瀬戸際の暇人

只今、夏休み中

上陸!ハウステンボス!!その10

2010年07月31日 15時58分53秒 | ワンピース
前回の続き】

※ル=ルフィ、ゾ=ゾロ、ナ=ナミ、ウ=ウソップ、サ=サンジ、チ=チョッパー、ロ=ロビン、フ=フランキー、ブ=ブルック、の台詞です。





ナ「それでは№5!チョッパーいらっしゃい!――ほら!サンジ君そこ退いて!」
サ「エエ?あ、や…俺はまだナミさんと向い合って話してたい――」
ナ「あんた1人に時間割いてらんないの!グズグズしてたら着いちゃうじゃない!ロビン、強制退場させて!」
ロ「お易い御用よ――百花繚乱(シエンフルール)…大飛燕草(デルフィニウム)!!」
サ「ああ!?そんな…!ナミさん!ナミすわぁ~~~~~~~~~~ん…!!!
ウ「おおっ!!サンジが大玉転がしの大玉の様に、百本の腕の上をコロコロと…!!」
フ「何も船外にまで叩き出す必要無ェだろうに…何時もながら酷ェ事する女だぜ」

ナ「さ、チョッパー!席に座って!」
チ「ええっと…良いのか?」
ナ「サンジ君の事なら気にしなくっていいの!疾うに持ち時間30分もオーバーしてんだもん!充分でしょ?」

ゾ「…そのオーバーした30分は、独りで考え込んでて遣っちまったようだがな」
ル「実際ナミとサンジが話してたのって5分もかかってねーよな」
ウ「つくづく報われないのがデフォな男だぜ」

ナ「それでチョッパーは上陸したら何がやりたいの?訊きたい事が有ったら言ったんさい!」
チ「あ、あのな…ハウステンボスってテーマパークなんだろ?観覧車やジェットコースターは無いって聞いたけど、コーヒーカップやメリーゴーラウンドも無いのか?」
ナ「コーヒーカップは無いみたいだけど…メリーゴーラウンドは有るみたいよ」
チ「ホントか!?何処に有るんだ!?」
ナ「街の中心エリア、ビネンスタッドだって。『カルーセル』って名前で、木製の白馬26頭、2台の馬車が、音楽に合わせてクルクル回るって、パンフに紹介されてるわ」
チ「うははァ~♪♪他にはどんなのが有るんだ!?」

ナ「ハウステンボスでは今迄子供向けアミューズメントを主体に置いてなかったらしいんだけど、今年の夏から家族客にもっと楽しんで貰おうと、アミューズメントにも力を入れてく事を決定したらしいわ。
  ミュージアムスタッドを『スリラーファンタジーミュージアム』と言う名のホラータウンにリニューアル。
  世界最大級の恐くて楽しいワンダーランドが誕生だって!」

フ「さっき話したゴーストタウンだな!?」
ウ「だからその呼び方はマイナスイメージもたらすから止せって!」
ロ「ブルックが違和感無く溶け込めそうな街ね」
ブ「え?そんな、無理です私!お化け大の苦手ですから!見たら鳥肌立ってしまいますよ!立てる肌有りませんけど!」
ル「要はお化け屋しきだろ!?皆で入りゃあ恐くねェって!ワックワクすんなァ~~♪」

チ「……オレ…お化け屋敷行きたくねェ。もっと明るくて楽しいの紹介してくれよ!!」

ナ「明るくて楽しいのって言うと…ニュースタッドに有るアミューズメント館かな?
  此処は元祖アミューズメントエリアで、場内アミューズメントの大半が集合してるそうよ。
  騙し絵で有名な鬼才版画家M.C.エッシャーの描く世界に飛び込んだ気分になれる3D映画、『ミステリアス・エッシャー』。
  顔をスキャニング撮影する事によって、映画の登場人物となり、SF映画の中で活躍出来る『グランオデッセイ』。
  光る小舟に乗って小さな魔女と一緒に冒険の旅に出る、『フライト・オブ・ワンダー』。
  800tもの水を使って大洪水の猛威を体感させるシアター、『ホライゾン・アドベンチャー』。
  もしも月が無い世界を迫力の音響とCG映像で体感させるシアター、『kirara』」

