南斗屋のブログ

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”将来の介護料は廉価になる”という一部裁判例の見方

2007年08月01日 | 交通事故民事
 さて、前回、将来の介護料について触れましたが、その中で、裁判の基準は、
「職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日8000円。」
というような基準が一応定められているということを説明いたしました。

 もっとも、裁判官の中には、次のような考え方から、実際に職業付添人の費用がかかっていたとしても、職業付添人の費用を日額1万2000円とするような人もいます。

 その考え方とは、

”今後の介護サービスの充実により、現在よりも廉価で広範な介護サービスが受けられるようになる可能性は否定できない”

というものです。
 (この考え方をとる裁判例として、大阪地裁平成18年10月23日判決自保ジャーナル1694号があります)
 
 この考え方は、将来の介護料について大変楽観的ですが、はたしてそのようにいえるのでしょうか?

 7月26日付読売新聞には「福祉・介護の給与引き上げ、人材確保へ厚労省が諮問」という記事が出ていました(最下部に全文を引用しておきます)。

 この記事には、
1 介護保険上介護が必要な人は、
 2004年の約410万人から2014年には最大640万人に増える
2 そのため、必要な介護職員数は現在の約100万人(04年)から2014年には140~160万人になる
3 一方、介護職員の給与水準(05年)は、全労働者の平均453万円を大きく下回っており(男性の福祉施設介護員で年収315万円、女性のホームヘルパーは262万円)、離職率も高く、人手不足が生じている

という認識のもと、
 人材確保のためには、適切な給与水準の確保が必要である
と厚生労働省は結論づけているというのです。

 このように、介護のコストが増えるわけですから、それは当然介護サービスの料金に跳ね返ってくるはずです。

 介護料に楽観的な見方は、
 介護される人が増える→多様な介護サービスが生まれる→だから、競争が生まれてサービスも安くなる

と考えているのかもしれませんが、現実の介護サービスの担い手である労働者の現実を全然踏まえていない見方というほかはありません。

 コムスン問題を契機に、介護の人手不足という問題が見直されてきておりますので、是非裁判官にも認識を改めてもらいたいところです。


(2007年7月26日12時15分 読売新聞)
福祉・介護の給与引き上げ、人材確保へ厚労省が諮問
 厚生労働省は26日、福祉・介護分野の人材確保を図るための新たな指針をまとめた。給与水準の引き上げなど労働環境の改善が柱で、柳沢厚生労働相が同日、指針を社会保障審議会福祉部会に諮問し、了承された。

 指針では、介護保険制度の要介護認定者と要支援認定者が、2004年の約410万人から14年には最大640万人に増え、介護保険サービスの需要は一層拡大するとしている。必要な介護職員数は現在の約100万人(04年)から14年には140~160万人になると推計している。

 一方、介護職員の給与水準(05年)は、男性の福祉施設介護員が年収315万円、女性のホームヘルパーは262万円と全労働者の平均453万円を大きく下回っており、離職率も高く、人手不足が生じていると指摘した。

 このため、人材確保のため、福祉・介護施設の経営者や国、地方自治体に対し、適切な給与水準の確保を求めた。

 また、経験に応じて職員の地位向上につながるキャリアアップの仕組みが必要とした。具体的には、現在の介護福祉士より専門的知識や経験を持つ「専門介護福祉士」(仮称)の創設などを検討する。

 このほか、<1>介護福祉士の有資格者約47万人のうち、就業していない約20万人の再就業の促進<2>高齢者やボランティアらが参入しやすい研修制度の整備――なども明記した。

 介護の人手不足を外国人労働者で補うとの考えについては、日本人の雇用機会を奪ったり、賃金のさらなる低下を招く懸念などから、「慎重な対応が必要」とした。

 指針は今後、社会保障審議会で決定され厚生労働相に答申されるが、給与引き上げなどにあたっては財源の確保が焦点となる。介護報酬の見直しに伴う保険料の負担増や職員に対する事業収入の配分のあり方などが議論になりそうだ。




コメント (1)
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