ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

アララテの山から

2009-11-25 03:48:09 | アジア
 ”El qez chem sirum”by Lusine Aghabekyan

 アルメニアのポップス。というのは、これまでに2~3のCDを聴いたことがないでもない、くらいの付き合いであり、もちろん全然詳しくなんかない。歌手名がもう読めない。資料では、「ルシン・アガベキアン」となるらしいが。凄いよ、アルメニア文字の形って。ミャンマー文字と良い勝負じゃないのか。
 そもそも、イスラム教国居並ぶ西アジアにあって”最古のキリスト教国”の孤塁を守るなんてのは相当のつわものと言えるんではないか、アルメニアの国民性は。

 国土の90パーセントが海抜1000メートルの山地にあるなんてのは想像を絶する。そういえば首都の近くにそびえるアララテ山というのは、あの”ノアの箱舟”が洪水を乗り越えて漂着した地と言い伝えられている場所だった。
 その他、歴史の十字路とも呼ぶべき地勢にあるこの小国が舐めた、そして現在も解決の付いていない近隣諸国との紛争による苦難など・・・について語り始めたらキリはないし、当方の柄でもないのでやめておくが。ともかく音楽だってただ事で済むとも思えない。

 この盤、サウンドなどはこれまで聞いたアルメニアものの中では一番、”西アジアっぽさ”を感じさせない出来上がりになっている。現地では相当にお洒落な存在なのかも知れない、時にセクシー、時にコケティッシュな歌声を聴かせるこの歌手、アガベキアン嬢は。
 曲調にしても、なんか”雪が降る~あなたは来ない~♪”みたいなメロディが頻繁に出てきて、むしろ南欧のどこかの国のポップスと言われても信じてしまいそうな感触がある。西アジアっぽいイスラム臭さは、ほとんど感じられない。

 だがそれでも、旋律のあちこち、歌の節回しのそこここに潜む乾いた寂寥感が、この歌たちの本籍が風吹きすさぶ孤独な大地の果てにある事を、聴き進むうち、聴き手は深く心に受け止めるところとなるだろう。
 そう、寂寥感。そいつがこの音楽を特徴付ける最大のものといえるのではないか。欧米のロックをごく当たり前の顔して自分のものにしているバンドを従え、巧妙にショー・アップして歌い上げるアガベキアン嬢の歌の背後に吹き抜ける、遥か砂漠を旅して来た風たちの囁きが。





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