チ「1…2…3…4…5つ有んのか!そん中で1番楽しいのは何だ!?」
ナ「私に訊いても判る訳無いでしょ?1度も行った事無いんだから」
ゾ「そりゃ旅のアドバイザーにあるまじき発言だろ」
ウ「う~~ん、話聞いた限りじゃ、『グランオデッセイ』が良さ気だな。映画の登場人物になれるって事は、主役も演じられんだろ?」
ル「俺は大洪水が体験出来るって言う、ポセイドンアドベンチャーだな!」
ナ「体験じゃなくて体感!ポセイドンじゃなくて『ホライゾン』よ!」
ル「800tもの水が迫って来んだろ?夏は涼しそうで良いじゃん♪」
ゾ「同感だ、暑気払いにもってこいだな」
ブ「ああ!?でも800tもの水が迫って来たら、悪魔の実の能力者である私は溺れてしまいます!!」
チ「オレもだ!!どうしよう!?遊べねェ!!」
フ「だから体感するだけだろ?アミューズメントなんだから、実際に洪水起して、客溺れさすわけ無ェだろが!」

チ・ブ「「なーんだァ~!!ホッ!」」

ル「ウソ洪水か!つまんねーの!」
ゾ「お前自分も悪魔の実の能力者である事忘れてるだろ?」
ロ「全員遊べるようで良かったわv」

ナ「そういえばkiraraの横に『チャイルドキングダム』って言う、小さな子供向けのミニ遊園地が有って、ミニサイズだけど観覧車が有るらしいわ。他にもミニ電車や空飛ぶミニバスやミニジェット機も有るって!」
フ「ヘェ~、良かったじゃねェか、鹿!」
ゾ「憧れの観覧車に乗れるぞ、チョッパー!」
チ「子供向けの遊園地なんかで遊べるか!!オレ大人だぞ!!」
ゾ「大人はそもそも観覧車や回転木馬に乗りたがらねェだろ」
チ「煩ェェ!!馬鹿にしたように笑うなァァ~~!!」
ル「1人で行くのが恥ずかしいなら俺付き合ってやろうか?ちょっときょーみ有るし」
ウ「お前って本当、頓着しねェ男だよなァ。時々羨ましく思うぜ」

ナ「アミューズメントは施設だけでなく、ハウステンボスには多彩な乗り物が有るそうよ!バスに運河を航行するクルーザー、クラシックなボックス型のタクシー…」
チ「なぁナミ!この立ち乗りしてるヤツは何だ!?」
ナ「『セグウェイ』って言う立ち乗りスクーターだって。場内では10~17時の正午を除いて、毎正時に50分間のツアーを行ってるそうよ」
チ「へー!こんな乗り物有るんだな、初めて見た。乗ってみてー」
ル「時速300キロ以上で走るんなら、俺も乗ってみてーな!」
ゾ「んな殺人スピードで乗り回すような物、危なくてパーク走らせらんねェだろ!」
ウ「けどこれチョッパーが乗るとして、グリップまで手が届かねェんじゃね?」
ナ「あら!人型になれば大丈夫よ!ね、チョッパー!」
チ「うん!人型になれば楽々届くぞ!」
ウ「でもパンフの案内に体重118kg迄って書いてあるぞ」
ル「って事はフランキーもダメだな!」

