ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

トスカーナの夕影

2012-11-06 03:41:37 | ヨーロッパ

 ”L'ombra Della Sera”

 地の底から湧き出たる、陰々たる瘴気に満ちたメロディ。それは遠い昔に封印され、忘れ去られた筈の呪われた地下室の血の惨劇を物語る・・・
 イタリアのプログレ・バンドが発表した、1970年代イタリアのホラー映画へのオマージュ曲集である。ゴシック・ロマンっぽいジャケ写真にマニア心をくすぐられつつ中を覗けば、内ジャケのえげつない見開き写真に辟易させられる構造。イタリア人、濃いわ、やっぱり。

 なにしろかの国のプログレバンドのおどろおどろしくも重苦しいサウンドは、ホラー映画の映像に見事にマッチし、その種の映画のサウンドトラック作りはかの国のプログレバンドたちの良いバイト、いや収入の額から言えば、そちらがむしろ彼らの本職であった、などという話も聞いている。

 メロトロン、ミニムーグなどという、どちらかといえば過去の遺物くさい楽器群がくすんだ音像の壁を作り、70年代プログレ臭は濃厚に漂う。奏でられるのは荘重にして悲嘆に満ちたクラシカルなロック組曲。とても2012年、この時代に世に出た音盤とも思えぬ。
 ロックバンドの割にはメンバーにギタリストがおらず、代わりに前面に出て悲嘆の絶唱を聴かせるのは、なんとエフェクト処理をかまされたテルミンである。ヒュンヒュンとユラユラと揺らめき身悶えるその音像は、まさに現世と幽冥境との境目が失われた負の祝祭を統べる者の仮の姿にふさわしいものがある。

 終盤に至り、不意に鳴り渡るトランペットの響きにはやられた。その哀感あふれる侘しい音色は、昔々、確かにイタリア映画や、それからイタリア産のツイスト・ナンバーなどでいつも鳴り渡っていたあれだ。
 しかし時は過ぎ、東の空にいつしか日の出の気配が忍び寄る。かくて棺桶の蓋は閉じられ、幻の館は霧の中に姿を消す。そしてクソ面白くもない正論の罠は、元通り我が人類の世界を覆うのである。




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