瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

君と一緒に(目次)

2011年11月13日 01時02分41秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
このシリーズは長崎ハウステンボスを舞台に、ワンピースキャラを(勝手に)活躍させての二次同人パラレルストーリーで御座います。
その上でルフィとナミが恋人同士という設定のルナミ編~ゾロとナミが恋人同士という設定のゾロナミ編~サンジとナミが恋人同士というサンナミ編~パウリーとナミが兄妹同士というパウリー&ナミ編と、全4編の構成になる…予定ですが、延びぃ~延びぃ~書いてて、現在ルナミ編が漸く完結、ゾロナミ編迄来た所です。(汗)
また各編は繋がっていつつも独立しており、1つの編を読むだけでも話は通じるかと…通じなかったら御免。(汗)

自分が訪れた際に観た風景、した体験を参考に書いてるとは言え、時が経ってる為に現在はかなり違って来ています。
もしも実際にハウステンボスに行ってみて、何か色々違ってても怒らないでね。(汗)


・打ち上げろ!(ルナミ編)…() () () () () () () () () (10) (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19

・好きにしろ!(ゾロナミ編)…() () (
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君と一緒に(ゾロナミ編―その3―)

2011年11月13日 00時54分13秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)





「生意気女」、「男女」と影で罵られていた。
「顔は可愛いのに」と残念がる者も居た。
確か俺より2つ上だったから、今は21になる筈。
無骨な面を外して頭に巻いた手拭いを脱ぐと、意外にも繊細な造りの顔が現れた。
汗が滑る白いうなじ、整った目鼻立ち、記憶を辿れば結構な美少女だったかもしれない。
その気高さ強さ故に他人を遠ざけ、俺以外に友達は居ないようだった。
いや、現在音信不通という事は、俺ですら友達と認められてなかったのかも。
孤独なんぞ屁でもない顔で素振りに励む師範の娘に、俺は入門早々試合を申し込んだ、そしてあっさり負けた。
道場に通うまでは負け知らずのお山の大将だったから、その晩は一睡も出来ず枕に悔し涙をたっぷりと吸わせた。
明くる日には涙も涸れ、懲りずに勝負を挑み、また負けた。
来る日も来る日も負け負け負けの連荘、猛練習しても勝てない俺を、くいなは「弱い男」と嘲った。
ああそうだ、思い出した、あいつの名前――「くいな」って言ったっけな。

2千敗を数える頃、東京へ引っ越す事が決まった俺は、あいつを空地へ呼寄せ、最後の対戦を申し込んだ。
負けっ放しの弱い男のまま別れたくねェ、せめて最後くらい引分けて、好敵手として覚えられたい。
季節は春だったか夏だったか、周りの田圃に水が張ってあって、鏡みてェに満月を映してたから多分夏だ。
あいつが竹刀を振るう度に空気が凛と震え、ゲコゲコ煩い蛙の声が静まった。
闇夜に鋭く光る瞳は俺の動きを一瞬たりと見失わず、追い詰められた果て竹刀が地に打ち捨てられた。

「私の…2千1勝!君の2千1敗ね!」

落ちて転がる竹刀を拾おうと屈んだ俺の喉元、あいつは剣先を突きつけて勝ち誇った。
せめて対等に見られたかったのに、結局無様な負け犬のまま…弱い奴と哂われて、何時か忘れられると思ったら、悔しいよりも悲しくて涙が零れた。
「ちくしょう!ちくしょう!」と鼻水垂らして、みっともなく喚く俺の頭上に、声がポツリと落ちて来た。

「そんなに悔しがる必要無いよ…すぐに私の事なんて追い抜いちゃうんだから」

か細く低い声、見上げたくいなの瞳は勝者らしからぬ悲愴を湛えていて、唇は泣きそうにわなないていた。

「…なんでおまえが悔しそうな顔してんだよ?」

俺より強いくせに、負けた事なんかないくせに。
竹刀を拾って立上り、向き合うと、自分の目線が若干下がる事に気が付いた。
何時の間にか俺の身長はくいなを追い越していた。
逆に見下ろされる形になったくいなの顔が、益々悲しげに歪んだかと思うと涙が零れ落ちた。
訳の解らない苛立ちが喉を突く。

「なんで勝ったおまえが泣くんだよ!?」
「だって、悔しいもん…!!」

目を爛々と輝かせ泣き叫ぶくいなを前に、俺は呆気にとられるしかなかった。
決闘前より高い位置に昇った満月が俺達を煌々と照らす。
涙で濡れたくいなの顔が、月光を受けて白く光ってた。

「…ゾロは良いね。男の子だから、鍛えた分だけ、どんどん強くなれる。
 でも私は女だから、鍛えても強くなれない。
 大人になったら、私はゾロに勝てなくなるんだよ。
 だって成長した後は、女は男より力が劣るから…!!」

そう言うと涙を手の甲で拭った、地面に落ちたくいなの竹刀がカランと音を立てた。

「私もゾロみたいに男の子に産れたかった…!!
 そしたら負けないのに、負けやしないのに…!!
 力に恵まれてるゾロが羨ましいよ…!!」
「卑怯な事ぬかしてんじゃねェ!!!!」

聞いてる内、怒りが猛烈にこみ上げた。
さっきとは逆にあいつの喉元へ、剣先を勢い良く突きつける。
驚いた拍子に泣き止んだくいなが、皿みたく真ん丸な瞳で俺の顔を見詰めた。

「男の俺は力に恵まれてて、女のおまえは力が劣ってるだと!?――誰がんな事決めたんだよ!?
 俺はライバルのおまえに勝ちたくて、毎日猛練習してんだぞ!!
 将来俺がおまえを負かしたなら、それは俺の方がおまえより強くなろうと努力した成果だ!!
 なのにおまえは俺に負けた時、『産れつき力が劣ってたせいだ』っつって言い訳する積りか!?
 剣士が勝負する前から逃げてんじゃねェ!!!!」

一気に捲し立てたら息が切れた。
呆気にとられたままのくいなの顔を見て冷静さが戻る、だが引下っては剣士の恥と開き直って畳み掛けた。

「誓え!!!将来、俺と世界最強の座を懸けて、正々堂々勝負する事を!!!
 その日まで、お互い鍛えるんだ!!!
 鍛錬怠って弱くなってたら許さねェぞ!!!」

竹刀を持ってない方の手を前へ差し出す。
くいなは涙と鼻水をシャツで拭うと、おもむろに顔を上げ、俺の手を強く握り締めた。

「…世界最強の座を懸けてなんて、よく言うよ!
 1度だって私に勝てた事無いくせに。
 でも、その意気を買って、認めたげる!
 あんたは私の生涯のライバル!だから…お互い今よりもっと強くなって、どっちが1番かを決しよう!!」
「おう!!約束だ!!!」

泣きながら笑うくいなの手を握り返して俺も笑った。


――約束、したじゃねェか…。


月光が急に強さを増し、見詰めていた顔を呑み込んだ。
真っ白い光の中ぼんやり浮ぶ輪郭が、次第に成長し別の女の顔に変った。
何時の間にやら夜が明けたらしい、眩しさに堪らず瞬く。
陽の光を背に、茶色い瞳とオレンジ色の髪をした女が、俺の顔をじっと見詰めていた。
老けたなぁ、くいな、と危うく口にしかけて気が付く――ナミだ。




「漸く、お目覚め?」
「ああ…もう朝か?」
「どころか…もう昼よ!!この万年寝ぼすけべ!!!」

――ゴォン!!!と除夜の鐘の音にも似た重たい拳の衝撃で、俺は夢から完全に覚める事が出来た。
欠伸をしながら伸びをして寝床を探る、手の平に湿った土が付着した。
花壇じゃねェか、我ながらよくも熟睡出来たもんだ。
Tシャツに手をゴシゴシ擦り付けてたら、ナミが鞄からウェットティッシュを取り出し拭いてくれた。

「顔にまで付いてるのか?」
「ええ、髪にも服にもべったりよ!水撒いたばかりだったのね」
「いいって!乾いた後叩きゃ落ちるだろ!」
「泥だらけの男を連れて歩く女の気持ちを察しなさいっつの!」

みっともねェから止めろってェのに、ナミはお節介を発揮し、爪先から天辺まで拭ってく。
終いにゃ消毒とばかりに、顔にべったり貼り付けられた。
おかげで剥がされた後も顔がスースー涼しくて、夏かと錯覚する陽の下でも暫く汗を掻かずに済んだ。
ナミがティッシュを捨てに行ってる間、辺りを見回すと、正面には洋風の城が建っている。
驚いたな、いつ外国へ来たんだ?
「…何処だ、ここは?」と放心して呟いたのが耳に届いたらしく、戻って来たナミは軽蔑の眼差しで「長崎よ」と答えた。

「長崎の、ハウステンボス!」
「長崎?って事は外国じゃなく、九州なのか」

目の前に堂々と建ってる城と、続く道は赤煉瓦造り。
成る程、噂に違わぬオランダ村だ、まるで日本に居る気がしねェ。

関東平野から遥々ここまで来た記憶まるでゼロ?苦労知らずで羨ましいわね、こっちは弁当作ったり洗濯する為に午前3時起きよ、なのにあんたは天使の寝顔で殺意マックス、いっそ置き去りにしてやろうと思ったけど、1人分キャンセル料ふんだくられるのは勘弁ならないわ、仕方なく踏んでも殴っても起きずに居るあんたを着替えさせ、引き摺ってJR・モノレール・飛行機・バスと乗り継ぎ辿り着いたってのに、あんたは花壇で寝こけたまま云々と、ナミが甲高い声で恨みつらみ罵りの言葉を並べ立てるのを、右耳から左耳へと適当に受け流す。
まぁ途中で落っことされず無事着けたのは何よりと、目立たぬように欠伸を噛殺した。

一頻り不満を吐き出したナミが静かになったところで、荷物だけ先に泊まるホテルへ送る事にする。
俺達が立ってる左横の小さな建物が、場内ホテルの受付らしかった。
扉を開けて入った中は、小じんまりした外観の割に豪華だった、天井にはシャンデリアが吊下がっている。
上品な物腰の受付係の女に、ナミが旅行鞄を預けてる様子を、俺は背後からボーっと眺めていた。
女が預り証を用意してる間、ナミは気さくに話しかけ、場内情報を仕入れようとする。
俺にはからきし外交の才が無い為、この手の役は自然とナミに任せきりだ。
丁度正反対に愛嬌良しで、如才ない受け答えを得意とするナミは、振り返るとチケット2枚+パンフを、1組俺の方へ寄越した。

「1枚は入場券、もう1枚は対象アトラクション利用券だって。2日間有効だから失くさないでね!」
「おまえが持っててくれよ。俺が持ってると確実に失くしちまいそうだ」

先だってもGパンの尻ポケットにしまった筈の1万円が煙の如く掻き消えた、俺とは正反対に管理能力も図抜けて高いナミは信頼置ける個人バンクでもあった。
まァつまりは生活の全ての面で、俺はナミに頼り切っている。
出会った頃は野良猫に懐かれた程度に考えてたってェのに、今では出会う以前どうやって独りで暮らしてたのか覚えてない。

「ま、確かに私が持ってた方が安全かもね!」

そう言って笑うとナミはパンフだけを手元に残し、チケットをしまったポーチは、肩から提げたエコバッグの中に放り込んだ。

「でもパンフは見るでしょ?入場前に興味の有るイベントとかチェックしといたら?」
「俺の事はいいから、おまえの好きにしろよ。俺はおまえの言われた通り付いてくだけだ」
「張り合いの無い…初めて来た場所だってのに、あんたに好奇心ってもんは無いの?」
「おまえが来たくて連れて来た場所だからな。好きにさせようって最初から決めてんだ」
「何その殊勝な態度。希少過ぎて不気味なんだけど…」
「いーからさっさと入ろうぜ!正午切っちまう」

薄気味悪がるナミを残し、俺はさっさと前方の城に向って歩き出す。
と、ナミが慌てて腕を引っ張り引き止めた。

「ちょっとゾロ、何処行く積り!?入口は後ろの建物の中よ!!」

――は!?後ろ!?

反射的に振り返り、そして改めて城の方へと顔を向けた。
日本には不似合いな、極めて目立つ、メルヘンじみた建物…んじゃあれは何だってんだよ???

「あれは場外ホテル!!ジェイアールとか言うホテルだって、マップに書いてある!後ろの建物が入国棟って言う、パークの入口なの!!」

ナミが指差す後方にも同じく赤煉瓦造りの建物、ナミの言う通りなら真ん中のトンネル潜った先に、パークへと続く入口が有るのだろう。
良く見りゃ風にはためく色彩豊かな旗が刺さってるその下、壁に「入口」との表示書きがされていた。
だが比べると明らかに後方のが地味、紛らわしい事この上ねェ!
入口は初めて来た人にも判り易く、派手目に造っとけよ!!
並木と花壇で城…ホテルへと続く道まで造ってあったら殆どの客が誘導されちまうわ!!
憮然として前後の建物を睨んでる俺を、ナミは馬鹿にするよう笑ってこう言った。

「迷子にならないよう、しっかり付いてくるのね、億年方向オンチさん!」





【続】


…入国棟よりも目立つ場外ホテルの公式サイトは こちら!(※回し者では非ず)
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君と一緒に(ゾロナミ編―その2―)

2011年02月06日 17時36分35秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)






カラオケ店を出て右に数歩進むと十字路に突き当たる。
その手前の角の公園には蒸気機関車――略すとSLだな――が停留してて、近所のガキ共からは「汽車ぽっぽ公園」と呼ばれてるんだそうだ。
高層ビルの谷間に有るせいで何時も強い風が吹いてる、バイト帰りに夕涼みしてくにはもってこいの場所だ。
あの日も門の側のベンチに座って、缶ビールを呑んでいた。


――7/3の晩の事だ。


漸く日が沈み、外灯が点った公園には、蝉の声が響いてた。
てっきり明るい内だけ鳴くもんだと思ってたから驚いたっけな。
1本目のビールは即空になり、2本目を開栓した。
缶を傾ければ自然と視線も上向く、夜の帳に猫の目みてェな形の月が浮んでた。
あっという間に2本目も空になって残りは1本、名残惜しげに手の中で玩んでたのがいけなかったのか。

「月見酒?風流ね!」

いきなり背後から女の声がかかった――と思ったら、手の中の缶がスポン!と消失した。
とっさの事態に頭が回らず、水滴で濡れた手の平をじっと見詰めてたのは、今思い出すと間抜けだ。
振り返ると知らない女が俺の手から抜き取った500ml缶を、美味そうに一気呑みしてた。
プハッと満足気に息を吐いて女が微笑んだ、言葉通りの盗人猛々しさ、俺の目はさぞや恨めしそうだったに違いない。
それだけで飽き足らず女は俺の前に回り、隣に転がしてた空缶を後ろのゴミ箱にポイポイ放り捨てると、空いた席にちゃっかり座りやがった。

「誰だよ、てめェ?」
「今日って私の誕生日なんだ」

んな個人情報訊いてねェし。
ふと「こいつキ××イなんじゃね?」と不安を覚えた。
首から汗がドッと噴き出て、折り良く吹いた風に冷やされ、夏なのに寒気が襲う。
女とはいえ急に髪振り乱して迫って来たら恐ェ、密かに逃げる隙を窺ってたら、女がにんまり笑って缶を振った。