ナ「…………ほ…他にもヨットとかサロンクルーザーなんかにも乗れてェ~!」
ゾ「不自然に話を切り替えやがったな」
ナ「うっさい!!!――中でも歴史に名を残す帆船を復元したっていう『観光丸』は絶対乗りたいわよね!!これなら300人だって乗れるから大丈夫!!」
チ「でっけー船だなー!!」
ル「しかもけっこーカックイーじゃんか!!」
ウ「偶には違う船に乗るのも新鮮だよな♪」
フ「なんだとテメェ…?サニーじゃ満足出来ねェってのか…!?」
ウ「え、あ、や…!そんな事無ェけど、毎日おんなじ船乗ってると、気分を変えて別の船に~なんて思ったりすんのは自然じゃんか!」
フ「船は女に例えられる乗り物だぞ!それを乗り換えるってこた浮気と同じだ!テメェがそんなふしだらな男だとは思わなかったぜ…!!」
ウ「いいいや船は乗り物であって人じゃあないんだから、んな深刻に考えんでも…」
フ「さてはテメェ、まだメリーに未練残してやがんな!?サニーの何処がメリーに劣るってんだ!!アウッ!?」
ウ「だだだから別にメリーに未練が残ってるとかサニーに不満持ってるとかじゃなくって、あくまで俺は軽ゥ~い気持ちで――」

ブ「あの、お取り込み中済みません。さっきから私、気になってる事が有りまして…いえ、サンジさんの事なんですけどね」

ウ「ん?サンジ?」
フ「…そういや長く声を聞かねェな」
ブ「ちっとも帰って来ないものだから、私気になって捜しに行ったんですよ。ところが船内の何処にも姿が見えないのです」

ウ「…え?って事は…?」
ナ「………ロビン?」
チ「……………そういえばオレ…さっき水音聞いた気がする……」

ロ「やだ、誤って海に落しちゃったかしら?」

ル・ウ・チ「「「ウワァァ~~!!!!大変だァ~~~~!!!!」」」

ナ「早く助けないと波に流されちゃう!!」
ゾ「あの時落ちたとして10分は経ってる!!ヤベェ、かなり流されちまってるかも…!!」
ル「待ってろサンジ!!今俺が泳いで助けに行ってやる!!」
チ「オレも行くっ!!サンジ死ぬなァ~~~!!!」
ゾ「馬っ鹿!!カナヅチ組はさがってろ!!俺とウソップとフランキーで助けに行く…!!」
ウ「合点っっ!!」
フ「任せろっっ!!」

――サンジィ~~~~!!!何処だァ~~~~!!?


ロ「……………………酷い事しちゃった」








…ロビンちゃんはこれでも反省してて、かつ心配してるんですよ。
てゆーか今回ブラックな落ち過ぎましたね、御免なさい。(汗)

長らくアミューズメントがつまんない、刺激が少ないと不満を囁かれて来たハウステンボスですが、最近は他テーマパークと比較しても、楽しくて個性的なアミューズメントが揃って来た気がする。
刺激が少ないのは相変わらずだけど。
しかし此処の場合、アミューズメントはあくまで脇役と捉えた方が、正解なんでないかなぁと思う。
中世ファンタジーっぽい世界にジェットコースターが走る光景は見たくないです。

私の個人的お薦めアミューズメントはkirara、さながら巨大万華鏡で、とっても綺麗なのです♪
スリラーファンタジーミュージアムについては、まだ入った事無いので何とも判りませんが、噂を聞いた限りじゃ恐がりでも安心して入れる物らしい。
現在20時~21時半の毎正時&30分、約8分間エリアの建物にイルミネーションが灯され、素晴しく綺麗なんだそうな。
冬季名物イベント、光の宮殿のイルミネーションショーみたいな感じでしょうかね?
スリラーファンタジーミュージアム特設サイトはこちら
※後日談、2010年クリスマスシーズン、アレキサンダー広場のミニ遊園地に、コーヒーカップが登場しました。(汗)
※後日談、2011年4/29~新アトラクション登場予定!
(→http://www.huistenbosch.co.jp/enjoy/topics/000844.html)


