”寄付”by 秀蘭瑪雅
大昔、中国人がやってくる前から台湾に住んでいたという山地先住民族の血を引き、かって日本が台湾を植民地支配していた頃の置き土産である演歌を歌う。しかも、かの地では多くの場合、下働きの人たちの言葉である台湾語で。なおかつ、黒人のR&Bの影響を受けたブルージィな節回しという、妙な趣向付きで。
もう・・・何枚、負のカードを集めれば気が済むんだ、と尋ねたくなるキャラ設定の秀蘭瑪雅の新譜であります。まあ彼女にしてみれば、普通に生きてきた結果、そうなってしまっただけなんだろうけど。
いや、演歌をソウルっぽくブルースっぽく歌う、というのは、あえて彼女が選んだ道なんだろうな。それでも彼女の”黒っぽい”演歌は幅広く台湾の人々の支持を集めているようで、彼女の年齢を思えば意外なくらい多種のアルバムが市場には出回っているのだった。
この最新アルバム、現地の言葉で言えば懐念的というのだろうか、どれもがゆったりとしたテンポのしみじみと懐かしい手触りの曲ばかりが収められている。黒っぽいフレージングは演歌のコブシとないまぜになり、メロディの間に染み馴染んでしまっている。
この年の瀬に聴けば、台湾の地に足を下ろしたことのない身にもその溢れる感傷は胸に迫り、かの島の磯辺の岩間に打ち寄せる波の音にも心騒ぐ思いだ。行ったこともない台湾の地へ帰りつきたい、そんな矛盾した旅情が足元に寄せる。
歌の中の「行ってしまったあなた」や「過ぎてしまった恋」は、つまりは全て「走り過ぎて行く時との戦い、それに決して勝つことのできない人間の定め」への嘆きなのだろう。
冬の陽光は穏やかに煌めき、寄せては返す東シナ海の波はBluesを知らない。