素を多く摂取していたことなどが若者だちの中で人気を博した原因ではないかという気もします。
もう一度良い音楽と良い情報をいただいたことに感謝いたします。
icylakeさんへ (マリーナ号)
2011-04-08 03:34:50
貴重な書き込みありがとうございます。
韓国で新村ブルースがどのように認識され愛好されていたか、よく分かりました。
私としては、彼らの音楽がブルースの形をしているが、韓国語で歌われることで、なんだか韓国の伝統音楽の流れの中にあるように聴こえて、不思議なイメージで捉えていました。
また、私も青春時代にブルースバンドをやっていたので、非常な共感を感じもしたのでした。

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