ハウステンボスには多彩な乗り物が揃ってる。
船も有るしバスも有るし幌馬車風の自転車も有るし馬車も有る。
乗り物マニアには垂涎のテーマパークで御座います。
その全てが紛い物なんかでなく、本物なんですから。
特に恐れ入ったのが観光丸。(記事上の写真がそう)
幕末の歴史に名を残す木造帆船を復元しただけでも豪い事なのに、実際にオランダで船を復元して、ハウステンボスまで航海させたっつうんだから凄い。
本物志向も此処まで来ると天晴れですわ。
ちなみにその時の航海記録映画を、スパーケンブルグ「よろず屋」内帆船博物館で観る事が出来ます。
大河ドラマ「坂本龍馬」の撮影に使われたって事で、現在の観光丸は「幕末帆船クルーズ」と題して運航中です。
場内乗り物頁はこちら。(→http://www.huistenbosch.co.jp/transport/)
※後日談、2011年春、ヨット、サロンクルーザー、シーカヤックの営業は止めてしまってます。(悲しい…)
※その代わりってのもアレだが、新しく水陸両用観光バスが、2011年4/29~登場予定。
(→http://www.huistenbosch.co.jp/enjoy/topics/000943.html)
※そして2011年4/2~サウザンド・サニー号就航!



「魔女の瞳はにゃんこの目3」を目次頁にリンクしました。
こうして作品を整理すると結構書いたな~と思わなくもない。
その大半はアレな代物だが…しかも無駄に長いし。(汗)
コメント (3)

魔女の瞳はにゃんこの目(目次)

2010年07月31日 15時58分10秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
この物語は魔女っ子ナミさんが、怪力少年ルフィと二刀流少年剣士ゾロに出会い、冒険の旅へ出掛けるという、ルナゾパラレルファンタジーです。
2010年7月現在第3部まで終了、タイトルも長いが話も長い。(汗)
書いてる自分でも無事ピリオドを打てるのか不安なネバーエンディングストーリーですが、お暇が御座いました折にはお読み頂けると嬉しく思います。(汗)
↓はキャラ紹介。



・ナミ…世に知られる「オレンジの森の魔女」。千年生きているが、見た目は11歳位の少女。普段は茶色の瞳だが、魔力を使う時は金色に変る。
「『何でも知ってて何でも出来る』って評判だけどよォ~、目が金ピカ光らなきゃ、ただのケチで凶暴なチビ女で、ちっとも頼りになんねェの!おまけに鏡が弱点だし、力を使い過ぎるとヤバイっつうし、取り扱いの難しい家電製品かよ、おまえは!?…だがそんな女にルフィやゾロは惚れてるらしいんだよな~。蓼食う虫も好き好きっつっても苦労するぜェ…。友人として止めるべきか!?」とはウソップの弁。

・ルフィ…魔を破る力を秘めた『破魔の拳』の持ち主。被っている麦藁帽子にはナミの魔法で「水明鏡」が閉まってある。年齢10歳。
「怪力無双は良いけれど、加減を知らなくて、付き合う方は何時も死に掛けてるわ!大食らいで他人の都合を一切考えない我侭坊主、関ったお陰で私のペースは滅茶苦茶よ!早いとこシャンクス捜し出して解放して貰わなきゃ!ああそうそう、『水明鏡』って言うのは、現世で生きてる人間なら、呼び出して姿を映す事の出来る魔法の鏡よ。全て片が付いたら売っ払って、借金に充てて貰おうっと♪」とはナミの弁。

・ゾロ…魔族の血を吸う妖刀『鬼徹』の使い手。2刀流の剣士で、影は薄いがもう1本「雪走り」と言う刀を持っている。年齢12歳。
「俺の幼なじみで親友だ!赤ん坊だった俺と一緒に拾って来たんだって、シャンクスが言ってた!刀持って戦えば無敵だけど、義理のアネキの『くいな』にだけは何故か勝てねーんだ!あれ?って事は無敵じゃねーじゃん!戦ってない時はいつも眠たそうにしてっけど、ナミをからかってる時はイキイキしてる――って何だよ!?さやで殴んなよ!!ウソ言ってねーだろ俺!!」とはルフィの弁。

・ウソップ…発明王「ヤソップ」の息子で、彼の才能を(多分)受け継いだ天才発明少年。年齢10歳。
「今迄発明した数8千っつうが、きっぱり大嘘だ。誇大妄想の気が有るらしい。父親捜そうと生れ故郷を後にして、俺達の村に来た根性は買うが、今んトコ役に立ってんだか立ってないんだか微妙なラインだな。ま、それなりに頼りにしてっから、も少し喋りを控えちゃくれねェか?…煩くて眠れねェよ」とはゾロの弁。

