さて、今朝の『ゲゲゲの女房』第7話に登場した施灸シーン。鍼灸師の立場から解説させていただこうと思います。
まずはそのシーンを振り返ってみましょう。主人公の布美枝が母・ミヤコにお灸をすえているシーンでございます。
母「配達行くなら早い方がええよ、雨になるけぇ」

布「よく当たるもんねー、お母さんのリウマチ天気予報」
母「フフッ・・・」

布「配達の帰りにもぐさ買って帰って来るけんね」
母「だんだん」 (←山陰地方の方言で「ありがとう」の意味)

ナレーション「ミヤコは持病のリウマチが年とともに悪くなり、家事に、酒屋の手伝いに、布美枝は我が家に欠かせない存在になっていました」
とまぁこんなシーンでございました。
わずか28秒足らずのシーンでしたが、ここからでも多くの情報が読み取れます。
まずはお灸の種類。母・ミヤコにすえているお灸は隔物灸と呼ばれる温灸の手法でございます。薄くスライスしたにんにく、もしくはしょうがの上に円錐状に形を整えたもぐさを乗せ、そこに線香で火を付けます。もぐさは少しずつ燃焼し、ほんのり温かくなって参ります。しばらくして熱く感じたらすぐにもぐさを除けます。・・・あの大きさのお灸ですからね、全部燃えるまで我慢していたら大やけどになっちゃいますよ(笑)。温灸ですから絶対に熱さを我慢してはいけません。
こういう事情を知らなければ、せっかくの心地良いお灸が「熱そう」「痛そう」と誤解されてしまいます。実際にやってみると温かくて気持ちのいいお灸なんですよ~。
この灸法、基本的にこれは補法の灸なのですが、技術指導が行き届かなかったのでしょうか。母親役の古手川祐子さん、お灸に息を吹きかけて火を強めようとしてしまいました。息を吹くと瀉法になってしまうので、厳密に言えば自然に燃焼させた方が望ましいです。
はいはい、手厳しく参りますよ(笑)。
お母さんはリウマチとの事ですが、布美枝のセリフから湿度が上がると調子が悪くなる事がわかりますから、おそらくこれは湿邪によって起こる関節痛ではないかと推測されます。精気の虚に湿邪が加わる事で病理の虚(この場合は脾虚)が起こったのではないでしょうか(鍼灸学生さんは素問の『至真要大論第七十四』と『宣明五気篇第二十三』をご参考ください)。
脾虚になると胃腸の働きが低下し、体表からの陽気の発散が上手く出来なくなり、内側に水の停滞が起こります。この水の事を「湿」と呼ぶわけですが、湿が多くなるとさらに陽気の発散が悪くなり、またまた水の停滞が起こるという悪循環に陥ります。この状態にある時、例えば暴飲暴食や過労などで陽気の発散が悪くなると、体にどんどん熱がこもります。この熱は脾の支配部位である胃腸や肌肉、全身の関節、陽明経や太陽経という気の流れ道(経絡)などに停滞し、様々な症状を引き起こします。これがリウマチの古典的な病理状態でございます。
ここでひとつ疑問が生じませんか?熱の停滞で痛むのに、なぜお灸で温めるのでしょうか?簡単に説明すると、これは表の浅い部分を温める事で陽気の発散を促しているわけでございます。
熱の停滞している部分に熱を加えると、停滞していた熱が表面近くまで浮き出て参ります。ここまで出て来れば皮膚を介して勝手に発散されますから、温める事で結果的に熱が取れるというわけでございます。
・・・はい、この辺で鍼灸師さん以外は全員「?」状態だと思われますが、続けます。
リウマチの初期は太陽経の実熱なのですが、慢性化してくると熱が内攻して陽明経の実熱となります。関節が腫れ、なかなか痛みが取れない状態です。熱を発散できないので、陽明経が働く昼下がりになるとさらに激しく痛みます。
このシーンの前に布美枝の妹があんこ餅を食べているシーンがあり、そこでおばあちゃんから「またミヤコのリウマチが出て・・・」と聞かされ、その後の施灸シーンへとつながっています。

このシーンがおやつ時という事は、おそらく施灸シーンは午後3時過ぎの設定。リウマチの発作がひどく出やすいのはこの時間帯以降ですから、細部まで上手に演出されているなぁと感心しちゃいました(笑)。
お灸をすえている場所はおそらく手の陽明大腸経にある手三里という経穴(ツボ)。というわけで、布美枝の母・ミヤコは脾虚陽明経実熱証だと推測する事が出来ます。
ちなみにですけどね。
布美枝が使用している紺色の線香は、おそらく私が普段使用している線香と同じもの。淡路島産の椨(タブ)線香でございます。お灸をすえる際に使用する線香は仏事用の杉線香とは全くの別物なんですよ。
また布美枝のセリフにもあるように、一昔前までは薬局でもぐさが買えたそうなんですよ。今は薬局で買えるお灸は「せんねん灸」くらいかなぁ?一般向けにはほとんど売られていないと思います。
どうでしょう?こうして別の角度から観てみると、また違った楽しみ方が出来るでしょ?
以前書いた事がありましたけれど、時代劇によくある漢方医が出てくるシーンなども、こういう観方をすると非常に面白いですよ(^^)ノシ
まずはそのシーンを振り返ってみましょう。主人公の布美枝が母・ミヤコにお灸をすえているシーンでございます。
母「配達行くなら早い方がええよ、雨になるけぇ」