「だから、このビールは私へのプレゼント♪ね?」

なんだ、ただの自己中か…胸の内の警戒心が少しだけ緩んだ。
目の前で揺すられる缶はチャプンとも鳴らねェ、疾うに空だと知らされ肩が落ちた。
「他人様の『頑張った自分への御褒美』を己のプレゼントに摩り替える、てめェは一体何様だ!?」と怒鳴ってやろうとしたが、女は全く悪びれずに笑っていて、怒っている自分が阿呆らしく感じられた。
肩に届く柔らかそうなオレンジ色の髪と、茶色い挑発的な瞳と、両端が上向いてる小さな唇が、悪戯好きな仔猫を想像させる。
だが凸凹のはっきりした体が醸してるのは女豹の色気、呑みっぷりの良さからいって俺と同年代だろうと察しを付けた。
よもや女子高生だったとは……知ってたら手を出さなかったさ。


「おまえ…家族は居ねェの?」
「居るわよ」
「じゃ、独り暮らしか?」
「ううん、同居してる」
「だったらケーキとか買って、待っててくれてんじゃねェの?」
「うん、ケーキを焼いて、待ってるって」
「なら早く帰ってやれよ!」

腕時計で確認したら20時近い。
今頃は冷めちまった料理を前に、腹空かしてるだろうと想像したら、家族が不憫に思えて腹立った。
ケーキを焼いて待っててくれるなんて、今日び珍しいホカホカ家族じゃねェか、何の不満が有る?
探りを入れる積りで瞳をじっと見詰めたら、女は慌てて顔を横に背けた。

「言われなくったって帰るわよ。でも…」

ベンチにもたれて上向けば、月がさっきより高い位置に昇ってる。
女の着ているシャツが月光を反射して白く輝いてた。
凍る様に冷たい外灯に比べ、同じ白色でも月の光は暖かい。
手の中で空缶を玩びながら、女がポツリポツリと語る。
隣で同じ月を眺める俺は、大人しくそれを聞いて居た。

「私の両親事故で死んじゃってるんだけど…以来年の離れた姉が働いて育ててくれて、それが今年の春結婚して旦那も一緒に暮らすようになってさ…居辛いのよ」
「邪魔者扱いするとか、性的虐待されてるとかか?」

肉感的な体付きから、つい淫らな想像しちまう。

「んーん、姉より更に一回り年が離れてる人で、お父さんみたいに優しくしてくれる…今日だってプレゼント用意して待っててくれてるみたい。でも…」
「『デモ』ばっかだな。だから外が好きなのか?」
「でも、姉の『家族』で私の『家族』じゃない。…良い人なのに、こんな風に考える自分の冷血さが嫌になる。私に遠慮して子供を作る事も控えてるのに…それがまた重荷で、だから独り暮らしさせてくれって頼んだの」

俺の渾身の洒落もスルーし、女は独り言のように喋り続けた。
抱えた膝の上に頬杖をついて月を眺めている顔を横目に、もう2本ビールを買っときゃ良かったなと後悔する。

「勉強に集中する為だって説得して…でも反対されちゃった。女の子の独り暮らしは危ないからって。本当に実の父親みたく心配してくれてるの。でもやっぱり一緒に暮らすのは無理…悩んでて或る時閃いたの!私も姉みたいに男つくって一緒に暮らしちゃえば良いんだって!――ね、私をあんたの家に住まわせてくれない!?」
「――は??ちょ、ちょっと待て!黙って聞いてたら、話がとんでもない方向に転がってやしないか…?」
「好きな男が出来て家を出るんなら自然でしょ?名案だと思わない?」
「どこが名案だ!?通りすがりに捕まえた男に同棲持掛けるなんて非常識だろ!!そういう件は同性の親しい友人に当れ!!」
「実を言うと私…あんたに一目惚れしたの!もう離れたくない!だから傍に置いて!」
「嘘吐け!!てめェ俺を利用したいだけだろ!?よしんばマジでも、こっちは会ったばかりの素性も知れねェ女と暮らすなんて御免だ!!」
「呑みっぷりの良さからいって、あんた私と気が合いそう!ね、一緒に住もうよv」

甘えた声を出して取り縋る腕を、俺は何度となく振り払ったが、女も何度断られようと、しつこく食い下がった。
揉み合う内に女の手から零れた空缶が、地面をコロコロ転がって行き、月光を反射して銀色に光った。





「それで、根負けして一緒に暮らす事にしたのか」
「…直ぐにじゃねェ。3日後バイト帰りにここで待ち構えてて、ストーキングの果てに勝手に上がりこまれた。腹減ったっつうから仕方なく晩飯食わして…それが常習化して…つい手を出したら週1で泊まるようになって…今に至る」
「ゾロのアパート、ワンルームだろ?…せまいな」
「こたつの横に布団敷くのが精一杯だ」
「つまりなつかれたんだ、ゾロは」
「んっとに猫だぜ、あいつ…!」

抱えた頭を掻き毟る俺の横で、ルフィがぐびりとビールを呑む。
公園を照らしているのは、あの夜と同じ、白い外灯と猫目月。
正面に横向きで停留してる真っ黒なSLが、広場の半分を覆うように大きな影を落としている。
白と黒、明暗くっきりした静かな夜の公園内では、虫の声がやけに高く響いて聞えた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



アホが酔い潰れた所で、月見(どの辺が月見だったんだ?)の宴はお開きになった。
バイクで来ていたウソップは店を出て家に直帰、自動的にアホを送る役目は俺とルフィに任された。
ルフィと俺は帰り道同じでカラオケ店から歩いて行ける距離だが、アホの家は逆方向かつ電車で1駅行った先に有る。
目と一緒に眉毛まで回した――ああ眉毛は元からか――アホを2人で肩に担ぎ、明りの消えた商店街の通りを引き摺って歩いた。

己の限度も見極めず無茶呑みしやがって、馬鹿が。
そもそも酒強くねェくせして参加してんな、阿呆が。
だから誘いたくねェのに誰だよ教えた奴?呆けが。
大体てめェは昔から格好付けに必死過ぎんだ、気障が。
結果実体バレて幻滅されてフラレてんのをいいかげん理解しろ、エロが。

当人が酩酊してんのを幸いにひたすら悪態吐いてたら、反対の肩を担いでるルフィが、物言いたげに見詰めてる事に気が付いた。
ああそうだよ、こいつを酔い潰したのも、誘った呆けも俺、今は反省してるさ。
何を切っ掛けに付き合い始めたんだったか…大昔の事なんで忘れちまった。

それでも途中の電柱に捨て置いたりせず、アホを家に届けた俺達は、Uターンして元居たカラオケ店の有る通りに戻って来た。
そこから数歩先の十字路に出た所で別れる積りだったが、横に件の公園を見付けたルフィから、「話の続きを聞かせろ」とせがまれ寄ってく事になった。
宴の〆がああだった事で呑み足りなくもあったしと、近くのコンビニで缶ビールを4本買ってく。
公園内は下と上とに分かれていて、SLは上段の方に停留している、あの夜と同じ横から見る位置のベンチにルフィと並んで腰掛け、カラオケ店では話さなかった「馴初め」を聞かせた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「旅行っていつ行くんだ?」
「明日」
「明日ァ!?――だったら早く帰って持ってく物準備しなきゃいけねーじゃん!こんな所でおまえ何してんの!?」
「てめェが『話の続き聞かせろ』っつってここに連れて来たんだろが!…心配しなくても準備なら家の半ノラがやっといてくれてる。俺は朝それを運ぶだけだ」
「へー、便利だなー。俺もどーせーしようかな」
「便利でもあるが面倒でもある。やって貰った分、こちらは3倍にして返さねェと機嫌を悪くするからな」

本気で羨ましがってるルフィに、俺は曖昧な笑顔を返した。
呑み切った缶を捻り潰してから、後ろのゴミ箱目がけ放り投げる。
隣で見ていたルフィも真似て、缶をメンコ状になるまで潰してから投げた。
金属音の余韻が空気を震わす、間に置いといた缶にルフィが手を伸ばしたのを見て、俺は無言で手の平を差し出した。
「おごりじゃねーの?」とルフィの目が訴える、誰が奢るかアホ。
むしろ話を聞かせた分含めて徴収したいくらいだ。
ルフィが渋々財布から小銭を取り出す、2本目の代金まできっちり支払って貰ってから、俺は手を引っ込めた。

ビルを吹き降りる風が、公園に植わる桜と銀杏の木を、ざわざわと揺らす。
外灯に照らされた葉は、既に薄く色付いていた。
あの夜よりも肌寒い風に、ここでの夕涼みも終りだななんて考えてたら、再び質問された。

「どこ行くんだ?」
「長崎の『ハウステンボス』ってテーマパーク」
「遊園地か」
「オランダそっくりに造ったらしい」
「オランダのパクリか。なら本物のオランダ行けば良いのに」
「んな金有るか!第一、行きたいって申し込んだのは向うだ。行った友人から話を聞いて、憧れてたんだと」
「へー。彼女が行きたいって言ったから、連れてってやるのかー。優しいなー」

そう言うと、人の顔を見ながらニヤニヤ笑った。
澄ましてビールを呑む、直ぐに2本目も空になった。
さっきのように潰してゴミ箱に投げる、その後をルフィの缶が追う、底に溜まった空缶にぶつかり、けたたましい音が鳴った。

いきなりルフィがベンチから立ち上がり、正面の小山の形した滑り台へ向って駆けてった。
SLが作った闇の中を、影が猿の様に登ってく。
何をする積りかと、立ち上っておもむろに後を追った。

ガキから見たら富士山級の険しさだろうが、大人ならジャンプすれば天辺に手が届く。
側に垂れてる鎖を使わず素手で登り、先に登頂した猿の隣に腰掛けた。

「…あれ、昔は金網で囲ってなくて、中に入れたんだぜ」

暫く黙ってSLを見詰めていた猿が口を開く。

「走りはしなくても、運転席うばい合ってよく遊んだ…なんで入れなくしちまったんだろう?」

声には落胆と憤りが篭ってる。
巨体をすっぽり囲う白い金網は、動物園の檻を連想させた。
後ろを振り返れば砂場まで金網に囲われてる、結構広い公園だってのに、ブランコもシーソーも無ェ。
多分以前は有ったんだろう、最近はどうしてこうも安全に神経過敏なんだか…その内更地化すんじゃねェの、ここ?

「資料保存を建前に…変質者が隠れないよう、野良猫に糞されないよう、子供が怪我しないようする為の措置かもな」

皮肉を篭めた俺の説明を聞くルフィは、まるで憎い敵を前にしてるような厳しい表情だ。
同時に瞳の奥には寂しさを湛えていて、俺はつい弟を宥めるような口調になっちまう。

「時が経っても変らないものなんて、何処にも無ェさ」



――男のくせに、相変わらず弱いのね、ゾロ。



目蓋の裏に竹刀を構えた少女が浮んだ。

黒い髪を男の子みてェに短く切っていた。

ガキの頃剣道の道場に通ってた俺は、そこの師範の1人娘に毎日決闘を申し込んでいた。
女だてらに滅法強い、正体は男じゃねェかと、通う者の間では噂になっていた。
小学1年から6年まで勝負を挑み続け、0勝2001敗という清々しい対戦成績。
いっそ笑いが取れる負けっぷりだってのに、諦めず向ってった当時の不屈の精神を褒めてやりたい。

中学生に上る頃、俺は東京に引越し、対戦はストップした。
手紙や電話で連絡を取る手段も思い付いたが、思春期特有の照れ臭さが勝って出来ず、学校で剣道部入って大会出続けてりゃ何時か会えるだろうと、高校卒業まで青春の血汗を道着と竹刀に染込ませた。
だがかつてのライバルと会い見える事は1度も無く、目的を失った俺は参段を前に足踏み、最近ではすっぱり身を引く事を考えてる。
己の強さは他人の後追いから生じたものかと思うと情けないが、限界らしかった。





――パーッ!!パーッ!!と立て続けに大きな音が耳を劈いた。
横切ってく眩しい光に、公園脇の道路を走る車のクラクションだった事を理解する。

「こうはで売ってたゾロも結婚しちまうしな」

ルフィが歯をニッと剥き出してこっちを見ていた。

「まさかゾロが1番に結婚するなんてなァ、ちっとも思わなかったぞ」
「別に硬派で売っちゃいねェよ…」

眉毛が渦巻いてるアホと比較されるせいか、世間からとかく硬派の印象を受ける。
内実幼い頃の負けを引き摺り、止めるに止めれない優柔不断だってのに…と、言われる度に自嘲を漏らしてた。
んな風に卑屈で居る俺に気付いているのか否か、ルフィは小山を飛び降りると振り向きざまに言った。

「明日は早く出発すんだろ?俺帰るから、おまえももう帰れ!」

そうして1人さっさと公園の外へ向い、門の手前でもう1度振り返った。

「土産にうまいもんいっぱい買って来い!!結婚祝いにな!!」
「逆だアホォ!!結婚祝いなら、こっちが貰う立場だろうが!!」

無邪気に手を振る姿を外灯が照らす。
門を出た所でその姿は闇に消え、草葉の陰で鳴く虫の声が耳に戻った。

振っていた手を下ろし、小山の上に寝そべる。
ちと背中が冷たくて痛くて反るが、こうすればビルに邪魔される事無く夜空が観れた。

白々と輝く猫目月が、真上からじっと見詰めている。
道草食ってるのを咎められてるようで、やましい気持ちになった俺は、ルフィの言う通り駆け足で家に戻る事にした。




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君と一緒に(ゾロナミ編―その1―)

2011年01月16日 19時00分34秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
「実は今付き合ってる女が居るんだが、今度一緒に旅行して、そこでプロポーズしようって考えてる」

10月中頃、コンビニで一緒にバイトしてる4人で、月見の宴を催す事になった。
満月にはちとズレてるわ、場所は月見のしようがねェカラオケ店だわで、実際には正体不明の宴だったが、気の合う者同士で呑む酒は美味い。
延長に次ぐ延長で盛上り、そろそろお開きにしようぜって声が出だした頃、ほろ酔いから来る浮かれが災いして、つい口に出しちまった。
途端に、正面で熱心にぶ厚い曲リストを捲っては指を挟んでたアホと、その隣でタンバリンを滅茶苦茶にぶん回してたルフィが、物凄い勢いで顔を向けた。
続いてTV隣の席を陣取り、こぶしを回して「いい日旅立ち」を激唱中だったウソップが、マイクを口に当てたまま「こいつ死亡フラグ立てやがったァァァ!!!」と絶叫した。
叫びに気を殺がれたルフィとアホが、何かを言おうとして口を開けたまま凝固する。
エコーが完全に静まるまで、俺達4人は無言で顔を見合せていた。






                             【君と一緒に】
                          ―好きにしろ!(ゾロナミ編)―






「…『死亡フラグ』たァ、どういう意味だ?」

まだ耳の奥に、さっきの絶叫が詰まってる気がした。
両の人差し指で耳を穿りながら尋ねる。
隣に座るウソップは、マイクを握り締めたまま、おちょくる様に笑って答えた。

「映画や漫画なんかでよく観るじゃんか?『今度恋人にプロポーズするんだ』っつった直後に死んじまう奴!今度今度とのたまう奴に、『今度』と言う名の機会は永遠に訪れない!これ鉄則のお約束パターン也!」
「取敢えずおまえ、喧しいからマイク離して喋れ」
「お、悪ィ、つい手と同化しちまってた!」

ウソップがマイクのスイッチを切ってテーブルに置く。
俺は1/3程ビールの残ったピッチャーに手を伸ばした。
空にしてテーブルに叩き付ける。
口の周りに付いた泡を袖で拭うと、不敵に笑った。