・シャンクス…ルフィの義父で、世界に名を知られるトレジャーハンター。現在消息不明。登場する時は話の終りが近いだろうという、最終兵器父。

・ヤソップ…ウソップの父親で発明王。シャンクスのチームに所属し、共に消息不明。
・マキノ…2で登場。ルフィの保護者で、「パーティーズ・カフェ」と言う喫茶店を切り盛りしている女性。
・フランキー…3で登場。ルフィ達の村に居る変態大工。ウソップの保護者を引き受ける。
・アイスバーグ…3で登場。シャンクスのチームのスポンサーにして、ボスコと言う街の市長。
・ロビン…3で登場。ボスコで博物館の館長を務めている。敵か味方か謎の美女。



・魔女の瞳はにゃんこの目・1

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)(15)


・魔女の瞳はにゃんこの目・2

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)
(11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(19)(20)

・魔女の瞳はにゃんこの目・3

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)


…写真は物語とは何の関係も無いっすが、ハウステンボスの薔薇写真。(汗)
当初は絵で魔女っ子ナミちゃん描こうと思ってたんだけど、自分の話を絵にするって照れるんで止めた。(汗)
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魔女の瞳はにゃんこの目・3 その12

2010年07月31日 15時18分42秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その11へ戻】





朝が来て、4人は館内中を捜し回りましたが、結局ロビンは見付かりませんでした。
いえ、恐らくは何処かで見張って居たに違いありません。
しかし彼女からしてみれば当座の用は済んだらしく、4人の前に顔を出そうとはしませんでした。

諦めたナミ達は無人の博物館を後にし、空飛ぶ箒に乗って、マキノの待つ店に帰って来ました。
4人を笑顔で迎えたマキノは、直ぐにカウンター席に案内し、温かい食事と珈琲を出してくれました。
子供達は飲んだり食べたりしながら身振りを交えて体験して来た冒険を語り、マキノは彼らの話を笑ったり驚いたり心配したりしながら聞きました。

食事をし終えて器が片付けられた所で、ナミ達は手に入れた地図と大きな銅鏡を、カウンターの上に置きました。
広げられた世界地図には、青と赤と黄と白と黒の直線が、散らばって引いてありました。

「……これがシャンクス達の足跡を記した地図なの?」

地図を覗き込んだマキノが首を傾げます。
彼女の反応はもっともで、記された足跡(?)は極めてシンプルに、引かれた直線の横に1~5までの丸数字で表されてるだけだったのです。

「なんだか地理のテストみたい…」
「ええ…そうよ…あの女の腹積もりとしちゃ、私達を『試しに使ってみよう』ってトコなのかもね…!」

地図の上に置かれたナミの手が、怒りでワナワナと震えます。
彼女の両隣に座るルフィとゾロが、とばっちりは御免とばかりに、身を遠ざけました。

「足跡っつうより、『この丸数字の順にレイライン(古代の道)を辿れ』って意味なんでしょうよ!そうして『隠されてる秘宝を探しなさい』ってね!」
「秘宝って?」
「口にはしなかったけど、金の瞳でしっかり視させて貰ったわ――古代、魔女が造ったと云われる『魔鏡』よ!」

そこで説明を句切ったナミは、左隣で珈琲を啜るルフィの方を向きました。

「あんたの持ってる水明鏡と同じ様な魔鏡が、世界に後4枚在ると云われているわ。
 そしてあんたから水明鏡を発見したと聞き、『後、一繋ぎ』とシャンクスが言った事実から、恐らく彼はその内の3枚を発見したと推理出来る。
 あのロビンって女は、シャンクスが手に入れた3枚の魔鏡と共に、残る2枚の魔鏡を私達に探させる積りで居るのよ。
 もっとも残る2枚の内の1枚は私達が持ってて…その事をあの女が知ってるかは不明だけど…」
「探してほしいもんが有んなら、はっきり言やいいのに」
「やり方が回りくどいよな」
「きっと私達の口から他の人間、例えばアイスバーグさんに情報が洩れるのを警戒してんだと思うわ」

