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裁判所構成法を読む 103条-124条 第3編司法事務ノ取扱第1章-第3章

2024年02月19日 | 治罪法・裁判所構成法
公布:明治23年2月10日
施行:明治23年11月1日(上諭)

裁判所構成法を読む 103条-124条
第3編司法事務ノ取扱第1章-第3章

第3編 司法事務ノ取扱
第1章 開廷

#裁判所構成法
第103条 開廷ハ裁判所又ハ支部ニ於テ之ヲ爲ス。
2 司法大臣ニ於テ、事情ニ因リ必要ナリト認ムルトキハ、區裁判所ヲシテ其ノ管轄區域内ノ一定ノ場所ニ於テ職務ヲ行ハシムルコトヲ得。
(コメント)
「開廷」につき規定しているのが本章である。開廷は裁判所又は支部においてするのが原則である(区裁判所につき例外あり;本条2項)。

#裁判所構成法
第104条 訴訟審問ノ上席及ビ指揮ハ、合議裁判所ニ於テハ、開廷ヲ爲シタル裁判長ニ屬シ、區裁判所ニ於テハ、開廷ヲ爲シタル判事ニ屬ス。
2 裁判長ニ屬スル權ハ、裁判上一人ニテ執務スル判事ニモ亦屬ス。
(コメント)
訴訟審問の上席及び指揮権は、合議裁判所では裁判長にある。区裁判所は単独裁判官であるので、開廷をなした判事がその権限を行使する。

#裁判所構成法
第105条 裁判所ニ於テ、對審ノ公開ヲ停ムルノ決議ヲ爲シタルトキハ、其ノ決議ハ其ノ理由ト共ニ公衆ヲ退カシムル前之ヲ言渡ス。此ノ場合ニ於テ、裁判所ノ判決ヲ言渡ストキハ、再ビ公衆ヲ入廷セシムべシ。
(コメント)
裁判は公開が原則であるが、安寧秩序又は風俗を害するおそれがあるときは、法律により、又は、裁判所の決議をもって、対審の公開を停めることができる(帝国憲法59条)。裁判所構成法では、裁判所の決議で対審公開の停止をするときの手続きにつき定める。

#裁判所構成法
第106条 裁判長ハ、公開ヲ停メタルトキモ、入廷ノ特許ヲ與フルコトヲ至當ト認ムル者ヲ入廷セシムルノ權ヲ有ス。
(コメント)
前条で裁判公開原則の例外を規定しているが、そのような場合でも、裁判長の裁量で入廷を認めることはできることを本条は規定する。

#裁判所構成法
第107条 裁判長ハ、婦女・兒童及ビ相當ナル衣服ヲ著セサル者ヲ、法廷ヨリ退カシムルコトヲ得。其ノ理由ハ之ヲ訴訟ノ記録ニ記入ス。
(コメント)
裁判は公開が原則であることは帝国憲法にも規定されているが、本条により婦女や児童は退廷を命じることができた。現行法にはこのような差別的な規定は存在しない。

#裁判所構成法
第108条 開廷中秩序ノ維持ハ裁判長ニ屬ス。
(コメント)
法廷の秩序維持に関する規定。現行裁判所法にも同様の規定がある。「法廷における秩序の維持は、裁判長又は開廷をした一人の裁判官がこれを行う。」(裁判所法71条1項)

#裁判所構成法
第109条 裁判長ハ、審問ヲ妨グル者又ハ不當ノ行状ヲ爲ス者ヲ、法廷ヨリ退カシムルノ權ヲ有ス。
2 前項ニ掲ゲタル違犯者ノ行状ニ因リ、之ヲ勾引シ閉廷ノトキマデ之ヲ勾留スルノ必要アリト認ムルトキ、裁判長ハ之ヲ命令スルノ權ヲ有ス。閉廷ノトキ裁判所ハ之ヲ釈放スルコトヲ命ジ又ハ五圓以下ノ罰金若ハ五日以内ノ拘留ニ處スルコトヲ得。
3 此ノ處罰ニ對シテハ、上告ヲ許シ、控訴ヲ許サズ。且其ノ所爲ノ輕罪若ハ重罪ニ該ルべキモノナルトキハ、之ニ對シテ刑事訴追ヲ爲スコトヲ得。
(コメント)
法廷の秩序維持のため、裁判長は退廷権限を有する。退廷させることができる者は、「審問ヲ妨グル者又ハ不當ノ行状ヲ爲ス者」であり、この点は現行裁判所法71条2項とほぼ同様である。

#裁判所構成法
第110条 前條ノ規程ハ、左ノ變更ヲ以テ當事者・證人及ビ鑑定人ニモ亦之ヲ適用ス。
第一 裁判所ハ閉廷ヲ待タズシテ、本條ノ違犯者ヲ即時ニ罰スルコトヲ得。
第二 違犯者原告ナルトキハ、裁判所ハ處罰ノ上、仍本人宥恕ヲ請フカ又ハ恭順ヲ表シテ不敬ノ罪ヲ謝スルマデ其ノ審問ヲ中止スルコトヲ得。
(コメント)
当事者・証人らが、「審問ヲ妨グル者又ハ不當ノ行状ヲ爲ス者」の場合の特則。①開廷中でも違反者を処罰できる、②違反者が原告のときは本人が謝罪するまで審問を中止できる。

