ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ブライアンのいない夏

2012-08-02 23:05:56 | 60~70年代音楽

 先日、音楽雑誌の特集に、「ローリング・ストーンズのベストソングス100」なんてものがあり、ファン心理を刺激させられたのだが、こちらはブライアン・ジョーンズ主義の偏ったファンゆえ同じ土俵には上がれないなあ」などと書いた。
 が、その後、そんな自分なりにせめてベスト10なりとも選んでみたくなり、下のようなものをリストアップしてみた。

1) Mother's Little Helper
2) Paint It,Black
3) Satisfaction
4) Get Off of My Cloud
5) Have You Ever Seen Your Mother,Baby,
Standing In The Shadow?
6) Let's Spend The Night Together
7) 19th Nervous Breakdown
8) As Tears Go By
9) Ruby Tuesday
10) She's A Rainbow

 なんだ、あれこれ言う割には変哲もないリストじゃないかと申される方もおられましょう。まあね、私は通人でもマニアでもない、単なる偏屈なファンでしかないんで、こんなものです。
 ”ブライアン以後”のものは当然入っていないし、最初期の、ブルースやR&Bをせっせとコピーしていた時代のものは当方、リアルタイムで聞いてはおらず、オトナになってからLPで手に入れ、「ほう、デビュー当時はこんな演奏をしていたのか」なんて冷静な聴き方をしてしまったゆえ、これも入れない。たとえブライアンのギターやハーモニカのソロが聴ける曲があろうとも。
 小遣いを握り締め、街角のレコード店に出たばかりのシングル盤を買いに走った、なんて思い出のあるものばかりから選んだ。つまり、60年代中期から後期にかけて、薄汚れたポップバンドとしてヒット曲を連発していたストーンズのみ。

 ”マザーズ・リトル・ヘルパー”なんてのを一位に持ってくる奴も珍しいだろうが別に奇をてらったわけでもない。
 私にとってはこの曲、60年代中頃のロンドンを包んでいた、歴史の集積に煤けつつ新しい時代の予感を孕んだ空気と、その風景を皮肉な視線で見つめる悪ガキのロンドンっ子、なんて風景を一番想起させる歌詞であり曲でありギターやドラムに響きであるのであって。いやあ、こんな感じだったんだよ、あの頃のロンドンってさ。いや、知らないけどさ、行ったことないし。

 で、この10曲のどこがブライアン・ジョーンズなんだ?という質問に答えるべくあれこれ考えてみたのだが、まあ、よくわからない。浮かんできたのは、ブライアンのファンがとらわれているのはブライアンの残していった空虚ではないか、なんて答えだった。
 初期のブルースギターのプレイやら、その後、熱中したシタールやらダルシマーやらマリンバやらといった特殊楽器の演奏、あるいは死後に世に出たモロッコの民族音楽のフィールド・レコーディング。それら脈絡のあるようなないようなブライアンの遺産から見えてくるのは結局、いくつもの”?マーク”でしかないのであって、なんの回答も見いだせるものではない。
 その空白に各自が己の幻想を埋め込むこと、それがブライアン偏愛者が行ってきたことのすべてではないのか。

 10曲選ぶうちで非常に困惑したのは、”ジャンピン・ジャック・フラッシュ”の扱いだった。ランクに入れるべきか否か。実にストーンズらしい名曲であり、入れたとすれば当然一位なのだが、これがブライアン期のストーンズの曲と言えるのかどうか。
 この曲の発表時、法律上はまだ、ブライアンはストーンズのメンバーだったのだろうか。けれどブライアンの存在感は、あまり伝わってこない。というよりむしろ、ブライアンの軛を断ち切ったゆえの開放感に満ち溢れ、もしろそれが新しいストーンズの地平を拓く契機となったかのように聴こえても来るのである。まあ、今の耳で聴き直し、あえて屁理屈こねてみれば、の話であるが。
 もともとはバンドの創始者であり、リーダーでもあるべきでありながら、いつのまにやらドラッグ浸けのデクノボーに成り果ててしまった彼を追い出し、バンドを新しい時代にふさわしいものに生まれ変わらせる儀式、それがブライアンの解雇だったかと考えられるのだが、そんな新生の気概が、あの曲の印象的なイントロのギターの響きにも漲っている、なんて思えても来るのである。
 それゆえ、あの歌を複雑な思いなしに受け入れる気分にはなれないのさ。時代の流れにあえて取り残される生き方を選んだ、ブライアンのファンとしては。

 ブライアンが亡くなってからしばらく後の、星加ルミ子編集長の”ミュ-ジックライフ”誌の投稿ページに、こんなブラック・ジョークが掲載されていた。

 来日したストーンズ。東京の天ぷら屋に食事に来たミックとキース。だが、何を注文しても、席にいる人数分より一品多く料理が運ばれてきてしまう。困惑する店員に、あの特徴的な唇を天ぷらの油でテラテラと光らせたミックは呟く。「ああ、ブライアンがまた、付いてきているんだろう」と。





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