布「よく当たるもんねー、お母さんのリウマチ天気予報」
母「フフッ・・・」

布「配達の帰りにもぐさ買って帰って来るけんね」
母「だんだん」 (←山陰地方の方言で「ありがとう」の意味)

ナレーション「ミヤコは持病のリウマチが年とともに悪くなり、家事に、酒屋の手伝いに、布美枝は我が家に欠かせない存在になっていました」
とまぁこんなシーンでございました。
わずか28秒足らずのシーンでしたが、ここからでも多くの情報が読み取れます。
まずはお灸の種類。母・ミヤコにすえているお灸は隔物灸と呼ばれる温灸の手法でございます。薄くスライスしたにんにく、もしくはしょうがの上に円錐状に形を整えたもぐさを乗せ、そこに線香で火を付けます。もぐさは少しずつ燃焼し、ほんのり温かくなって参ります。しばらくして熱く感じたらすぐにもぐさを除けます。・・・あの大きさのお灸ですからね、全部燃えるまで我慢していたら大やけどになっちゃいますよ(笑)。温灸ですから絶対に熱さを我慢してはいけません。
こういう事情を知らなければ、せっかくの心地良いお灸が「熱そう」「痛そう」と誤解されてしまいます。実際にやってみると温かくて気持ちのいいお灸なんですよ~。
この灸法、基本的にこれは補法の灸なのですが、技術指導が行き届かなかったのでしょうか。母親役の古手川祐子さん、お灸に息を吹きかけて火を強めようとしてしまいました。息を吹くと瀉法になってしまうので、厳密に言えば自然に燃焼させた方が望ましいです。
はいはい、手厳しく参りますよ(笑)。
お母さんはリウマチとの事ですが、布美枝のセリフから湿度が上がると調子が悪くなる事がわかりますから、おそらくこれは湿邪によって起こる関節痛ではないかと推測されます。精気の虚に湿邪が加わる事で病理の虚(この場合は脾虚)が起こったのではないでしょうか(鍼灸学生さんは素問の『至真要大論第七十四』と『宣明五気篇第二十三』をご参考ください)。
脾虚になると胃腸の働きが低下し、体表からの陽気の発散が上手く出来なくなり、内側に水の停滞が起こります。この水の事を「湿」と呼ぶわけですが、湿が多くなるとさらに陽気の発散が悪くなり、またまた水の停滞が起こるという悪循環に陥ります。この状態にある時、例えば暴飲暴食や過労などで陽気の発散が悪くなると、体にどんどん熱がこもります。この熱は脾の支配部位である胃腸や肌肉、全身の関節、陽明経や太陽経という気の流れ道(経絡)などに停滞し、様々な症状を引き起こします。これがリウマチの古典的な病理状態でございます。
ここでひとつ疑問が生じませんか?熱の停滞で痛むのに、なぜお灸で温めるのでしょうか?簡単に説明すると、これは表の浅い部分を温める事で陽気の発散を促しているわけでございます。
熱の停滞している部分に熱を加えると、停滞していた熱が表面近くまで浮き出て参ります。ここまで出て来れば皮膚を介して勝手に発散されますから、温める事で結果的に熱が取れるというわけでございます。
・・・はい、この辺で鍼灸師さん以外は全員「?」状態だと思われますが、続けます。
リウマチの初期は太陽経の実熱なのですが、慢性化してくると熱が内攻して陽明経の実熱となります。関節が腫れ、なかなか痛みが取れない状態です。熱を発散できないので、陽明経が働く昼下がりになるとさらに激しく痛みます。
このシーンの前に布美枝の妹があんこ餅を食べているシーンがあり、そこでおばあちゃんから「またミヤコのリウマチが出て・・・」と聞かされ、その後の施灸シーンへとつながっています。

このシーンがおやつ時という事は、おそらく施灸シーンは午後3時過ぎの設定。リウマチの発作がひどく出やすいのはこの時間帯以降ですから、細部まで上手に演出されているなぁと感心しちゃいました(笑)。
お灸をすえている場所はおそらく手の陽明大腸経にある手三里という経穴(ツボ)。というわけで、布美枝の母・ミヤコは脾虚陽明経実熱証だと推測する事が出来ます。
ちなみにですけどね。
布美枝が使用している紺色の線香は、おそらく私が普段使用している線香と同じもの。淡路島産の椨(タブ)線香でございます。お灸をすえる際に使用する線香は仏事用の杉線香とは全くの別物なんですよ。
また布美枝のセリフにもあるように、一昔前までは薬局でもぐさが買えたそうなんですよ。今は薬局で買えるお灸は「せんねん灸」くらいかなぁ?一般向けにはほとんど売られていないと思います。
どうでしょう?こうして別の角度から観てみると、また違った楽しみ方が出来るでしょ?
以前書いた事がありましたけれど、時代劇によくある漢方医が出てくるシーンなども、こういう観方をすると非常に面白いですよ(^^)ノシ
ん~~、お灸も奥が深い。
・・・あ、岡山遠征お疲れ様でした!