「つまり破局を期待してんのか?生憎だがそれはねェぜ」
「おおお!?腹立つくらい自信満々だな!してその根拠は!?」
「既に夏から同棲してるような間柄だ。プロポーズしたところで、今更と呆れられるかもな」

「「どォ~~~せェ~~~~~!!?」」

ウソップにルフィまでも同調して、目玉をビヨヨンと飛び出させる。
古き良き米国アニメに登場する様な、懐かしい表現だ。

「どーせーってアレだろ!?さんじょーひとまの小さな下宿に男と女が一緒に住んで…!」
「赤い手拭いマフラーにして横町の風呂屋に行っては片方が何時も待たされて…!」
「24色のクレパス買って似顔絵描くんだけど全然似てなくて怒られるっつー!」
「凄ェなゾロ!流石19歳大学生はやる事が大人だぜ!!」
「…おまえら17歳高校生のくせして、よくンな古いイメージ思い付けるな」

突如、頭上から足が――ブン!!と唸りを上げて降って来た。
間一髪避けて、硝子テーブルの上、仁王立ちしてるアホを睨む。
金髪から覗く右目は、憎悪で爛々と輝いていた。

「おいサンジ!!テーブルの上に立つなんてぎょーぎ悪ィぞ!!」
「何時もテーブルマナーに煩いおまえらしくもねェ」
「早く降りろ!!食い物や飲物にほこりが入ったら、皆が迷惑するじゃんか!!」

普段とは立場が逆に、ルフィとウソップが厳しく指導を飛ばす。
2人の両手と頭上には、食い物飲物がしっかり確保されていて、流石だなと感心した。

似つかわしくない事に、アホの実家は国外まで名が知られてる、一流レストラン。
親の七光りを盾に、アホは己の品の無さを差し置いて、俺らの行儀作法を窘めるのを常にしていた。

アホがソファにかけてたジャケットの胸ポケットから、煙草を1本取り出して咥える。
その間も俺を見下ろす姿勢は崩さねェ、骨の髄からムカツク奴だ。

「おい…室内で煙草吸うなっつったろ」
「るせェな。吸わなきゃ冷静に話せそうにねェんだよ…」

問答無用で立ち昇った煙が、天井で回転するミラーボールの光を拡散する。
カラオケルームで沈黙する俺達に代わり、画面に映った某アニメのガキ大将が、美声を披露していた。
しかしこのキャラ、記憶通りなら、糠味噌腐るレベルの音痴だった筈。
んな事考えてたそこへ、空気の重たさを嫌ったルフィが、呑気な調子で声をかけた。

「なー、誰も歌わねーの?だったら俺、歌って良いか?」

朗らかな笑顔でテーブル上の曲リストに手を伸ばす。
すかさずアホの足がリストを――ダンッ!!と踏み潰して阻止した。

「……なんだよ、歌わせろよ。室料もったいねーじゃん」

無礼千万、足で邪魔された事に、ルフィは極めて立腹し睨む。
睨まれたアホはというと、あくまで俺の方をガン見だ。
隣に座るウソップが、仲裁に入るべきか逃げるべきか、悩んでオロオロしている気配を感じた。

「歌なんざ外出てアカペラでも構わねェだろうが!!今はクソ野郎を尋問する方が先だ!!おい、てめェ!!…同棲してるだと…!?」

頬がひくひく痙攣している。
顔左半分が金髪で隠れ、片目だけだってのに、射殺されそうな眼力だ。
同棲してる位で何故こんなにも憎しみを買わねばいけないのか?
理不尽に溜息を隠さず、立ち上がった俺は、アホを睨み返した。

「…ああ、そうだ」
「相手は人間の女か!?」
「犬猫相手に『同棲』なんて表現使うかよ!」

アホがふうと煙を吐いた。
一旦しゃがみ、灰皿にチビた煙草を押し付けた後、再び立ち上る。

「…相手の名前は?年齢は?身体的特徴は?――何時何処で何をしている時に知り合った!?どうやって同棲に持ち込んだ!?その時相手の対応は!?返事は!?漏れなくつぶさに答えろ!!合意の上でだろうな!?よもや強姦の末の監禁じゃねェだろうなァァ!?」

――待て待てちょっと待て!いや大いに待て!!

段々と早口になってく追求に、焦った俺は両手を振ってタンマを願った。

「んな矢継ぎ早に質問されたら、何から答えるべきか悩むだろがっ!!」
「つまり全てを明かせっつってんだよ!!この好色一代マリモがァァ!!」
「アホか!?仲人頼むわけでもねェのに何故てめェに馴初めまで明かす必要が有る!?」
「うるせうるせうるせェェェ!!!…クソォアアア!!!一流レストランの家に産れて19年!親の七光りに甘える事無くシェフになる為腕を磨き!万3桁に届くまで資金を蓄え!身奇麗にして女性を飽きさせないトークを研究する等、日夜努力を欠かさん俺が彼女居なくて寂しい青春を送る一方、貸家住まいで貯金心許無し着た切り雀の大酒呑み寝るだけ朴念仁野郎がウハウハ同棲ライフなんて不条理許さでおくべきかァァァ!!!!」

人の襟首をグイグイ絞めながらアホが唸る。
滝飛沫の様に飛んで来る唾が俺の顔を濡らす。
無論リフレッシュ効果なぞ無く、甚だ不快なだけだ。
突き飛ばし腕から逃れた俺は、嘲りを篭めて呟いた。

「童貞」
「黙れ緑のヒヨコ頭!!!俺は恋愛に崇高な憧れを抱いてるが故に、相手が中々見付からないで居るだけだ!!!」
「落ち着けサンジ!!!殺人するなら俺が側に居ない時にしてくれ!!明日のデートを前に取調べは御免だ!!」

再び俺に踊りかかろうとするアホを、ウソップ(同い年の彼女持ち)が必死で羽交い絞める。
アホの目尻にはきらり光る涙の玉、ちと言い過ぎたかと反省した。

ルフィとウソップは2つ下の17歳だが、アホは俺と同じ大学に通う19歳、付け加えるなら高校も同じ。
そのせいか知らんが、アホは昔から俺と張り合おうとする。
特に女からのモテ度、例を挙げればバレンタインにチョコをどんだけ貰ったか、アホは数で絶対負けまいと、当日の半年前から根回しに励んでいた事を、高校卒業後の同窓会で、元同級生だった女共から聞いた。
「ご苦労さん」の一言しか出ねェ。

「ホント世の中って不思議だよなー。モテたくて仕方ないサンジには全然彼女出来なくて、モテようとしてないゾロとウソップには簡単に彼女出来るんだから」


急に室内の空気がズゥゥンと重たくなった気がした。
あくまでルフィに邪気は無かったが、今の一言はアホの胸を深く抉ったらしい。
一瞬で項垂れ、ピクリとも動かなくなった。
その頭上には丸々として、どん暗いブラックホール。
かける言葉も無く、ウソップがそっとその身をソファに降ろす。
暫くして背もたれに埋めた顔から、シクシクと陰気な啜り泣きが漏れ出した。

「いじけちまった」
「…いじけたな」
「酷過ぎだろルフィ!サンジに彼女が出来ないのはサンジのせいじゃねェ!」
「いや、70%位は本人のせいだろう」
「残りの30%は運の悪さだな♪」
「余計なお世話だクソッタレェェ!!!!」

――ガバッ!!と顔を起して、アホが涙声で叫ぶ。

そしてまた背もたれに顔を埋めた。

カラオケルームにこだまする、男の啜り泣く声。
確か今夜は月見の宴じゃなかったか?…まァそれを言うなら月を眺めてない時点で間違ってるが。

「なー歌おうぜー!しんきくせーよ!」
「つっても後20分位しか時間残ってねェし…そうだゾロ!おまえの彼女の話聞かせろ!」
「あーそーそれ!!話をフッたからにはオチつけるべきだよな!」
「名前は?年齢は?身体的特徴は?何時、何処で、何をしている時に知り合った?同棲するまでの経緯は?20分以内に纏めてくれ」

…そして結局話が戻っちまった。
つくづく己の不覚を悔やむ。
ヤケになるのに酒の力を借りたいとこだがピッチャーは空。
終了時間が迫ってる事を考えると、追加を頼むのに躊躇する。

俺の左と斜め前の席には、野次馬根性剥き出しで身を乗り出すガキ2人。
画面では知らない歌手の映像が延々流れ、アホはソファに撃沈したまま…なのはどうでもいいが。
ルフィの言う通り振り出しは俺だ、しょうがねェと腹を括り、質問に沿って答えてやった。

「…名前はナミ、年齢は18、身体的特徴は…オレンジのショートヘアーで、細身だけど胸はデカくて…まァ美人だ。7月初めの晩、この近所の十字路側の、機関車飾ってある公園で、ビールを呑んでる時知り合った」
「そこって『汽車ぽっぽ公園』か?俺知ってる!ガキの頃よく遊んでたんだぜ!」
「ああ、俺、バイト帰りに、何時もあそこで一息入れんだよ」

馴染みの公園が話に出て来た事で、ルフィが目を輝かす。
こいつの家はカラオケ店の近所で、俺の住んでるアパートとも近い。

「で、同棲までの経緯は……忘れちまった。何時の間にか晩飯食ってくようになって、週末には泊ってくようになっちまってな…」

眉間に皺寄せ記憶を一生懸命辿る。
けど何故そんな次第になったのか、どうしても思い出せねェ。

「7月初めに会うまで知らなかった女と、おまえは同棲する事にしたのか?」
「泊ってくのは週に1度、土曜の晩来て日曜の昼帰ってく。残りの曜日は晩飯だけ食って帰ってく」
「それって、たかられてるだけなんじゃね?」
「言われりゃそうだが、俺の分まで飯作って、待っててはくれるぜ」
「たかり、時々泊りか…まるで半ノラ猫みてェな女だな」

さも呆れたようにウソップが溜息を吐く。

「でだ…そんな半ノラ女と一緒に旅行して、おまえはプロポーズする積りなのか?」
「仮にも付き合ってんだ。おかしくないだろ」
「ゾロ、結婚は自由だが、その前におまえは重要な事を考えねばならない…気がするぞ。――その半ノラ女はおまえを本気で思っているのか!?――おまえは半ノラ女の素性を知っているのか!?」
「嫌ってたら家に来ねェだろ。素性は…あんま知らねェな」

此処まで話し終えると、ウソップまでもがソファに突っ伏した。
一方ルフィは問答に加わらず、首を捻って考え込んでいる。
声をかけようとして、その前にウソップがヨロヨロと起き出し、俺への質問を再開した。

「…18歳って事は学生か社会人かフリーターか…実は同じ大学通ってて、おまえは知らなくても、向うは以前から知ってたとか…んな可能性は…?」
「いや、大学生じゃねェ。高校生らしい」
「「女子高生!??」」

裏返ったウソップの声に、ハモる別の声が有った。
出所を視線で辿る、何時の間にやらアホが復活していた。
最初、張裂けんばかりに見開いてたアホの目が、みるみる釣り上がってく。

「…すると何か?てめェは花も恥らう女子高生を部屋に連れ込み、今に至るまでいかがわしい関係を強要してるってのか…?」
「人を犯罪者扱いすんじゃねェ。向うから通って来んだよ!」
「ヌカせ乙女の敵ィィィ!!!清純さと若さの称号セーラー服に身を包んだ天使を相手に、てめェは週1オールナイトでナニしやがってんだァァァ!!?」

ソファの間の硝子テーブルをひょいと飛越え、掴みかかって来たアホが口汚く罵る。
目を血走らせ迫る姿は、余程性犯罪者っぽいと感じられた。

「しょうがねェだろ、女子高生って事は後で知ったんだから!それと断っとくがブレザーだ!」
「ブレザーだからどうした!?どっちも俺の好物に変わりない!!」
「人の顔に唾飛ばして喚くなよ!!所詮てめェにゃ無関係な事だろが!!」
「その態度がクソむかつくわ!!何故今日まで黙ってた!?親友だろうが俺達!!」
「親友だったら黙って温かく見守ってやがれ!!!このロンリー上手!!!」
「おお!!!見守ってやるから彼女の写真見せろ!!!」
「いちいち持ち歩くかンなもん!!!」
「彼女の写真を肌身離さず持たずしてよく彼氏を名乗れるな!?てめェ本気でそのコの事好きなのかよ!!?」
「…けどサンジの言う通りだぜー。彼女が出来たなら紹介してくれりゃあ良いのに、水臭ェよゾロは――なァ、ルフィ?」

疎外感に耐え切れず、会話に割り込んで来たウソップが、正面席に同意を求める。
俺達が騒いでるのを他所に、ルフィはまだ考え込んでいた。
腕組んで黙考なんて、奴には珍しい。
俺もアホもウソップも、不審を感じ注目してると、ルフィはぼそり呟いた。

「………俺、ゾロの彼女、見た事有るな」


――は!?何処で!??


「1週間前、店にオレンジの髪の女が入って来たんだよ。…何も買おうとしねェ。立ち読みもしねェ、けど何か探してるみてーな、しばらくきょどーふしんで居たけど、あいつ、ゾロに会いに来てたんだなー。その時おまえ奥でカップ焼きそば食ってたろ?呼んでやりゃ良かった」


………あの女、俺を冷やかしに来やがったのか。

目を閉じると目蓋の裏に、舌を出してにんまり笑う、魔女の顔が浮ぶ。
奥に引っ込んでて幸いだった…いやちっとも幸いしてねェ、どうしておまえは俺を困らせようとするんだナミ!?


