”The Bulgarian god”by Epizod
ブルガリアのややプログレがかったハードロックのバンドである。内容は、かってブルガリアがオスマン・トルコの支配を脱した際に活躍した国民的詩人の作品を音楽化したもののようだ。
1曲目、大掛かりな賛美歌風コーラスが立ち上がり、その音の壁を突き破るようにして、重戦車のようなロックバンドの音が押し寄せてくる。太く歪んだギターのリフ、男たちの野太い声で聴かせるブルガリア語の荒々しいコーラス。哀愁を含んだマイナー・キーの旋律が東欧気分を大いに盛り上げる。
そもそもこの大仰な重苦しさ、ある種のダサさ、いかにも元共産圏の国のバンドらしい持ち味と思え、そのあまりの典型ぶりに、ちょっと微苦笑を誘われないでもない。内ジャケを検めれば、揃いも揃って長髪、サングラス、ヒゲ、革ジャンのメンバーの写真が今どき暑苦しい。ちなみにこの盤は2002年録音。
バンドの結成は1988年で、その直後、ブルガリアの一党独裁政権が倒れたのちに行なわれた国内初のロックコンサートへの出演を、バンドの輝かしい歴史として彼らは誇りに思っているようだ。80年代の終わりに歴史が強烈にスイングしたあのひとときの血の騒ぎを、その魂として燃やし続けているバンド、そんな連中なのだろう。
曲は進み、民族楽器の響きに導かれ、ゲストの少年合唱団や民謡歌手たちも加わっての大コーラスが披露され、「ブルガリア魂は死なず!」とか、そんなシュプレヒコールが聴こえてくるような雰囲気。
西欧の、いわゆるハードロックのバンドをそのままお手本にしたようなサウンドに比較して、彼らの持ち歌は相当にブルガリアの民族の血を意識して作られたものと感じられる。どれも重苦しく強い哀愁の感じられる土臭いメロディばかりだ。時にロシア民謡めいてみたりする、そのメロディに乗せて、男臭いボーカルは張り詰めた感情を剥きだしにして、重く雲の垂れ込めた空に突き刺さる。ディストーションのかかった重たいギターのリフをお供に。
その無骨な感情表現を、だが、稚拙と笑う気にはなれない。アジアとヨーロッパとの狭間にあり、常に異民族からの脅威に晒されてきた歴史を持つ小国の国民の、これは切実な想いなのだろう。つたなさダサさを越えて響いてくるがゆえに、かえってその想いの一途さに胸を打たれるのだ。
以上、今この時にも恐怖に打ちのめされそうになり、明けない夜の闇を見つめているのであろう新疆のウイグルの、あるいはその他、不当な暴力にさらされている世界中のすべての人々にこの文章を捧ぐ。つたない、想いの尽くせない文章で申し訳ないが。