ルフィとゾロに説明するナミの胸に、怒りが沸々と蘇ります。

余計な詮索はするな。
ただ黙って使われろ。

シャンクス達の行方を餌に、自分達を都合良く動かそうとする女の企みは、考えるだけで不快な気持ちになりました。


「まーでもシャンクスは『魔鏡』を探してたんだろ?だったらこの地図の通りに、捜しに行こうぜ!!」

ナミの気持ちを知ってか知らずか、ルフィが高らかに宣言しました。
それを聞いてゾロが唇の端を上げます。
彼の隣に座るウソップが、「俺の親父の事も忘れんなよ!」と言って笑いました。

3VS1では反論しても敵いません。

「…シャンクス達を見付けた暁には、魔鏡を今迄の手伝い賃として頂くからね!」

ナミは憎まれ口を叩きつつ、付き合う事を承諾しました。

「それじゃあ次に向うのは…東に在る『ブルーレイ』ね!」

マキノが地図に1と記された青い線を指で辿ります。

「けどこんな長い道の何処に魔鏡が隠されているのかしら?とても1日や2日で探せそうにないわ」
「在り処なら既に明らかになってるわよ!」

途方に暮れた様子で呟いたマキノに向い、ナミはルフィの前に置かれた銅鏡を指で示しました。
青銅製のそれを、ルフィが軽々と持上げて見せます。
巨大なレンズの様にツルツルとした面には、マキノとその後ろに有る暖炉が映っていました。

「この鏡には仕掛けがされててね。裏面に強い光を当てると、中に彫られた絵を映し出すの」
「シャンクスが残した鏡と一緒だな!」

ナミの説明に付け加えるように、ルフィがマキノに教えます。

「博物館を出る前、私達は鏡の裏に太陽光を当てて、壁に映った絵を見たの。
 絵に描かれたそれは――『青の地下都市』。
 ブルーレイの中心に位置する、古代の遺跡よ」

「そこを探せって事なのね!?」

興奮して尋ねるマキノに向い、ナミは無言で頷きました。


「そんじゃ次の目的地も決まった事だし…皆で雪合戦しに行こうぜ!!」

持上げてた銅鏡をカウンターに下ろしたルフィが、元気良く叫びます。
その言葉を聞いたウソップは、すぐさま手を挙げて「賛成」の意を示しました。

「あんた達ってば、いっつも遊ぶ事ばっか考えて!真面目に捜す気有るの!?」
「だって前に約束してたじゃん!それに雪が積ったら雪合戦すんのは、ほーりつで決められてんだぞ!」
「勝手に法律作んな!何処の国の大統領よ、あんた!」
「俺はルフィの提唱する法案を支持するぞ!時間が経てば融けてしまう雪資源、大切に活用しなきゃあ、天の神様に申し訳立たねェぜ!」
「雪合戦は良いけど、先ずは一休みさせてくれよ…こう徹夜続きじゃ、辛くてしょうがねェ…」
「なんだよゾロ、年寄りくせーなー!どんなに眠くっても、雪が積ったら――」
「――先ずは雪掻きお願いね、ルフィv」

ルフィの言葉を継いだマキノが、にっこり笑いました。

何時の間にかスコップが4本カウンターに立掛けてあるのを見て、子供達が一斉にブーイングを飛ばします。
しかし彼女は有無を言わさず皆にコートを着せて、陽の光眩しくも寒風吹く外へと叩き出しました。

その際1人足りない事に気付き店内を振り返ると、中央に据えられたストーブ近くのテーブル席に、ゾロが座って寝ているのを発見しました。
勿論笑顔で拳骨を落とし、これも外へ叩き出します。