「――ウソップ、似顔絵捜査の用意を!」
「合点だ!」

唐突に飛んだアホの命令を、親指立てて受けたウソップが、パンパンに膨らんだ鞄から、画材を取り出す。
硝子テーブルに置かれた画用紙帳と24色のクレパス、「似顔絵画伯」と俺らから賞賛されてるウソップは、美術部員でもないのに毎日持ち歩いていた。

「いいかルフィ!見た顔を克明に思い出すんだ!そしてウソップにありのまま伝えろ!」
「おう!任せろ!記憶力には自信有るんだ!」

ウソップの隣にルフィを座らせ、真剣な顔付で指示するアホ。
白い画用紙の上をクレパスがよどみなく滑ってく。
途中で終了5分前を伝える電話が鳴ったが、誰も取らねェんで仕方なく30分の延長を頼んどいた。
凄い集中力だ、てか完璧なチームワークだな、おい!
突っ込む隙すら与えてくれず、5分で描き上げられた似顔絵は、ルフィの記憶を頼りにした割に、ナミの特徴を正確に捉えていた。

「どうだ、ゾロ?似てるか?」
「……ああ……似てる」

ウソップから確認を求められた俺は頷くしかない。
改めて「似顔絵画伯」の腕に恐れ入った。
おまえ将来絶対その腕でもって食いっぱぐれねェよ。

「……この…オレンジ色の髪の、極めて可愛らしいレディが『ナミさん』…?
 …こここの…可憐な美少女がブレザー着て、毎晩一緒に御飯食べて、週1でお泊りしてくだと……?」
「へー、こりゃカヤに勝てずとも劣らねェなァ。まァ話を聞くに内面はカヤの圧勝って感じするけど――70点!」
「人の彼女と比較してノロケようとすんじゃねェ。確かに性格はきついが、作る飯は美味いし、総合的には悪くねェよって事で――80点!」
「スタイルかなり良かったぜー!足細いのに胸デカくてさ、グラビアモデルかと思った――75点!」

完成した似顔絵を囲んで好き放題に点を付ける。
だがその内アホの体がブルブル震え出したのに気付き、俺の胸に嫌な予感が走った。
ウソップもルフィも同じく感じたらしい…俺達3人が見詰める前で、アホは地を這う様な声を出した。

「……駄目だ…駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ…!結婚なんて許さねェ!プロポーズだァ!?とんでもねェよ!東京都の職員と知事は何処に目を付けてやがるんだ!?おい誰か警察に電話しろ!此処に淫行条例違反者が居ると!速やかに逮捕、同時に被害者である女子高生の身柄を確保せねば…!」
「この野郎…また発作起こしやがった!――ウソップ!アルコール度数の高い酒じゃんじゃん注文しろ!酔い潰して黙らせる!」
「えええ!?注文すんのはいいけど誰が払うんだよ!?」
「勿論この顔面ハーフサイズの男に払わせるに決まってんだろ!!いいから早く注文しろ!」

暴れるアホの手足をルフィと俺とで押さえてる間に、ウソップがメニューを見ながら適当に注文する。
カクテル・サワー・ウィスキー水割・ビール・焼酎・日本酒…テーブルは瞬く間にグラスに占領された。
それらを無理矢理抉じ開けたアホの口の中に手当たり次第流し込み、おまけで皿に残ってたチーズポップコーンもブチ込んだ。

「ハイハイ♪そんじゃ宴らしく賑やかに行ってみよー♪
 サンジ君のっ♪ちょっと良いとっこ見ってみったいっ♪
 あ、イッキ♪イッキ♪イッキ♪イッキ♪…」
「離ぜ離ぜ離ぜェェェ!!!!結婚なんべばべっが!!!―ゲフッ!!――結婚ばんべ…お兄ばん絶対許ばべェがんばァァ~~~~~!!!!」

ウソップの音頭に乗って次々グラスを空けてくも、アホはしぶとく叫び続け、酔い潰れて完全に静止したのは、延長した30分が丁度終る頃だった。






…忘れた頃に連載の続きを上げ。(汗)
ルナミ編もOKと言う方は、こっちの1話と読み比べてみて下さい。
手抜きじゃないっすよ?(笑)
こういうのを最初から狙ってたんです。
季節外れの10月話ですが、また宜しくどうぞ。
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インターバル1

2010年09月10日 23時19分46秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
「ゾロナミ編を始める前に後書きめいた物を~」とか何とか前回書いといて、気が付いたら1週間近く経ってしまいました。(汗)
しかしただ休んでいた訳でなく、話の所々を修正したりしてたのですよ。
長く書いてると辻褄の合わない箇所がちょこちょこ在るんで。(汗)
10月下旬には完全版がお目見えする予定なので、宜しければまたその頃1からお読み直し頂きたい。

お礼が遅れてしまいましたが(御免なさい)、連載について感想メールを下さった方々、有難う御座います。
返事は9/14迄に必ず!
それと連載とは無関係ですが、フォトチャンネルにニコちゃんマーク??を付けて下さった方、有難う御座います。
てか何時の間にマークが付けられるようになったんだフォトチャンネル
どうせならデジブックみたく、ウィンドゥサイズで観られるようになって欲しい…。


さてこっからは連載の後書きを、連載用にリストアップしつつも、上げられなかった写真と共に。



↑パレス・ハウステンボス前庭の紅葉、見頃は11月。
緑の芝生と赤い葉っぱのコントラストが芸術的です。


振り返ればほぼ1年を費やした、長い長い連載で御座いました。
「こんなに長く書く必要有ったの?」という御意見も有るに違いない。
そしてそれは非常に正しい。
ぶっちゃけテンポ良く起承転結纏めるなら、6話位で終えられた話ですよ。
つまり13話分無駄って事で、しかしその無駄な部分こそ、最重要だったりするから仕方ない。




↑運河を滑るカナルクルーザー、背景は紅葉に彩られた高級別荘地区ワッセナー。


例えば「湯煙混浴露天風呂殺人事件」における、混浴風呂での美人が胸ポロリシーン。
推理サスペンス的見方からなら全くの無駄、作品のレベルを下げてしかいない。
だが番組のプロデューサーが最も見せたいのはそこなのである!
無駄じゃないのである!

観光地が舞台の推理サスペンスドラマって、半分は無駄なシーンで出来てると思う。
例えば長崎を舞台に連続殺人事件が勃発、なのに刑事は訊き込みの途中で、呑気にカステラ食べてお茶してたり。
番組のプロデューサー(とスポンサー)的には、クライマックスと同等、もしくはそれ以上に注目させたいシーンなのだと思うよ。(笑)




↑只今休業中(ひょっとしたら復活有るかも?)ホテル・デンハーグ館内ティーラウンジの「ティークリッパー」。
08年クリスマスシーズンに撮影した物かと思われ。
サンルームの様に硝子張りの店内からは海を見渡す。


このシリーズもそんな感じで、無駄こそ楽しんで頂きたい。
という訳で続くゾロナミ編でも、何やかやとパークの場所や物が登場する予定~。




↑ヨットマリーナ近くに在る見晴らし場所、ウォーターゲート「スネーク」。
夕方からはオレンジの照明が灯され、更にロマンチックv


それとこのルナミ編では、人間臭いルフィを目指し、書いてみた。
原作でウソップと喧嘩した時のルフィの表情は衝撃的で、「ルフィも人の子だったか…」と失礼にも見方を改めたのです。(汗)
作品中でルフィは確かに太陽。
けどそんな奴だって、大事な人が離れてくと、弱さを見せるのだなと。
10巻でのルフィの台詞で、「おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信が有る!!」っつうのが在るんだけど、自分これが彼の台詞中で2番目に好きなのです。
ちなみに1番はドラム王国編で出て来た、「おまえなんかがヘラヘラ笑って、へし折っていい旗じゃねェんだぞ!!!!」。




↑晩秋のフォレストガーデン、湖に夕陽が落ちる頃。



↑かつては夜毎花火が打ち上げられてたオレンジ広場。


終了までに約1年費やしたもんで、話の中で出したパークの風景に、大分フィクションが含まれてしまっている。(汗)
多分ゾロナミ編も1年間位連載してるかと。(汗)
かつて連載してた異界百物語よろしく、全て完成するまで4年の歳月をかけるかもしれない…。
気の遠くなるよな連載で、読んで下さる方には申し訳無く、しかし最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。




↑冬季のイルミネーションスポットの1つ、光の教会。



↑港街近くの深夜スポット、アムステルフェーン。
…なんかこの写真、前にも上げた気がする。(汗)


ところで話書く為に浅くヨットについての本を読んだり、ネットで検索してみたりしたんすが、ヨットが歴史に初めて登場するのは14世紀のオランダとされていて、当初は海賊を追跡したり、偵察等に用いられてたそうな。(ウィキ情報より)

それと「ヨットマン」っつうのは、ヨット乗りを単純に指して呼んでんじゃない。
「誇り高きヨット乗り」こそ、そう呼ばれるんだそうな。
ワンピース的に言うなら、「ピースメイン」に当たる存在ですかね~。
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君と一緒に(ルナミ編-その19-)

2010年09月04日 15時23分40秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回の続きです。】





オレンジ広場には1~2分もかからず到着した。
おっさんにお礼を言って降りたそこには、すでにものすごい数の人が集まっていた。
昼間はどこもガランとして見えたのに…いつこんなに増えたんだろう?
集まった客はクルクル色が変わる三角ツリーの前で写真を撮ったり、フードスタンドであったかい食いもんや飲み物を買ったりしてた。

腹がグーグー鳴る、夕メシ食ってねーもんな。
20時過ぎても食わずにいるなんて、人生初めての経験だ。
とりあえずハンバーガー売ってるスタンド見つけたんで、テリヤキパインバーガーってのを注文したら、マクドのハンバーガーの3倍は有るんじゃないかってボリュームでビックリした。
その分高ェけど味もなかなか、ハンバーグとパイナップルが意外と合う事を初めて知った。
3口で食い切り、ソースの付いた指をベロベロなめる。
まだ腹一分目にも満たない、もう2~3個食おうかな?

「…落ちこんでても腹は減るんだなー」

しみじみ思う、食ってる間はナミの事を忘れてられた。
着いた最初こそ集まってる奴らの顔を、かたっぱしからのぞいて廻ったけど、嫌な顔されるし、疲れたんで止めた。

俺ばっかり何でこんなさがし廻らなきゃなんねーんだ!
もう知らねー!ナミなんか独りで勝手に遊んでろ!
やけ食いだ!土産分つぎこんで食ってやる!
特にゾロ!サンジ!おまえらにはキーホルダー1個だって買って来てやんねー!

ムカムカしてる俺の隣で、女3人組が冬なのにソフトクリームを注文する。
渡されたソフトクリームは、ハンバーガー同様、普通より2倍はビッグなサイズだった。
よーし、俺も買うぞ!何にすっかな?バニラじゃありきたりだし…

――その時、風に乗ってミカンのにおいがした。

「そーだミカンが良い!ミカン味のソフトくれ!!」
「みかん??…済みません、みかんソフトってのはメニューに無くて…」
「え??でも今においがしたぞ…?」

店員の男が困った顔を見せる。

風に運ばれて来るミカンのにおい。

においを辿って後ろを振り向いた。

「――ナミ…!!」


広場の在る港街、目の前には海が広がってる。
木造船の甲板に似た板じきのデッキの正面には、赤くライトアップされた帆船がけーりゅうされている。
帆船の周りに集まった大勢の人達、どうやら花火は帆船後ろの海から打ち上げるらしい。
花火を待つ人ごみの中に、ナミは独りで立っていた。





ナミの体からは甘酸っぱいミカンのにおいがする。
子供のころから食い物のにおいに敏感な俺は、はぐれた時このにおいを頼りにさがし出した。





「ルフィ…!!」
「…やっと見つけた!!」

後ろから肩をつかんだ瞬間、ナミはビクッと体を震わせた。
目を真ん丸にして驚くナミに、俺は得意満面の笑顔を返す。




――真っ暗な海の向うに光が幾つも瞬いてる。


――なのに船乗りは灯台の光を見分けられる。


――それは灯台が船乗りの方を向いて、光ってるからさ。




「光じゃなくて匂いを辿って来たんでしょ?方向オンチのクセに、鼻は頗る利くんだから…」
「大勢の中から見つけ出した事には違いねェだろ?やっぱナミは俺の灯台だ!俺がヨットマンになるために絶対必要なんだ!」
「悪いけど他を当たって。私程度に地図が読める人間なら、世の中にごまんと居るわ」
「俺は、ナミじゃなくっちゃ嫌なんだ!!!」

突然広場中のイルミネーションが消えた。
集まってた奴らがザワザワ騒ぐ。
英語で開始のアナウンスが流れ、重々しい鐘の音が響いた。
音楽が始まる、海から何本ものレーザー光線が走った。

「俺はナミが言うような『太陽』じゃねェ。独りじゃ輝けねェんだ」
「輝く為には他の人の力が要るって言いたいの?だったら探せばいいわ。私は駄目。ヨットに乗ってるあんたを待ち続けるなんて出来ない。かと言って一緒に乗る事も出来ない…!」
「けど俺にとっての灯台はナミだけだ。ナミが俺の方を向いて、光って導いてくれなきゃ、俺はどこにも行けない…!」
「灯台になんかなれない…!!あんたを一生導いていけるほど私は強くない…!!目の前に居た母さんも助けられなかった!!」
「でも俺の事を助けてくれた!!!」

――パパパパパンッ…!!!!と、夜空に連続して花火が開いてく。
暗い空からキラキラ光って舞い落ちる。
泣いてるナミの目が、鏡になって光を反射した。


「……太陽じゃないって言うなら……ルフィ、あんたは花火よ!パーン!と飛び出して、華々しく散って…」
「…あのな、えんぎの悪い例えすんなよ」
「だって……」
「俺は太陽でも花火でもねェ!ちゃんと陸に戻って来て、おまえと一緒に生活する!海上でずっと暮らしてくつもりはねェんだ!」

次々と打ち上がる花火、雲とけむりがレーザーを反射する。
まるで夜空いっぱいにスクリーンが広がってるみたいだった。

「花火は打ち上げたら空で開く…けど人間を打ち上げたら、元の姿のまま帰って来るんだ!――こんな風にな!!」
「ちょっ!?何する積り!?止め――キャアア…!!!」

腕に抱きしめたナミを、空に向かい放り投げる。
悲鳴を上げるナミの後ろで、花火がドーン!!と打ち上がった。
落ちて来たナミをキャッチしては、また放り投げる。
何べんも何べんもくり返した。

「実験してみろ!俺だって打ち上げたら必ずおまえの元に帰って来るから!!
 太陽じゃねェ!!花火でもねェ!!俺はおまえと同じだ!!」

「ご…ごめん!!もう言わないから…!!恥ずかしいから止めて!!お願い――キャアアアア…!!!」

「だったらプロポーズ受けるか!?受けるって約束したら止めてやる!!」

「そ…それは…!!――アアア…もう許してェェ~~!!!」

ナミが泣きながら止めてと叫んでも、俺はタカイタカイをし続けた。
花火と一緒にポーン!ポーン!とナミが打ち上がる。
光る雪を浴びて落ちて来るナミはきれーだと見とれた。


「ナミ!!俺…1人で廻ってて思い知ったんだ!!
 独りの俺はすっげー弱いって!!
 ナミが居なくなっただけで、自信も何かも失くしちまった!!
 だからナミ……俺を助けてくれ…!!!」


腕にキャッチしたナミをしっかり抱きしめる。
ナミが俺の首に腕を回した。

「……私が……あんたを…?」

「…おまえがピンチの時は必ず俺が助ける!!
 だからナミ…俺がヨットマンになるのを助けてくれ…!!」

ほほに、涙でぬれたほほが、ぴっとりと触れる。

「…解った……あんたを助けてあげる…!」

いっそう強く首に巻きついた腕。
俺も腕に力をこめてナミを抱いた。


ワアァァ…!!と大きな歓声が上がる。
驚いて空を見たら、ちょうど花火が終わったトコで、金色の光がゆっくりと落ちながら、かき消えてく。
なぜか周りの観客数人が、俺達の方を向いて、はく手をしていた。







2そうのカヌーが光る水面をすべってく。
メガネ橋の下をくぐり、遠ざかってく様子を、橋の上で並んで眺めてた。

「あれが『ナイトカヌー』…観てるとロマンチックそうで、乗りたくなるわね」
「だったら明日乗ろう!俺も乗りてェ!」

河岸にたれ下ってるイルミネーションが、水面に映って瞬いてる。
「光の運河」って名の通り、まるで金色の河が流れてるみたいだった。

「それよりも先ずヨットに乗るんでしょ?私も乗るからフォローお願いね!」
「え?ナミも?乗ってくれんのか!?」
「恐いけど…待つより一緒に乗りたいもの。勇気出して踏み出すわ!」

にっこり笑って俺の両肩につかまる。
顔が近づいて来た。
唇に唇が触れる――やわらかい…甘い息が吹きこんだ。
味わってたのはわずかな時間で、すぐに離れる。


「………キスしてあげたってのに、どうしてそんな不満そうな顔してるの?」

暗くてもナミのほほが赤くなってるのが良く判る。

「だって…彼女からキスされるのって…男のメンツ丸つぶれじゃん!」

最初こそあっけにとられてた俺も、ジワジワと顔が熱くなってくのを感じた。
ナミがけらけらと笑い声を立てる。
白い息をやかんの湯気みたくポッポッポッと吐き出した。

「…待っててもあんたからしてくれないんだもん。一緒に部屋に居ても、押し倒そうともしない。あれこれ不安を抱えて、それでも覚悟を決めて来たってのに…肩透かし食らった気分よ」
「俺だって不安だった…抱きたくても、ナミがどう思ってるのか解らない内は出来なかった」

