”Ibulong”by Shiella Mae
フィリピンのポップスというものがワールドミュージック者の当方としては、どうも取っ掛かりがつかめないまま今日に来てしまっている。かの国のポップス、英語で歌われるものが多かったり、いかにも”アメリカじこみの本格派エンターティメント”な芸風の人とかにやたら出会ったりして、どうも興ざめになってしまったりする事が多いのである。そうなってしまう国情というものがあるんだろうから、ヨソモノの野次馬が批判がましい事もあまり言うものじゃないんだろうけど。
で、当方としては唯一、かの国で好ましく感じられる”タガログ語ポップス”という奴を探していろいろジタバタする事になるわけなんですが。いや、もしかしたら先に述べたような、アメリカのそれと変わらないポップスが英語で歌われているような”フィリピンもの”を愛好するのが通人なのかも知れず。
などと余計な事をぼやきながら、手に入れたばかりのタガログ語ポップス若手のホープ(なんだろうと思う)、shiella mae嬢のアルバムを聴いてみるのだけれど。
うわ、こりゃ切ない。期待を裏切らぬどころか、ちょっと待ってくれと悶えちゃうような出来上がりだったのですわ、これが。
多用されるメジャー・セブンス系の和音が、行き惑う青春の懊悩と若い血潮のざわめきを伝えて来ます。ボコボコと呟きを繰り返すベースの導く16ビートは、かの島国を取り巻く輝く海と、その上に照りつける陽光の恵みを歌っています。
そしてshiella の、ややハスキーでパワフルな歌声は実に素直に、与えられたフォーク・ロック調の、いかにも青春、みたいな切ないメロディラインの収録曲を歌いこなして行く。
どの曲も、立ち止まって思い悩む事はあっても決して絶望的にはならない魂を感じさせる、独特の輝きを持っている。片方に憂いを秘めつつも、その一方で南国の太陽を目指して伸び伸びと枝葉を茂らす逞しい木々の生命力が息ずいている。良い感じだ。
歌詞カードを開くと、かなりでかい文字で”Words and Music By ; Ronald Paderes”とあるのだけれど、高名なソングライターなんだろうか。
いくらでも声を張れそうな歌声なのにそうはせずに、あくまでもさりげない表現で曲に込められた感傷を編み上げて行くshiella の歌唱センスも良い感じ。達者なギターに率いられ、余計な音は一つも出さずにシンプルなサウンドに徹したバックのバンドも好印象。
こいつは期待以上の拾い物でした。というかほんとにわが青春の古傷に妙に絡んでくるメロディが多いんだなあ。それにやられちゃいました。そして唄と演奏のさりげない良さに。