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”Enigmatic”by Niemen
このところ、仕事上やら日常の人間関係やらでつまらない行き違いが多く、すっきりしない気分が続いている。なんだかいつまでもシトシトと降り続いて嫌な雨だなあ、などと思いながらさっきから座り込んでいたのだが、ふと窓を開けてみると雨など降ってはいず、乾いた道路に冷たい月の光が降り注いでいる。
こんな気分の時はそれを慰めるような音楽をなどと、これぞと思える盤を探し出し、かけてみればそれはたいていの場合まるで見当違いの選択であるのであって、その音楽のおかげでさらに気分は落ち込んでしまったりする。
というような聴き方をついしてしまうのが、この1960~70年代のポーランドを代表するロック・ミュージシャン、Niemen である。なんと言うか何をやってもついていない、なんて落ち込み気分の良き友、みたいなところがある。
ダサい長髪とヒゲと詰襟っぽいスーツが、まるで昔の安いサスペンスドラマに出てくるインチキ神父みたいにも見えるNiemenが、何本もの蝋燭が立てられた、こいつも怪しげな空間の真ん中でハモンドオルガンを弾いているジャケ、これがもうパッとしないのだが仕方がない。これがあの頃(1969年度作品)の東欧ロックのノリというものである。
冒頭からクラシック調の荘重な混声合唱と教会オルガン風のNiemenのプレイとの対話が続き、人の意識の闇の底に一気に引きずり込まれて行く。ドラムスのリズムを伴ってボーカルが聴こえてくるのは8分ほど経過した後。
Niemenの深い陰りのあるソウルフルなシャウトは、どうしてもその国の悲劇の歴史などに想いが行ってしまうポーランド語の独特のニュアンスと相まって、とてつもなく重い響きをもってこちらに伝わってくる。19世紀ポーランドの詩人の作品をもとに作られたアルバムと聞くが、どのような内容のものであるのか・・・
マシュー・フィッシャーみたいなタッチのオルガンのフレーズと詠嘆調の教会音楽っぽいメロディライン、そしてR&B色濃いボーカルは、当然ながらあのプロコル・ハルムなど思い起こさせるが、かのバンドのようなロマンは見当たらず、代わりにより深い思索性が感じ取れる・・・という方向にどうしても受け取ってしまうんだけど、悲痛極まる重苦しいボーカルを聴くにつけても、業の深い人だったんだなあなどとも感ずる。1939年生まれ、2004年没。
何はともあれ、60年代末の”あの時代”の深さ暗さ重さを煮締めたような作品といえよう。当時のポーランド・ロック界のレベルの高さにも驚嘆するしかない。