嫌われて、逃げられるのが恐かった。


「……不安なのはお互い様か」

手袋をはめてない手が、ナミの手袋をはめた手の中に包まれる。
ゆっくりもみほぐされると、温かくて気持ち良い。
のぞいた瞳の中に、金色の光でふちどられた俺が立っている。
肩をゆっくり抱き寄せ、今度こそ俺の方からキスをした。


「…初めて同士、今夜は頑張ろう♪」

唇を離したナミが明るく笑う。
その言葉を聞いた俺は、重要な事を思い出した。

「あ~~~~~~~~~~~~!!!!!」

「…!!――い…いいきなり何よ急に耳元で大声出して…!!!」
「コンドーム!!――買うの忘れた…!!」

ショックで足から力が抜ける。
がっくりとその場にくずれた。

「ば…馬鹿ッ!!阿呆ッ!!どうしてそんな重要な物…の前に、そんな事大声で言って、誰かに聞かれたら恥ずかしいでしょーが…!!!」
「…ナミ、どうすりゃいい?」

我ながら情けない声でたずねた。
ナミがちんつーな表情で「ハァーー……」とため息を吐く。

「…此処、薬局が有るから買えると思う」
「本当か!?やったー!!すぐ買って来る!!」
「…でも、今日はもう営業終ってると思う」
「マジかよ!??チクショー!!!」

いっきいちゆーする俺の正面にナミがかがむ。
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて言った。

「しょーがないから初Hは明日ねv」
「えええ!!?そりゃねーよナミ!!しよーぜ!!」
「駄目ェー♪させてあげなーい♪」
「いーじゃん付けなくても!!どーせ結婚すんなら出来てもOKだろ!?」
「駄目ったら駄目ェー♪根無し草な男相手に、無謀な真似出来るか!」
「せっかく一緒に泊まるってのに、何もしないなんてつまんねーじゃんか!!」
「うっさい私だってがっかりしてるんだから!!用意しなかったあんたが全部悪いんでしょー…!!」





次の日の早朝5時、ウソップから「セイコーしたか!?」と、メールが届いた。
それを読んだ俺は、「昨夜は予行!今夜が本番!」と返信した。






【終わり】



…ほぼ1年間連載にお付き合い下さった方、有難う御座いました。
お陰様で漸く書き終わる事が出来ました。

ダラダラ書いてた間に、ハウステンボスは大分変わりましたが(汗)、風景は変わらず美しいままです。
是非何時か遊びに来て下さい。

日を改めて連載の後書き的な物をUPする予定、その後ゾロナミ編を性懲りも無く始めようと考えてます。
ルナミ編の後に読むのは複雑かと思いますが、何となく世界が重なってますんで、続けてお楽しみ頂ければ嬉しく思います。
折角なんで(何がだ)ゾロナミ編は、ルナミ編の始まった9/16~開始する予定です。
出来なかったら御免なさい。(汗)

最後に…この回に登場するハンバーガースタンドは「ビッケン・ビッケン」、詳しくはまったりさんのブログを御参考にされて下さい。
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君と一緒に(ルナミ編-その18-)

2010年09月03日 20時44分08秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回の続きです。】





宮殿と庭に気を取られてるすきに、ナミとゾロの行方を見失っていた。
立ち止まって途方に暮れてた俺を、後から来たカップルが追い越してく。
カップルは門から続く道をまっすぐ進み、宮殿の中へと消えてった。

反射的に後を追っていた。

入口らしい扉を開けると他にも人が居て、どいつも中は素通り、外へ出て行こうとする。
入ったのに、もう出ちまうのか?
不思議そうに眺めてたら、スーツ姿の女が笑顔でそばに寄って来た。

「庭園は20時半まで入場を受け付けています。どうぞ御覧下さい♪」

ここの案内係らしい、すすめられた通り、2重になってる扉を開けて、外へ出る。

驚いた――庭中いっぱい、イルミネーションでキラキラだ!

奥には神殿なんかで見る円柱が建ってて、中心から緑のライトが立ち昇ってる。
その前にはライトアップされた噴水に花だん、ツリーやちょーこく像が点々と置いてある。
庭全体をグルッと囲んでる青白い光のアーチ。

すすめるだけあるなあと感心した。
門から入って最初に見た星くずの庭以上に、模様が複雑できれーだ。
奥まで行ってみようと階段を下りかけた所で、しゃべり声が耳に入り振り返った。

宮殿2階のテラスに人がいっぱい立ってて、庭園を見下ろしてる。
テラスに続く階段を探して駆け上った、けど集まった人の中に2人は居なかった。
がっかりして下りようとした瞬間、庭園のイルミネーションがパッと消えた。
ビックリして足が止まる、集まってた奴らがますますざわめいた。
カメラを構えて何かを待っている。
何が始まるんだろうと、テラスから身を乗り出した時だ。
音楽がドーンと鳴り響き、庭中のイルミネーションがいっぺんに瞬いた。

まるで姿の見えないオーケストラがそこに居て、生で演奏を聴いてるような迫力だ。
音楽に合せて庭のイルミネーションが、どんどん変わってく。
ウェーブでもしてるみてーに、点いたり消えたり。
集まってた奴らが歓声を上げる。
俺もナミに写メを送ってやろうと、ケータイを取り出した。
知らせてやれば飛んで来るかもしれない、並んで一緒に観たかった。

シャッターボタンを押す寸前、指が止まる。

――送った写メを、ゾロと一緒に観るナミが、頭の中に浮かんだ。

ためらってる内に音楽は鳴り止み、イルミネーションは元の止まった状態に戻っちまった。






『どうした?ハネムーン中に電話よこしやがって…のろけでも聞かせようってのか?なら切るぞ』
「ゾロ…帰ったら何も言わずに殴らせろ」
『はあ??何でだよ!??』
「いいから殴らせろ」
『馬鹿野郎!!!せめて訳を話せ!!聞いても殴らせる積りは更々無ェが!!』
「わけなんか話したくねェ。…けど俺は今、おまえを殴りたくてしかたねェんだ!」

電話の向こうでゾロが『はぁーーーー…』と、長いため息を吐いた。
そのまま黙る、こっちもケータイを耳に当てたまま、無言で待った。

『……プロポーズはしたのか?』
「した」
『で…失敗したわけか』

それについては認めたくなくて、口をつぐんだ。

『あのな…八つ当たりだったら他の奴に当たれよ。眉毛巻いてる奴なんか、打たれ強さからいって適任だと思うが?』
「サンジじゃなくて、俺はゾロを殴りてェんだ」
『だから何故俺なのか、訳を言え!!!』
「だからわけは言いたくねェ!!!…ただ、間接的でも、おまえは俺に殴られても文句を言えねェ事したんだ!!」
『間接的にも直接的にも、てめェの失恋に俺は一切関わっちゃいねェ!!!』

そう怒鳴った後、またしばらく沈黙が続いた。

『………悪ィ…失恋なんて身も蓋も無くはっきりと…傷口に塩塗っちまったな…』

間を開けて聞えて来た声は、さっきよりじゃっかん優しめだった。

「いーよ。ゾロに方向感覚とデリカシーを求めるのは、無駄な無い物ねだりだって解ってるし」
『…どうやら塩じゃ足りねェな。ワサビ塗るか?――ってのはさて置き、今こうして俺と電話してるって事は、彼女は傍に居ねェんだな。喧嘩して別れたのか?』
「ケンカじゃねーけど……泣いてどっか行っちまった」
『…居なくなったのは今か?前か?ホテルには行ってみたか?部屋に荷物置いたままなら、まだ希望は有る』
「部屋には帰れねェよ。カードキーは向うが持ってるんだ」
『フロントに頼めば良いだろ』
「けど…もしも荷物が消えてたらと思うと……恐くて確認出来ねェ」

ケータイも鳴らしてみた、あんのじょう電源が切られてた。
このまま2度と会えない事を想像したら、全身からスーッと血が抜け出てくように感じた。

『場内に呼出アナウンス流して貰うってのは?』
「それやって出て来ると思うか?」
『自分から行方くらましたんじゃ、望み薄だろうな……』
「ゾロ…俺…どうしたら良い……?」

また、『はぁーーーーーーーーー……』って長いため息が聞えた。
今度のは倍長い。

正面の噴水が一際高く立ち昇る、奥には黄金色の宮殿が建っている。
後ろにはさっき奥に見た、神殿に建ってるような円柱が6本。
反対側から眺める庭園もきれーだった。

見とれてたら明りが消えた。
再び音楽が始まる。
庭園のイルミネーションが、それに合せて波打つ。

『何だ?この音楽…まさかオーケストラでも聴いてんのか?』
「違う。…よく解んねーけど、ショーみてーだ」
『同じだ!観てる場合か!!休んでねェで捜せよ!別れたくねェんだろ!?』
「解ってるけど…どこさがせば良いのか……」
『知るか!てめェの恋路に俺を巻き込むな!!殴られるのも御免だ!!とにかく自力で捜せ!もう2度とかけて来んなよ!!』

言いたいだけ言って、ゾロはブチッと電話を切った。
いつの間にかカップルが数組、隣で観ている。
はしゃいで写真を撮り合ってるのを見てたら、気分がムカムカ悪くなった。

庭園をU字に囲む光のアーチ、近づいたらそれは木がからまって出来てるトンネルだった。
枝に電飾を編みこんでるみたいで、庭園に下りた俺は中を通り、反対側まで来たわけだ。
円柱が建ってる所で、トンネルはいったんとぎれる。
そしてまた始まって、宮殿の前まで続いてる。
つまりトンネルをくぐってけば、自然と庭園を1周する。
周りを気にせずいちゃついてるカップルを残し、俺は来た道と同じ様に、トンネルをくぐって宮殿に戻る事にした。

間かく空けて開いた窓から庭園がのぞける。
音楽が鳴り止み、イルミネーションも静止した。

天井から星がこぼれ落ちる、そう見える。
トンネルの果てまで続く光、吸いこまれて宇宙にでも出るんじゃないかと恐くなった。


俺が見たナミもゾロも、俺の知ってるナミとゾロとは違う。
暗かったけど『ナミ』のカッコは違って見えた。
半そでのシャツを着ていた。
けど…ナミなんだと思う。

俺が知らない世界のナミだ。
そして俺が知らない世界で、『ナミ』は『ゾロ』や『サンジ』と付き合ってる。
違う世界の同じ場所でデートしてるんだ。
考えたらしっとで体が爆発しそうだった。

目の前をナミとゾロが並んで歩いてるイメージが浮かぶ。
吸いこまれるみたいに消えてく2人――わめきながらトンネルを駆け抜けた俺の前には、見知らぬカップルが顔を引きつらせて立っていた。



宮殿を通り抜けて星くずの庭に出る。
門の方へ歩き出した所で、左から潮のにおいが風に運ばれて来た。

振り向いてにおいを辿る、もう1つ門を発見した。
くぐって下へと続く道を下りてく。

目の前には真っ黒な海。
月は雲にかくされ、空には星だけが瞬いてる。
他は水平線近くに漁火が点々と見えるだけ。
ズズズズ…!!と波が音を立てて岸に近づく。
ザパァァン…!!!とぶち当たって、またズズズズ…!!と近づいて来る。
暗い中に生き物がうごめいてるみたいで不気味だった。


――航海は独りじゃ絶対に出来ない事なんだ。


シャンクスが言った通りだ。
ナミの母ちゃんをのみこんだ、黒い壁みてェな波。
今ヨットを浮かべて海へ出たら2度と戻って来れねェ。
恐くて体がガタガタと震えた。






「けどシャンクスは独りで航海して、世界一周に成功したんだろ?」
「独りじゃねェよ!衛星電話を使って、沢山の人達に支えて貰ったから、成し得た記録だ!俺1人だったら出港3日目に出くわした嵐に打ちのめされ、即お陀仏だったろうさ!」
「へー、海の上でも電話は通じんのか!出前頼んだら届けてくれっかな?」
「蕎麦やラーメンは無理だが、ピザは届けてくれるぜ!注文後30分で届いた時には感動したもんだ!」
「早ェー!!ヘリで届けてくれたのか!?」
「ダハハハハ…!!信じやがって馬鹿が!!無理に決まってんだろ♪」
「てめこの大人のクセに子供だましやがって!!ガッカリしただろー!!」
「…しかしま、海に出た後陸に戻ると、所詮は人間も足の付いた動物、地面から離れて生きてはいけねェもんだと思い知るぜ。
 出前は届くし、枕は落ちねェ…芯からホッとするのさ!
 だからなァ、ルフィ……」
「ん?」
「灯台を見付けろよ!」
「灯台?どこのだ?」
「比喩だ!必ず陸に戻る為に、何時でもてめェに顔を向けて、光ってる女を見付けろって事さ!」
「シャンクスには居るのか?」






照れ笑ったシャンクスの顔が、岸にぶち当たる波の音で、はじけて消えた。
海岸に沿って続く細い道に、俺は独りで立っていた。

道の先にベンチが見える、夕方『ナミ』が『サンジ』にひざまくらしてやってたトコだ。
また現れたら…と思うと、見るのが恐くて、目をつぶり走り抜けた。


人が多くて明るい港に出ていた。
その向うにキラキラ輝く高い塔がそびえてる。

バスん中で案内してくれたおっさん、展望台が有るって言ってたな。
高い所からならナミを見つけられるだろうか?
頭に浮かんだ名案を頼りに、橋を渡って塔を目指した。





「――って見つかるわけねェか!」

5階展望台の窓から見下ろした街並は、まるでブロックで組み立てたオモチャみてーだ。
建物より小せェ人なんて、識別出来るわけがない。
昇って実際に見るまで気づかなかった俺はバカだ。
せめて明るい昼間だったら、望遠鏡使って発見出来たかもしんねェけど。
高いビルの屋上にたいてい置いてある望遠鏡、1回200円のそれは、すでにしめ切られた後だった。

「使ったって見つかりゃしないわよ!」

ペカン!!ってナミに頭を叩かれた気がして後ろを振り向く――エレベーター横で立ってる案内係のおっさんしか居なかった。

俺とそのおっさん以外、マジで誰も居ない。
いくら最終入館ギリだからって、もちっと居てくれよ!
さびしーじゃねェか!

