ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

失われた秋のために

2012-12-07 04:14:43 | ヨーロッパ

 ”300Miles”by Janet Dowd

 俺なんか日本人だからさあ、やっぱ秋になるとトラッドを聴きたくなるわけだよね。スコティッシュとかアイリッシュとかね。いいよなあ、あの荒れ狂っていた下品な夏の気配がいつの間にか去って。空気がシンと澄んでさ、空が高く高く感じられる季節がやってくる。トラッドの季節だ。
 旅に出たくなるよねえ。紅葉の中で落ち葉かなんか踏んで歩こうじゃないか。ティン・ホイッスルが朗々とエアーとか吹き鳴らすのが聴こえてくれば最高なんだけど、それは無理があるから、特に要望はしない。まあ、心の中で鳴っていればそれで十分だから。
 とはいえ、真夏が間を置かず真冬に直結するのが当たり前になった昨今では、秋なんて季節はもはやどこかに失われてしまった。今年もついに秋らしい日を感じることなく冬になってしまったよなあ。

 年々歳々人同じからず。我らは秋を失えど、海の彼方よりトラッドの新作は届く。
 北アイルランドの女性シンガー、2009年度作品。まあ、最近手に入れたんだから私にとっては新譜です。
 冒頭の一曲が流れ出すのを聴いただけで、いやあ、良い歌手だなあと彼女のファンになることを決めたのだった。澄んだ声で素直な歌唱を聴かせる。新鮮なミルクのような、あるいは牧場を覆う朝霧の手触りのような、生まれたての生命の息吹きが伝わってくるような爽やかさを伴う、素敵な歌声なのだ。しかもその素直さの中に一筋、アイドルっぽいと言ってもいいようなコロコロした媚びのようなニュアンスが潜んでいる。たまりまへんな。

 トラッド半分、オリジナル曲半分。そのトラッド部分の選曲が、Water is Wide とか、Lark in the Clear Air みたいな、もはやベタと言いたいような定番を持ってきているんだけれど、それが退屈じゃなくて新鮮なのだ。とはいえ、特に変わったアプローチをしているわけじゃなくて、彼女の素材勝負の歌いきり方が逆に新鮮なのだった。
 音を絞りきったバッキングも好感。これもまるで朝の通りで耳をすませると、どこからか聴こえてくる、くらいの静けさに満ちた佇まいで、聴かせる。

 失われた秋を想って、さあ、今夜も一杯・・・





最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
か・ん・ぱ・い… (///andSOon///)
2012-12-07 20:37:04
そのお酒、僕もご一緒させてください。秋はやっぱり!ウィスキーがいいですよね!それも、スコッチのロック!氷がグラスのなかで踊る音にも耳を澄ませたい!
返信する
///andSOon///さんへ (マリーナ号)
2012-12-10 02:02:15
私はアル中も最終段階に入ってますんで、酔えればなんでもいい、と。実は、中島らもの小説、「今夜、すべてのバーで」に出てくる、”医療用のアルコールの水割り」が妙にうまそうに感じられて仕方がない・・・
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。