第2章 裁判所ノ用語
#裁判所構成法
第115条 裁判所ニ於テハ、日本語ヲ用ウ。
2 當事者・證人又ハ鑑定人ノ中、日本語ニ通セザル者アルトキハ、訴訟法又ハ特別法ニ通事ヲ用ヰルコトヲ要スル場合ニ於テ、之ヲ用ウ。
(コメント)
裁判所では日本語を用いる(現行法にも規定あり;裁判所法74条)。しかし、すべての場合に通事を用いるのではなく、訴訟法又は特別法に通事(通訳)が必要と規定している場合にのみ裁判所は通事を用いる。

#裁判所構成法
第116条 通事ノ任命及ビ使用、竝ビニ訴訟手續上其ノ行フべキ職務ニ關ル規則ハ、司法大臣之ヲ定ム。
(コメント)
通事(通訳)の法的根拠については前条(115条)。本条で、通事に関する規則を司法大臣に委任している。

#裁判所構成法
第117条 通事ノ得難キ場合ニ於テ、書記其ノ言語ニ通ズルトキハ、裁判長ノ承諾ヲ得テ、通事ニ用ヰラルルコトヲ得。
(コメント)
適切な通事が見当たらないが、書記が当該言語に通じるときは、書記が通事を行うこともできるとの規定。通事や書記の育成システムができておらず、裁判所の書記に多様な人材がいたことがうかがえる。

#裁判所構成法
第118条 外國人ノ當事者タル訴訟ニ關係ヲ有スル者、及ビ其ノ訴訟ノ審問ニ参與スル官吏ノ或ル外國語ニ通ズル場合ニ於テ、裁判長便利ト認ムルトキハ、其ノ外國語ヲ以テ、口頭審問ヲ爲スコトヲ得。但シ其ノ審問ノ公正記録ハ、日本語ヲ以テ之ヲ作ル。
(コメント)
裁判所では日本語を用いるというのが原則であるが(裁判所構成法115条1項)、本条により例外的に外国語で審問を行うことができるとの規定。条約改正問題で外国人に配慮した規定でおる。現行法にはこのような規定は存在しない。


   第3章 裁判ノ評議及ビ言渡
#裁判所構成法
第119条 合議裁判所ノ裁判ハ、此ノ法律ニ從ヒ、定數ノ判事之ヲ評議シ及ビ之ヲ言渡ス。
(コメント)
区裁判所は判事一人で裁判を行うが、地裁、控訴院、大審院は合議裁判所である。この場合、定数の判事が評議をし、言渡しを行わなければならない。

#裁判所構成法
第120条 四日以上引續クべキ見込アル刑事ノ審問ニ於テ、裁判所長ハ補充判事一人ヲ命ジ、之ニ立會ハシムルコトヲ得。此ノ補充判事ハ、其ノ審問中或ル判事ノ疾病其ノ他ノ事故ニ因リ、引續キ参與スルコトヲ得ザル場合ニ於テ、之ニ代リ審問及裁判ヲ完結スルノ權ヲ有ス。
(コメント)
補充判事に関する規定。現行法でも、「補充裁判官」の表題のもとに同趣旨の規定が存在するが(裁判所法78条)、活用されてはいないようだ。連日開廷を前提とした規定だが、実務では五月雨式が定着してしまったからであろう。

#裁判所構成法
第121条 判事ノ評議ハ之ヲ公行セズ。但シ、豫備判事及ビ試補ノ傍聴ヲ許スコトヲ得。
2 判事ノ評議ハ、其ノ裁判長之ヲ開キ且ツ之ヲ整理ス。其ノ評議ノ顛末、竝ビニ各判事ノ意見、及ビ多少ノ數ニ付テハ、嚴ニ秘密ヲ守ルコトヲ要ス。
(コメント)
評議の秘密。現行法(裁判所法75条)にもこの条文がほぼ受け継がれている。
裁判所法第七十五条(評議の秘密) 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
② 評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。

#裁判所構成法
第122条 評議ノ際、各判事意見ヲ述ブルノ順序ハ、官等ノ最モ低キ者ヲ始トシ、裁判長ヲ終トス。官等同キトキハ、年少ノ者ヲ始トシ、受命ノ事件ニ付テハ、受命判事ヲ始トス。
(コメント)
評議の際の意見を述べる順序についての規定。官等の低い者、年少の者から始めるべきというのは、長幼の序が重んじられていた時代背景があるのでしょう。現行法では、このような規定はなく、裁判官が評議で意見を述べなければならないとの規定のみ置かれている(裁判所法76条)。

#裁判所構成法
第123条 裁判ハ過半數ノ意見ニ依ル。
2 金額ニ付、判事ノ意見三説以上ニ分レ、其ノ説各々過半數ニ至ラザルトキハ、過半數ニ至ルマデ最多額ノ意見ヨリ順次寡額ニ合算ス。
3 刑事ニ付、其ノ意見三説以上ニ分レ、各々過半數ニ至ラザルトキハ、過半數ニ至ルマデ、被告人ニ不利ナル意見ヨリ順次利益ナル意見ニ合算ス。
(コメント)
評決について。現行法(裁判所法77条)にもこの条文がほぼ受け継がれている。裁判は過半数の意見によること、意見が三説以上に分れ、その説が各々過半数にならないときの処理方法。

#裁判所構成法
第124条 判事ハ、裁判スべキ問題ニ付、自己ノ意見ヲ表スルコトヲ拒ムコトヲ得ズ。
(コメント)
判事の意見表明義務を期待したもの。評議をするためには意見表明が必要だからである。現行法でもこの点は引き継がれている(裁判所法76条)。
第七十六条(意見を述べる義務) 裁判官は、評議において、その意見を述べなければならない。


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