「こんなにきれーな夜景が観られるのに…」

建物全部がキラキラだ、街並を区切ってる運河まで輝いてる。
真っ暗なのは森と海が広がってる部分くらいだ。
ここからなら街全体が見下ろせる、想像以上の広さだった。
どこをさがせば良いのか見当もつかねェ、ヘナヘナと床に座りこんじまった。

「つまんねーー……」

何をしても…観ても…つまんねェ。
独りで居るのがこんなにつらいなんて知らなかった。
ヨットマンになれる自信も失くしてた。

「…何が『太陽』で…何が『引きつける』だ…!
 誰も寄って来ねェじゃんか…!」

ナミが居なくなっただけで、こんなに弱っちくなっちまう俺だぞ。
おまえが思ってるように無敵じゃねェんだ。
弱点だらけの人間なんだからな。

「…あの…あの…お客様…!御気分でも悪くされましたか…?救護室へお連れ致しましょうか?」

案内係のおっさんが心配そーな顔で近寄って来た。
気分は悪いけど、体が悪いわけじゃない。
めんどーかけるのは悪ィんで、あきらめて降りる事にした。

こうなったらゾロの言った通り、ホテルに戻ってみよう。
部屋に荷物が有ったら、そこで待つ。
無かったら…その時は……




エレベーターを降り、運河にかかる橋を渡った所で、目の前をオレンジ色のバスが横切った。

「おい!!そこのバス停まれ!!乗ります!!乗りまーす…!!!」

手を挙げて追い駆ける、バスは港街へとかかる橋の手前で停まった。
扉を開けて、中から運転手のおっさんが顔を出す。

「このバスは終点スパーケンブルグ行きですが、宜しいですか?」
「終点?俺、ホテルに戻りてェんだ!ホテルアム…アム・・・アム何とか??」
「ホテル・アムステルダム?」
「そーそれ!!そこまで乗せてってくれ!!」

返事を聞くより前に乗りこむ、運転手のおっさんが困った顔を見せた。

「…済みませんがホテル・アムステルダムには、このバスは停まらないんですよ。それにホテル・アムステルダムへは、今このバスが走って来た通りを歩けば3分もかからずに…」
「あれ?おっさん、もしかして昼間乗った――」

メガネをかけ、苦笑ったその顔には見覚えが有った。
来て最初に乗ったバスの運転手をしてたおっさんだ。
俺の顔をじっと見て、おっさんも思い出したのか、にっこり笑った。

「ああ、今日入国されたお客さんですね!…お連れさんは?」

俺が黙って目をふせちまった事から、触れるべきじゃないと覚ったらしい。
おっさんまで気まずそうに黙り、他に誰も乗っていない車内に、エンジン音だけが響いた。

「………居なくなっちまった」
「居なくなった?…逸れてしまったんですか?」
「どうやってさがしたら良いか解んねェんだ…」
「携帯はお持ちでないんですか?」
「持ってるけど、向うが電源切っちまってる…」

また会話がとぎれた、エンジン音で体が振動する。
窓に映るイルミネーション、教会の鐘が「サンタが街にやって来る」を演奏した。

「…オレンジ広場で待ってみたら、どうでしょう?」
「オレンジ広場??」

首をかしげる俺に、おっさんはにっこり笑って教えてくれた。

「港前の広場の名前ですよ。お客さんが言った、乗れない用無しの帆船が繋留されてる」

思い出した!何とか号をけーりゅうしてる広場だ!
セグウェイに乗って廻った。
今日何度も通ったのに、名前はすっかり忘れちまってた。

「後30分もすれば、そこで花火が始まります。この街に来た人は、殆ど観に集まりますよ!」

そうだ、1日の最後に花火を打ち上げるって言ってたっけ!
ナミも観に来るかもしれない!
名案に何度もうなずくと、おっさんはハンドルに向き直り、扉を閉めた後、バスを発車させた。









…パレス後庭のイルミネーションについてはこちらの記事を。
15分毎に5分間と短いですが、1度観たら忘れられないショーです。
ちなみにハウステンボスでは迷子アナウンスはかけません。
理由はTDRを始め他のテーマパークと同じで、雰囲気を損なうから。
勿論係員に頼めば、ちゃんと捜してくれますよ。

昼間アレキサンダー広場辺りを歩いていたら、ドムトールン展望台からでも人を識別出来る。
感動したのは運河の底に走るまで見えた事、なんて澄んだ河の流れ!

残念だけど、現在ハウステンボスでは花火を毎夜打ち上げていない。
ただ近く花火師競技会が開催される。(→http://www.huistenbosch.co.jp/event/summer2010/festival/index.html)
久々の海上花火大会、観られる人はラッキー♪

そして次回(漸く)連載最終回!明日必ずUPしますんで~!
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君と一緒に(ルナミ編-その17-)

2010年08月28日 18時18分44秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回の続きです。】





「無事で良かったわ…セグウェイが」
「どーせ俺はこわれても良かったさ!」

意地の悪いナミの一言に、ふてくされて返す。
何度も転んで体中しこたま打った。
服を脱いだらきっと全身青あざだらけだろう。
息を吸いこむたびにズキズキ痛む。

「インストラクターの人から聞いたんだけど、『セグウェイ』ってすっごく高いらしいわよ。最初発売された時なんか、1台60万円もしたんだって。そんな高価な物を海に落っことしてたらと想像すると……ゾッとしない?」
「俺だって海に落ちてたら、おぼれて死んでたかもしれねーんだぞ!少しはゾッとしてくれよ!」
「あんたが落ちたら私が助けるに決まってるじゃない!…セグウェイ引き上げてから」
「結局セグウェイを優先すんのかよ!?」
「だって…ルフィの方が頑丈に出来てるもん!」

そう言って、にっこりほほえまれたら、何も言えなくなる。
良いんだか悪いんだかナミの中で俺は最強、勉強以外で心配なんてされた事が無かった。

「何時までも拗ねてないの!そんだけ信頼されてる証じゃない♪」

パーカーにつっこんでた俺の右手を、ニコニコ顔で取り出す。
ギュッとにぎられると、手袋ごしに熱を感じた。

ツアーの最後、港の広場に立ってたクルクル色が変わるクリスマスツリーの前で、記念撮影をしてもらった。
追加リクエストで、港につながれた走らない帆船の前でも、写真を撮ってもらった。
帆船は赤くライトアップされていた。

見回せば「光の街」って名の通り、塔も河も何もかも金ピカリンに変わってた。
水に光が反射して、下にも星空が在るように見える。
まるでプラネタリウムに居るみてェだなと思った。

「…ところで、その『私』と一緒に居たっていう男」

ピカピカ光る並木道を歩いてる途中、ナミが手を引っ張りたずねて来た。

「あんたのバイト先の先輩のサンジ君とやらに、そんなに似てたの?」
「似てたってもんじゃねェ、本人そのものだった!まゆげもちゃんと巻いてたし!」
「けど本人なわけないんでしょ?」
「うん、電話したら、確かに家に居た」


念の為自宅に電話したら、二日酔いで苦しんでたらしいサンジは、陰にこもったすすり泣きで応えた。
ばりぞーごんののしり呪いの言葉を目いっぱいぶつけられ、終いには何わめいてんだか判らなくなったんで切った。
とりあえずサンジにも、その内良い事が起こればなと思う。


「あんたって、霊感が強い性質とか?」

ナミのくちびるがプルプル震えてる。
自分だって有り得ないと思うけど、2度も見たし、声だって確かに聞いた。
笑われるのはしんがいだったから、ムキんなって見た光景をしょーさいに説明した。
俺の話を聞き終えたナミは、名探偵みたくあごに手を当て考えこみ、おもむろにしゃべり出した。

「つまりあんたの供述を纏めるとこうね――『私』に瓜二つの女は、あんたの前に立つ度連れの男を変え、仲睦まじい様子を見せ付けた後、煙の如く消え去った」
「ああ、その通りだ!」
「この事から推理するに、あんたが目撃したそれは――」
「ふんふん!」
「単なるあんたの幻覚」

――ズルッとこけそうになった、実際ひざがカクンて抜けた。

「だって見かけた2度とも、私はルフィの傍に居たでしょう?アリバイは完璧だわ!」
「だからって俺の目を疑うってのかァー!?」
「ゴメンゴメン♪あんたの言う事を信じないわけじゃないのよ。ルフィは嘘吐けないし。…でもちょっと嬉しい、私が他の男と仲良くデートしてる幻覚を2度も見るなんて…それって他の男に私を取られたくない独占欲?」

ニマニマ笑ってつめ寄る。
そーいうかいしゃくはしてみなかったな…思わず腕を組んでもっこうする。
ナミが俺の耳にヒソヒソささやいた。

「『私』が他の男と仲良くしてるの見て、どう感じた?ヤキモチ妬いた?」

あれはナミを他の奴に奪われたくないって気持ちが見せた幻覚なのか?
けどナミのカッコが1度目と2度目で違ったのは何でだ?

「ムカついた?何とも思わなかった?」

何とも思わなかったわけねーだろ。
目に飛びこんだ瞬間、胸が鉄砲で撃たれて、血が噴き出たみてーに熱く感じた。
特にサンジがナミのひざの上に頭置いてるのを見た時は…すぐに消えてなかったら飛びかかって殴ってただろう。
知ってる男が相手だと、リアルさが増してよけいに腹立つ。

ムカムカ思い出してたら、左ほほを優しくつつかれた。
振り向くのがしゃくで、目だけをナミの方へ動かす。
並んで歩くナミは、嬉しそうに笑って、俺の事を見ていた。

金色の並木道を抜けて、教会が建っている広場に着く。
広場には土産や食べ物や飲み物を売る屋台が並んでた。
すげーな、屋台までキラキラしてる。
昼間モッフルを買ったバス電車もどきの屋台も停まってて、つい足がフラフラと側へ寄ってった。
土産代をけずって買っちまおうか?モッフル美味かったしなァ、それとも今度はナミが食べたクレープにするか、ホットドッグの方が食いで有るかな?
目移りしてるそこへ、ナミの残念そうなため息が聞えた。

「あーあ、点灯式終っちゃった…セグウェイ乗るのを決めた時点で諦めてはいたものの、観られるもんなら観たかったなァー」

屋台街の側には木のイスとテーブルが散らばってて、その前にはクリスマスデコレーションされたステージが、教会の横のかべにくっ付くように設置されてた。
行きのバスの運転手のおっさんが、17:50~この広場で点灯式をやるって言ってたっけ。
時計を見たら30分以上オーバーしてる、当然ステージは真っ暗、客席はガラガラだった。

「明日の晩も居るんだから、明日観りゃいーじゃんか!」
「勿論その積りよ。でも観たかったなァと思って。そしたら2度目はホテルの窓から観たわ」
「2度も観るほど楽しいショーなのか?一体どんな事やるんだ?」
「それは私も観た事無いから解らないけど、案内によると、公募したカップルにステージの上でプロポーズして貰うんだって。で、告白した後、街のイルミネーションをパーッと点灯させるらしいわ」
「え?そんだけか?だったら俺観なくていいや!他人のプロポーズ観たってつまんねーもん!」
「あら、他人のだって、プロポーズはロマンチックな気分にさせてくれるじゃない」
「そうかァ~?俺はそうは思わねーけどなァ~~」

いまいち理解出来ず、鼻をほじくる。

「ま、あんたにゃ永遠に理解出来ない感覚だろうけど…何時でも女の子はロマンチックな告白を夢見てるものよ。自分には叶わない夢ならば、せめて他人の夢に乗って叶えたい…だから少女漫画でラブストーリーが流行るんじゃない」

うっとりと話すナミの目は、教会と並んで立つクリスマスツリーに向いている。
金と赤の実が鈴生りのビッグツリー。
吸い寄せられるように木の下まで歩いてった時、教会の鐘が「サンタが街にやって来る」を演奏した。

「うお!!すげー!!」
「わぁ…綺麗ーv」

教会の正面を向いた俺達は、同時に歓声を上げた。
8つ有る窓が全部ライトアップされてる、それが鐘の音に合わせて、赤・青・黄・緑と、どんどん色を変えてく。
ナミも俺も立ち止まり、だまって眺めてた。

鐘が鳴るたび空気が震える。
曲の終り際、1段高くカーンと響いた。
それを合図に窓は赤紫色で静止し、俺達同様足を止めて眺めてたヤツらは、満足して離れてった。

広場が再び静かになっても、ナミはまだ夢から覚めないで居た。
うるんだ瞳で見上げたまま、ゆっくりため息を吐く。

その表情を見ていた俺は、良い事を思いついた。
教会正面入口の真下には花時計、そして正面入口の左右には階段。
俺はナミの手を引っ張って階段を駆け上がった。

「ちょっ!…何!?」

教会の扉を背にして立ち、ナミの体をテラスの手すりに押しつけた。
俺の思惑に気づかないナミは面食らってる。
今から告白する事を聞けば、もっとビックリするだろう。
想像したら胸がワクワク踊った。

舌かんだりしないよう、深呼吸をくり返す。
頭を1度空っぽにしてから、俺は広場に響き渡るくらいの大声で、プロポーズをした。

「ナミ!!俺はおまえが好きだ!!
 おまえとずっと一緒に生きて行きたい!!
 だから俺と結婚してくれ!!」


言った――ついに言ったぞ…!!
まるでマラソン20キロ完走した気分だ、息がゼーゼー鳴ってる。
けどものすごくスッキリした!
初めに計画したようにはいかなかったけど、目的を達成出来た事に満足した。
後はナミの返事を聞くだけ…予想通り真ん丸に開いた目を、俺はじっと見つめて待った。
ピンクだったほほが、火が点いたみてーに赤く変ってく。
俺自身、体が燃え出しそーなくらい熱い。
照れくささに「しししっ♪」って笑ったら、ナミも少し強ばった笑顔を返した。


「……私と…ずっと一緒に生きて行きたい…?」
「うん!死ぬまでずっと一緒にな!」
「…嘘吐き!」
「え?今何て言った??」

聞えた言葉がすぐに理解出来ず、聞き直してた。
ナミの目じりがつり上がってく、どうも怒ってるらしい。
ひょっとしてプロポーズの言葉が気に入らなかったのか?
そりゃねーよ!旅行に来る前から今まで、頭しぼって考えたってーのに!
努力も知らずにケチ付けやがってと、こっちまでムカッ腹立った。

「…何で俺がウソつきなんだよ?何時そんな事言ったってんだ?」
「『お前とずっと一緒に生きて行きたい』って、嘘でしょ!?」
「ウソなもんか!!本気で言ってる!!何で疑うんだ!?ナミは俺がウソでプロポーズするような奴だと思ってんのかよ!?」
「だってあんた!…高校卒業したらシャンクスって人追って、ヨット乗りになる積りなんでしょ!?それで世界1周する積りで居るんでしょ!?」

くちびるをワナワナ震わせてナミが怒鳴る。
気迫に負けた俺は、一瞬言葉を失くしちまった。
見つめるナミの目ん中に、水がじんわりたまってく。

「彼女より夢を選ぶ気で居るくせに…プロポーズなんてしないで!とっとと海へ出てけ!!」

まつげに引っかかってた涙が、1滴こぼれたとたん、次から次へとあふれ出した。
ナミは気が強くてめったに泣かない、なのに今日2回も泣かせちまった。
ウソ泣きだったら何度も有る、けれど母ちゃんが死んだ時だって、次の日には笑ってた。
だから俺はそんなナミを泣かせないようにしようって…絶対泣かさないって、ナミの母ちゃんの墓の前でちかったのに…。

「ナミ、聞いてくれよ!俺、ナミより夢を選ぶつもり無ェんだ!ナミも夢も両方選びたいと思ってる…!」

泣いてる顔を胸に押しつけた。
落ち着かせようと、震えてる背中を手の平で軽くたたく。
うつむいてすすり泣いてるナミを抱きしめたまま、俺はゆっくり言葉を続けた。

「…両方選ぶってのもちょっと違う……ナミが居て、俺の夢は実現するんだ。利用ってんじゃなくて…ナミも夢も俺にとっては同じ線の上に在るんだよ…1つにつながってんだ…」

「………無理よ」

ボソッとナミが声をもらす、聞きづらかったんで体を離した。
ナミはまだ泣き顔のままだ。
なのに口端は持ち上がり、笑ってるように見えたから、よけい不安になった。

「…ルフィ……私はあんたの夢に付き合えない」
「何でだ!?俺の事嫌いなのか!?」

ナミなら断らないと信じてた。
ちょっとためらったとしても、プロポーズを受けてくれると思ってたのに。

「嫌いなわけないじゃない!…あんたが何処へ行こうと、私はあんたが世界中で1番好き…!」

そう言いながら、ナミはゆっくりと階段の方へ後ずさりしてく。
本気で離れてく気なのを覚り、胸の中心から恐怖がわき起こった。
腕を取ろうとして、スッとよけられる。
近づくほどナミは遠ざかり、何時の間にか2人とも階段を下りて、広場に立っていた。

再び教会の鐘が響いた、それに合せて正面の窓が何色にも変る。
今度のはさびしい曲だ、何て言ったっけ?
音楽の授業でピアノでの演奏を聴いた事の有る、この曲の名前は――思い出そうと考えてるすきに、ナミは広場から、歩いて来た通りに移動してた。

「…好きだけど……私にはあんたと一緒の夢を見る事が出来ない…!だって私は…海が嫌いだから…!」
「そんなのウソだ!!ナミこそ大ウソつきだ!!だっておまえの母ちゃん海が大好きだったじゃねェか!!おまえの名前は海の『波』から取ったのに…その母ちゃんが大好きだったものを、おまえは嫌いになれるのか!?」
「大嫌いよ…!!!だって海の波は…私から母さんを攫って…あんたまで攫おうとしてる…!!」

駆け寄ろうとして足が止まる。
俺がつめた距離だけ、ナミは離れてこうとするからだ。
ナミの泣いてる顔が、イルミネーションを反射して、キラキラ光って見える。
離さない為にどうしたら良いのか、どう言えば良いのか、必死に考えても答えが見付からなかった。
ナミがまた口をゆがめて笑顔を作る。

「ごめん、ルフィ…!!
 『彼女より夢を選ぶ』なんて、非難するような言い方してごめん!!
 それで良いの…あんたは夢を追っ駆けてけば良いの!
 私は夢を追ってるあんたが好きなの!!
 あんたの夢の邪魔はしたくない……」

「邪魔になんかなるか!!!
 むしろ逆だ!!必要なんだって何度も言ってるだろ!?
 どうして解ってくれねェんだ!!!
 俺はカナヅチだし、ナミが居なくちゃ地図も読めねェんだぞ!!」

「大丈夫よ、ルフィなら!!
 だってあんたは太陽だもの!!
 私が居なくなっても、あんたは天性の明るさで、人を惹き付けられる!
 だから…私は………もう…………!」

言い終らない内に、ナミは体の向きを逆転させ、通りを駆け出した。

「ナミ!!!待てよナミ!!!」

叫んでも止まらない、何時の間にか出来てた人垣を押しのけ、元来た港街の方へと向かう。
俺も人をかき分け後を追った。
突き飛ばした数人から文句を言われたけど、構わずに先を急いだ。


橋を渡る。
三角形のクルクル色が変ってくクリスマスツリーを横切る。
何とか号って言う走らない帆船も横切ってく。

普通に走れば俺の方が速い、すぐに追いついてたはずだ。
けれど夜になるにつれ、通りは人で混み、進むたびにぶつかるから、どんどん距離が離されてった。


気がつけばナミの姿を見失い、俺は妙に静かな坂道の前に立っていた。
道の両わきに、金色の並木と外灯が続いてる。
子供のころ読んだ絵本に出て来る金の林を思い出した。
不気味なほど誰も居なかったから、ひょっとして知らぬ間にパークを出ちまったのかとあせった。

――と、その時、2つの影が動いてるのに気づいた。

男と女が並んで坂を上ってる。
暗かったけど、どちらも後姿に見覚えが有った。

男はゾロで、女はナミだ。


「ゾロ…!!ナミ!!!」


血がふっとうした。
疑問に思うより先に、足が坂を駆け上ってた。

「ゾロ!!ナミを連れてくな!!!
 ナミを連れてかないでくれ!!!
 そいつは絶対に渡せねェんだ!!!
 頼む!!…頼む!!――俺からナミを奪おうとするなァァァ…!!!!」

大声でどんなに呼びかけても、2人とも足を止めなかった。
振り向こうともしなかった。
聞えてすらいない様子で、肩を組み笑い合っている。
走ってるのに、歩いてる2人の足に、なぜか追いつけなかった。

坂を上がり切った所で、門が現れた。
2人がくぐってく、後から俺も飛びこんだ。


辺りが明るくなったように感じられた。
黄金色に光り輝く宮殿が正面に建っている。
自分は本当におとぎ話の世界に迷いこんだのかと思った。

そうさっかくするくらい、目の前の光景は現実じゃないみたいだった。
暗い森と空をバックに、堂々と建ってる黄金色の宮殿。
俺が立ってるそこは広々とした庭で、星くずを一面にこぼしたみたく、キラキラ輝いていた。








…写真はハウステンボスの冬季名物「光の宮殿」…の前庭。
「星屑の海」と表現したくなる様な素晴しい光景です。
しかし建物抜けて後庭に入ると、更なる美しい眺めが広がっているのです。
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君と一緒に(ルナミ編-その16-)

2010年03月30日 19時28分24秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回の続きです。】




「…別にそんなつもりで言ったわけじゃねーし」
「解ってる」

先に風呂場を出て寝室にもどったナミは、べんかいする俺の方を振り向きもせず答えた。
髪のすき間からチラッとのぞけた耳が、ものすげー赤い。
もちろん暖ぼーが効き過ぎてるせいじゃなく、そー言う俺もいまだに顔のほてりが引かなかった。

「『初めて泊まる』事を意識し過ぎてんのね、私…あんたも。舞い上がった脳味噌が、勝手に言葉を意味深なものに変換しちゃうのよ」

「思春期で困っちゃうわよねーv」なんて、おどけて笑う。
そうして鏡付きの机の上に目を落としたナミは、置いてあったパンフをガサゴソと読みあさり出した。
時折「へー」とか「ふーん」とかつぶやいて、ぼっとーする。
ぼっとーしてるフリしてんのかもしれねェ。
ほっぽられた俺は、ベッドの上であぐらをかき、ナミの後姿を眺めてた。

イスに座って足を組むナミが、パンフをパラパラめくる音だけが響く。
髪も…肩も…背中も…尻も…脚も…女の体って、どーしてあんなに柔らかそーなんだろう?
幼なじみの長い付き合いの中、意識せずにさわりまくり、どんだけ柔らけーかは知ってる。
スポンジでもつまってるよーな、男と全然違うソフトなだん力。
眺めてる内、そのさわり心地を無性に確認したくなった。
頭の中ではとっくに後ろから手を回してギュッと抱きしめてる。
けどマジでそんな事したら、ブレーキ効かなくなっちまいそーで恐い。
いっそそのまま抱きしめてプロポーズなんて作戦を考えた時、ふと鏡に映るナミがパンフでかくしてた顔を持上げた。
そして目が合った瞬間、逃げるようにまた、パンフで顔をかくした。

ダメだ、それじゃ…抱きしめる事とプロポーズ、どっちが一番の目的だか判らなくなる。
抱きたいのも有るけど、一緒に生きてく事、それを先に約束して欲しいんだ。

だから今はグッとがまんする決意をしたものの、部屋にじゅーまんしてるアヤシサは何とかしたい。
無言で居るからよけー気まずいんだと気付き、TVのリモコンを目で探したら、ナミが座ってる机の左横に置いてあった。
んなトコ置くなよ、不親切だな!
今ベッド下りてナミの側に近付いたらヤバイって、空気読めよ!
冷静に考えたらナミに言って、TV点けてもらえば良かったんだけど、テンパッてたこの時の俺は全く気が付かなかった。

「ね、ルフィ!これ体験してみない?…って何カチンコチンに固まってんの?あんた」

不意にこっちを振り向いたナミが、不審そーにたずねる。
何時の間にか俺は、そーとーこわばってたらしい。
一気に恥ずかしくなってきんちょーを解く、そのとたん背中がパキンッて鳴った。

「……今動いたら負けな気がしたんだ」
「何それ?独り『ダルマさんが転んだ』でもして遊んでたの?」

俺の内心のかっとーも知らずに、ナミはクスクス笑う。
んにゃ、さっき目をそらした意味を考えると、知っているのに知らんぷりしてるって事だ。
もし今抱いたとしてナミは嫌がるだろう、それを俺は理解した。
逆向きに座り直したナミが、イスの背を使って紙しばいするかのよーに、パンフを開いて見せる。

「此処に着いて直ぐ、あんたが私をヨットに乗せようとして連れてった、『パラディ』って場所を覚えてる?あそこで『セグウェイナイトツアー』ってのを受付てるんだって」
「せぐうぇい???」
「写真で見たところ、立ち乗りのスクーターって代物みたい」

そう説明しながら指差された写真を、俺はベッドの上であぐらをかいたまま、首だけを前に伸ばして見ようとした。
あくまで近寄らない気で居るのをさとったナミが、苦笑ってパンフを投げる。
ベッドに落ちたパンフの左半分には、クリスマスディナーの写真とメニューがのっていて、俺の目はすぐに吸い寄せられた。

「すげェ美味ほーvナミ、クリスマスツリー型のステーキだ!食いに行こう!!」
「その写真じゃないでしょーが。右下、右下の写真を見なさい!」

間ぱついれずに低い声でツッコミを返される。
俺は大人しくナミの指示にしたがい、右ページ下の小さな写真を見た。
自転車でもない、バイクでもない、見た事も無い乗り物を立ち乗りする3人の男女が、イルミネーションでピカピカ輝く夜の街を走ってく写真だ。

「どう?中々楽しそうでしょ?」

イスから身を乗り出して聞くナミの目は、すでに乗り気でキラキラだ。
俺だって珍しい乗り物は大好きだから、乗ってみたい。

「けど高過ぎるぞ、これ!90分で8千円もすんのか!?」
「あんたが食べたいって言った1万円クリスマスディナーよか安いわよ!それに30分2千円のコースも有るじゃない」
「スピードもあんま出なさそうだしなァ…」
「乗る前からグチグチ言うなんて、あんたらしくないわねェ」

金額にケチ付けたり、これじゃまるでナミみたいだなと、自分でも思う。
けどこれには訳が有る……ぶっちゃけ色々買い食いしたせーで、まだ1日目だってのに小づかいがピンチになっていた。
2千円だって今の俺には高い、福○んの土曜限定百円ぎょうざが、20皿食える計算じゃねーか。
しぶってる俺の様子から、ふところ具合を察したのか、ナミは信じられない提案をした。

「もし体験するなら、私が奢ったげても良いわよv」
「ほ、本当か!?短期取立て高い利子付けてか!?」
「んーん、利子なんて付けない、返せとも言わない、全部まるっと私の奢りv」
「マジでか!?明日嵐が来て地球終るんじゃねェ!?」
「…心変わりするわよ」
「よし乗ろう!!どうせだったら、その隣のナイトカヌーも試――」
「船は、お断り!」

「光の街セグウェイナイトツアー」の隣には、光る河をこいで行くナイトカヌーの紹介がのっていた。
ノリでちゃっかりそっちもおごってもらおーと考えたけど、残念ながらナミはそこまで気前の良い女じゃなかった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「セグウェイは環境に優しい、電動立ち乗りスクーターです。本ツアーでは先ず20分間店の前で講習を受けて頂いた後、光の街のスポットを巡る予定となっています。約30分と短いコースの為、全てのお勧めスポットを巡る事は出来ませんが、言うなれば本コースは『お試し』、乗り心地を気に入られ、もっと楽しみたいと希望される場合は、是非90分コースも体験してみて下さい♪」

ヘルメットをそーちゃくさせられ並んだ俺とナミの前で、コーチの男がはつらつとスマイルをふりまく。
店の入口に背を向けて立つその手は、見た目巨大コロコロっぽい乗り物のハンドルを握っていた。
近くで見たセグウェイはカッコ良いとも悪いとも言い切れねーびみょーな感じだ。
てか断然バイクの方がカッコ良いし、座って乗れる分楽ちんだと思う。

ウソップが乗り回してるバイクを、頭の中でイメージする。
買って自分好みに改造したマシーンを、ウソップは命の次に大事だと言って、仲間にも絶対貸そうとしない。
特に俺とゾロには断固貸すつもりねーんだと。
ムカツクからゾロときょーぼーして、こっそり乗る計画を企ててる。

つい思考がウソップのバイクに行ってる内に、コーチの説明は終ってた。
なんかボタンにさわるなとか色々注意されてた気がするけど、ま、いいか、乗ればカンで解るだろう。

陽が沈んで暗くなった空は、絵の具の色に例えるなら、ぐんじょー色。
濃くなればなるほど、オレンジ色の街灯が引き立って思えた。
店の隣の街路樹までキラキラ光ってる、まるで黄金の並木道だ。
俺達の後ろは真っ黒な海で、鏡みたいに街の明りを反射していた。

「18時になればオレンジ広場のツリーが点灯します。此処での講習を終えて広場に出発する頃、丁度点灯するでしょう。そしたらツリーの前で記念撮影をしたいと思います」

コーチがさらに説明する。
18時か…という事は教会の広場でやるっていう点灯式には間に合わねーなァ。
隣に立ってるナミも同じ事を考えたらしく、少しガッカリした顔になった。
けど仕方ねェ、あのまま部屋に居続けたら変な気起しそーだったし…。
プロポーズを済ますまでは、部屋にもどらないで居ようと決心した。

ひもで囲ったスペースの中、俺とナミはコーチが教える通りに、利き手でハンドルの真ん中を押さえ、反対の手でスティックを持った。
そう、ツアーと言いながら、参加者は俺とナミの2人だけ。
けれどコーチはさびしさをみじんも感じさせない陽気な声で、乗り方の説明を続けた。

まず俺に付きそって、足をゆっくり車体に乗せるよー言って来た。
教えられた通りに片足ずつ足を乗っけてく。
ところが上手く立てたと思ったら、車体が勝手にグルグル回転し出した。

「うわああああああああああああああああああああああ~~!!!!」

コマみてーにグルグルグルグル、どーやって止めたら良いのか解んねェ!

「ああああああああああああああああああああああああ~~!!!!」
「ルフィ!!」
「お客さんハンドル!!ハンドル傾けないで!!水平に握って下さい!!」

自分ではかたむけてないつもりなのに、なぜか回転しちまう。
グルグルグルグル、グルグルグルグル、目が回っても停まらず、俺はつい手を放しちまった。

「ああああああああああああああああ…!!!!――ああっ!!!!」
「ルフィーー!!!」
「お客さーん!!!大丈夫ですかーー!!!」

――ゴロゴロゴロロォーン!!!!と、派手な音を立てて、俺はセグウェイと一緒にたおれた。
…うええっ…胃がシェイクされて吐きそうっ…!!

うずくまる俺を気づかいつつ、続いてコーチはナミに付きそい、乗り方を教えた。
ひそかに転ぶ事を期待してたのに、ナミはスムーズに乗って、立って見せた。

――面白くねェなァ!!

その後コーチが再び俺に付きそってくれて、悪戦苦とーの末何とか立つ事に成功した。

「あんたは他人の話を聞かないものねェ」

それ見た事かとナミが笑う。
俺は不機嫌モードになって、そっぽを向いた。

コーチの解説によると、セグウェイのそーじゅーは、体重を移動する事で出来るらしい。
つまり前進する時は体を前に、後退する時は体を後ろにかたむける。
右や左に曲がる場合も同じ、かたむけた方向に進むんだ。
停止する時はハンドルを水平に、真直ぐ立てば良い。
それだけ解れば充分、運動神経には自信が有るんだ!
停止と回転をマスターし、前進の練習に進んだ俺は、コーチが教えた通り、体をめいっぱい前にかたむけた。

「ああ!!?うあああああああああああああああああ~~!!!!」
「お客さん!!!前に傾け過ぎですー!!!」
「ルフィ!!!ハンドルを水平にしてェーーー!!!」

――ゴロゴロゴロゴロ…ガッシャーン!!!!

予想したよりずっと速いスピードで発進したセグウェイは、俺を乗せたまま店に飛びこみ、商品だなに直撃したところで停まった。
助けに来たナミが、商品に埋もれた俺の姿を見て、「さながらボーリングのボールみたいだったわよ、あんた」と皮肉を言った。


追加されるダメージ、それでもくじけず今度は後退の練習をする。
コーチに教えられた通り、体重をめいっぱい後ろにかけた。

「ああ!!?ああああああああああああああああああ~~!!!!」
「お客さん!!!今度は後ろに傾き過ぎーー!!!」
「ルフィ早くハンドルを水平に戻して!!!海に落ちちゃうーー!!!!」
「あああああ…!!!!――クソッ!!これでどうだァー!!!!」

――グルルルル…!!――ダンッ!!!!

危うく海へ落ちる寸前、俺はとっさに背面宙返りをして着地した。
肩でゼーゼー息吐く俺を、ナミとコーチがほーけたように見てる。
と、コーチがおもむろにパチパチパチー!!と拍手をし、ナミもつられたよーに拍手した。
された俺は得意になるべきかならざるべきか悩んだけど、とりあえず2人に向いVサインで返した。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「えー……多少の不安は拭えませんが、この講習で僕が教えられる事は、もう何も有りません!予定してる時間を超過してる事ですし、幸い本日は平日で観光客も少ない事ですし、思い切ってオレンジ広場まで出発致しましょう!」

ダメージを受けてるわけじゃないのに、コーチの笑顔は何だか疲れていた。
隣に立つナミの顔も心なしか疲れてる。
無理ねーか…正直ナメてた、セグウェイのそーじゅーが、こんなにも難しいなんて。
それでも前進と後退と回転と停止の仕方をナミと俺がマスターしたところで、コーチはいよいよ場内ツアーに出発すると宣言した。
よーしよしよし!待ってました!!

先頭はコーチ、続いて俺、ラストはナミ。
列を作ったところでコーチは絶対にはみ出ないよう注意し、セグウェイを軽やかに発進させた。
後に続こうと俺も体を前にかたむけ――たつもりが、少し左にかたむいてたらしい。
しまったと思った時には遅く、途中でUターンしちまい、俺だけ逆方向に走り出した。

「あああ!!?あああああああああああああああああ~~!!!!」
「食み出ないでって言った傍から…お客さーーん!!!直ぐに停まってーーー!!!」
「ルフィーー!!!あんた独りで何処行く積りなのォーーーー!!?」
「ああああああ…!!!!――し、知らねェ~~~~~~!!!!」

すぐに停まろうとはしたんだ。
けど、つい握ってたハンドルを、めいっぱい前にたおしちまった。
その内しっそー感に酔い始め、気が付いたら2人の声が遠ざかってた。
体重を前にかけるほどスピードが出る、顔に当たる風がすっげー気持ち良い。
ヨットで走るのもこんな気分なのかな?そう考えたら停めらんなくなってた。

俺が走る左側には夜の海、波間に明りがユラユラゆれてる。
右側のお城みてーにきれーなレンガの建物を過ぎ、何もけーりゅーされてないさん橋を過ぎ、目の前に現れたのは細くて暗い1本道だった。

外灯で照らされたベンチに人影が見える、誰か居るんだ。
海を向くベンチに女が1人座っていて、男をひざまくらしてた。

近付いてく内…その女と男に見覚えが有る気がした。
肩をむき出しにした白いブラウスに、青いミニスカート。
夜でも明るく判る男の金髪、なじみ深いオレンジの髪の女。

「……ナミ!?――サンジ…!!?」

ベンチに座ってた女はナミで、そのひざに恋人のように頭を寝かせてた男はサンジだった。
驚いた瞬間、グラッとセグウェイがかたむき、投げ出された俺は、強く背中を打った。

痛みをがまんして、すぐに体を起す。
けれどもう1度見た時、ベンチには誰も座ってなかった…アトラクションの時と同じく、2人はまるで幽霊みたいに消えちまったんだ。








…写真は話に出したセグウェイ、旧パラディ前で撮った物。
以前も言いましたが、現在セグウェイの受付場所は、オレンジ広場ステージの真向いに建つアクティビティセンターに変ってます。
それと光の街ナイトツアーは冬季に実際有ったけど、30分2千円のコースなんてのはフィクションです…嘘吐いて御免なさい。(汗)

ブレーキが無いんで、足下がしっかり固定しない感覚に、最初は慣れんでしょうが、大抵は20分講習を受ければマスター出来る、操縦が楽な乗り物なんですよ。
宙返りは危険なんで真似しないで…ってかセグウェイはドッシリしてるから、無理なんじゃないかと思う。(汗)
興味を持った方は公式サイトのこちらを御覧下さい。
(→http://www.huistenbosch.co.jp/transport/detail/5120.html)


え~話の途中ではありますが、一旦此処で連載を中断して、続きは7/3以降に。(汗)
毎年の事ですが、ナミ誕の準備にかかりますんで。
残り3~4話は間違い無くナミ誕時に公開する積りなんで、その頃にまた読みに来て頂ければ嬉しいです。
尚、7/2迄のブログ更新予定は、4/1か4/3に書きますんで…。
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君と一緒に(ルナミ編-その15-)

2010年03月17日 22時40分33秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回の続きです。】




「夜景が綺麗に観える部屋ですよ」

女はそう言うと、奥から1つ前のドアを開けて、俺達を中へ案内した。
部屋を見回したナミが、「広い…!」と感動したように一言つぶやく。
確かに広い、メチャメチャ広い、洋室だから、たたみ何じょー分かは判んねーけど、俺んちの居間とトイレと台所を合わせたより広いかもしんねェ。
でっかいベッドが2台、白いかべに背中をくっ付けて並んでる。
窓際には横になれるくらい細長いソファと、丸テーブルにイスが2つ。
ベッドの正面には鏡付きデスクとTV――TVの横には入場する時預けた俺達のカバンが、ちゃんと運びこまれてた。
そんだけ家具が有るのに、ちっともせまく感じられない。
俺達がこーふんしてはしゃぐ様子を、ホテルの女は満足げに眺め、暖ぼうや照明のスイッチや、他色んな物について説明した後、おじぎして出て行った。

バタンとドアが閉じられる、と同時に肩から一気に力が抜けた。
ナミと2人だけになった気安さから、じゅうたんの上にゴローンと寝転んでみる。
いっぺんやってみたかったんだよなァ~、部屋ん中で大の字寝!
物で埋まってる俺の部屋じゃ、絶対無理だもんな。(て言ったらナミから「捨てれば良いじゃない」って言われそーだけど)

「はー…気持ち良い…!」

幸せにひたってるそこへ、チョンチョンとほほを突かれる。
目を開けたらナミがおかしそーに笑って、俺の顔をのぞきこんでいた。

「もう、寝るんならベッドにしなさいよ!」
「解ってねーなー!床に寝るから良いんじゃねーか!ベッドに寝るんじゃ『当り前』んなっちまうだろ!」
「言いたい事は理解出来るけど、せめて靴脱いでからにすれば?」

オレンジ色の髪が、パサリとたれかかる。
面と向って話してんのに、顔が黒く影んなってて、良く見えねェ。

「そうか!部屋が暗いからだ!!」
「ええっ!?いきなり何!?」

ガバッてはね起きたら、ナミまでビクンって体を起した。
気にせず窓に飛び付いて、部屋を二重におおってた緑と白のカーテンを開ける。
けれど窓の外はすっかり暗くなってて、期待してた明りは入って来なかった。

「凄い…素敵!あの教会が目の前に観えるじゃないの!」

隣の窓から外を眺めるナミが大喜びする。
来たばかりの時バスから見た、石造りのちょーこくかべの教会が、すぐ前に建っていた。
その後ろには同じくバスから見た、ドム何とか言う高いとうがそびえてる。
ホテルの女が言った通り、部屋は建物が沢山建ってる広場を向いてて、眺めが最高に良かった、けど――

「こうして上から眺めると、煉瓦の家がまるでブロックみたいで可愛いわねv」
「うーん…けど思ってたのと違くね?『夜景がきれーに観える部屋』っつったのに、街灯がポツンポツン点いてるだけじゃんか」

ポケットに折り曲げて突っこんでたパンフを見せる。
そこにのってる写真の教会やとうは、イルミネーションでピカピカ光り、夜を明るく照らしていた。

「なのに暗いままなんてサギじゃん!節電かァ!?」

俺の指摘を受けて、ナミも写真と窓の景色を見比べる。
パンフを読んでる内、合点がいったように、明るい声を張り上げた。

「17時50分から街の点灯式をやるんだって!…ほら!バスの運転手さんも言ってたじゃない!そしたらイルミネーションがパーッと灯るわよ!」
「なるほどそーか!点灯式をやったら明るくなるんだな!じゃあここで見てよう!」
「…ってイルミネーションが灯るまで、窓に貼り付いてる積り?」
「後1時間もしない内に点くんだろ?よゆうで待てるさ!」

ニカッと笑って答えると、ナミはため息吐いて、後ろのベッドに腰かけた。
あきれ半分、あきらめ半分って顔してる。
けどせっかく夜景がきれーに観える部屋に泊ったんだ。
イルミネーションがパーッて点く瞬間を目にしたいじゃんか。
長ソファを窓の側まで引きずってき、俺はワクワク胸おどらせ待機した。

――にしても暗い。

「なァー、部屋のライト、もっと明るく出来ねーの?」

後ろに振り返ってナミにたずねる。
長ソファの横に立ってるスタンドをカチカチいじってみたけど、うすぼんやりオレンジ色に光る以上は明るくならねェ。
ナミがベッドランプのスイッチを調節し、玄関口のライトまで点けても、大して明るくはならなかった。

「無理、ここまでの明るさが限界みたい」

お手上げといったポーズをして、首を横に振る。

「…なんか電気スタンドってより、あんどんみてーだな」

どのスタンドもうすーくぼーんやりオレンジ色に光る設定らしい。
けーこー灯のまぶしさに慣れてる俺には、ちょっとなじめなく感じられた。

「でもこれくらいの明るさの方が、目に優しいのよ」

フォローするようにナミが言う。

「むしろ逆じゃね?こんな明りの下で勉強したら、目を悪くしそうじゃんか!」
「勉強なんて、自発的にした事無いクセして、よく言うわ!そもそも勉強目的でテーマパークのホテルに泊まる人なんて居ますか!パークで遊んだら、後は寝るだけで……しょ。

急にナミの声が小さくなり、部屋から音が消えた。
何とはなしに目と目が合う、ナミの顔がたちまち赤くなった。
つられて俺の顔までほてる。
シーンと音が鳴りそなくらい静かな部屋の奥、ドアが閉まってるのが目に付いた。
向かい合ってベッドに座ってたナミが、俺から目をそらすように下を向く。

この時になって、初めてナミと2人っきりで泊まる事を意識した。

しかも2泊、2晩一緒に過すんだ。
並んだベッドに横になって2人っきり……
幼なじみだし、ガキのころは1つ布団にもぐって寝たりしたけど、高校生になった今は、そんなマネして平気で居られる自信無ェ。
いや大丈夫か?ベッドは2台、間にすき間が有るし、離れて寝る分には大丈夫か?
てか1つベッドに一緒に寝た方が良いんだろうか?


『一緒に旅行すんのをOKしたって事は、HはOKと解釈して良いんじゃねェ?』


忘年会でのウソップの言葉をとーとつに思い出した。
チラッとナミの顔をうかがうと、下を向いたままライトのスイッチを、しきりにいじっている。
そのたんびに部屋が明るくなったり暗くなったりするから、よけいに胸がザワついた。


『一緒に旅行するのをOKしたって、体までは許してくんねェかもしれんだろ』


サンジの意地悪い言葉が、続いて頭の中によみがえった。
一緒に泊ってもHは×な場合も有るし、○な場合も有る。
だとしてそれは、どーやって見きわめれば良いんだ?
ナミは今どんな気持ちで、この部屋に俺と居る?

俺はナミが好きだ、ナミも俺が好きだ――これははっきりしてる。
ナミとSEXしたいか?――俺はしたい!
ナミは俺とSEXしたいのか?――これが俺には判んねェ。

泊まるなら、一緒に寝たい。
寝たらやっぱ………するよなァ。
マンガなんかで見るみてーに、「がまん出来ねェ!!」つって押し倒すつもりはねーけど…つかトイレがまんしてんじゃねーんだし。
もうちっと落ち着いた態度でキスして、服を脱が……すのか!?俺がナミの服を!?
真面目な顔で出来るかな?…照れて笑っちまう気がすんだよなァ。
第一やるんならナミの気持ちを確めてから、プロポーズをしてから――

「そうだ!!先にやる事有んだろ!!」
「え!?え!?何!?何を…!?」

ようやっと頭ん中で考えをまとめて立ち上がったら、何を慌ててかナミまで立ち上がった。

「ど………どうしたんだ?」
「ルルルフィこそ…!」

気まずい空気を感じて、互いにえへへーと笑った。
けれどその笑いは続かず、またすぐにちんもくが下りる。
外は静かでも中は嵐だ、心臓の音がドックドックって、すんげーはっきり聞えた。

「そそ、そうだルフィ!こんなの見付けちゃったーv」

いきなりナミが不自然に裏返った声を出した。
ベッドわきのテーブルの上に置いてあった物を、指でつまんで見せる。
それはメッセージが書いてある小さなカードで、折り紙で折ったらしいウサギが貼ってあった。

「ね、可愛いでしょーvミッフィーよミッフィー!ホテルの人の手作りみたい!良く出来てるよねー!」
「へー…『街を彩るイルミネーションに包まれ、ときめきのひと時をお過ごし下さい』……」
「……ときめきのひと時」

読んだ後で後かいした。
「ときめきのひと時」って、んな表現されたら想像しちまうじゃねーか!
ナミも同じく考えたみてーで、みるみる真っ赤になってく。

――あー、もー、なんか居づれー!!

とりあえずその場から逃げようと、「風呂はどんなだろうな」っつって探しに出る。

玄関わきにドアが2つ、タンスの真向いに並んでた。
玄関すぐわきのドアが風呂と洗面所に続いてて、部屋とは違い、ライトが明るかった。
かべが白いタイルだから、なおさらまぶしく感じられる。
ぜーたくにも洗面所とは別に、風呂場にまで洗面台が有った。
しかもかべ一面ガラス張りの…鏡の多い部屋だよな、そーいえば。
風呂は俺の家と同じ様な白のユニットバスだけど、足が楽々伸ばせる広さだ。
つい遊び心がわいて、服を着たまま、お湯もためずに中へつかる。
後から風呂場に入って来たナミが、そんな俺の姿を見たとたん、目をつり上げて説教した。

「だからせめて靴脱げって言ってるでしょーが!」

そう言うナミの足下も、いまだにクツだ。

「いーじゃんか!どうせ汚れ洗い流す場所なんだし!それよかナミも入れよ!広々~としてるから、充分一緒に入れるぜ♪」

気分を出そうと、鼻歌交じりで誘う。
ところがナミは強ばった顔で固まっちまった。

「…い…一緒に入るの…?」
「………あ!」
「…お…お風呂に…一緒に…?」
「…ええと……」

自分の失言に気付くも時すでに遅し。
お湯につかってる訳でもないのに、のぼせるくらい体が熱くなった。






…写真はホテル・アムステルダムのベッド。
海側の方がルフィの好みだろうけど、リクエストしたのはナミって事で。
でも冬に泊まるなら街側が綺麗ですよ。
コメント
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