窓から様子を窺えば、不満を顔に貼り付けているも、大人しく家の周りに積った雪を退かす子供達の姿。

満足気に笑ってカウンターに戻ったマキノは、お湯に浸しておいた食器を、鼻歌交じりに洗い出すのでした。




魔女の瞳はにゃんこの目

空の彼方を
海の底を
地の果てを

心の奥をも見通す力




【一先ずの、お終い】



…この話はナミよりマキノさん大活躍って感じだ。(笑)
原作でもマキノさん、見た目は大人しそうでも、かなり強そうっすよね。
ちなみに気付かれた方は多いでしょうが、「ボスコ」と言う街はハウステンボスがモデルです。
しつこい性質で済みません。(笑)
そしてやはり化物は外せないのだった…。

・2009年7月はにほへといろ様のナミ誕に投稿した作品。
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魔女の瞳はにゃんこの目・3 その11

2010年07月31日 15時11分02秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その10へ戻】





目が覚めた時、ナミは自分が薔薇の園に横たわっていると錯覚しました。
上を見ても下を見ても横を見ても薔薇が咲いていたからです。
しかし段々と頭が冴えて来るにしたがい、自分は風呂でのぼせて、ロビンの薔薇の部屋に運ばれたのだと解りました。

そこへひょいっとルフィが顔を出しました。
目が合うや、にまーっと笑い掛けます。
そうして傍に居るであろうゾロやウソップに向い、大声で告げました。

「ナミが目ェ覚ましたぞー!!」

声に呼ばれたゾロとウソップが、ひょいっひょいっと顔を出します。
何時までも3つの顔にジロジロ覗き込まれているのは落ち着かず、ナミはボーっとした頭のままベッドから身を起こそうとしました。
途端にゾロが真っ赤な顔で手を振り回しながら止めます。

「わー馬鹿起きるな!!!服着てねェんだぞ、おまえ…!!!」

その言葉を聞いてハッと我が身を見下ろせば、裸にバスタオルを巻いただけの姿。
しかも起き上がった弾みで、タオルは胸スレスレまで落ちかかっていました。
強張った笑みを貼り付け、傍に立つ3人の少年を見回します。

ルフィが食入る様に自分を見詰めていました。
ゾロは真っ赤な顔で明後日の方を見ていました。
ウソップは顔を覆った手の指の間から、瞳だけ覗かせていました。

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…!!!!」

部屋中にナミの絹を引き裂く様な悲鳴が響きました。

「ななな…まままさかあんた達…裸の私を風呂から運んで…!?」
「うん!俺とゾロで両手両足持って運んだ!」
「しょうがねェだろ!でなきゃおまえ、茹で卵んなって死んじまってたぞ!」
「だからって!!…みみ見て…しかも触ったのねェ~~~!?」
「見てねェェ!!!バスタオル巻いて見ねェようにやった!!!極力触んねェようにもしたさ!!!」
「俺1人で充分運べるっつったのに、ゾロも運ぶって引かなかったんだぜー」
「余計な事喋るなルフィ!!!」

2人と揉めていたそこへ、ウソップがチョイチョイと肩を突きました。
振向いたナミに、妙に偉そうな態度で、彼が告白します。

「俺は運ぶのに手を出さなかったぜェ!!裸のまま引き上げようとする2人に、すかさずバスタオルを手渡す等の援助役を務めてやったのよ!我ながら気配りの人だと恐れ入――フゴォッ!!!」

ペラペラと得意気に喋るウソップの左頬に、ナミの怒りの右フックがお見舞いされました。

「何が『気配りの人』よ!!散々周りをピンチに陥らせてくれちゃって!!ちっとは謙虚に反省したらどうなの!?」

叱り飛ばされたウソップは、素直に「御免なさい」と言って、頭を垂れました。

御免なさい…御免なさい…御免なさい…御免なさい…

頭を下げたまま、ウソップは何度も謝りを繰り返します。
ナミは、彼が自分に対して吐いた暴言についても済まなく思い、謝っている事に気付きました。

萎れた頭を思い切り良く叩きます。
痛さで思わず顔を上げたウソップに、ナミは微笑んで言いました。

「あんたが生きてて良かったわ、ウソップ!
 こうして文句を言えるし…私の裸の観賞料も取れるしね♪」

続いて振り返り、ルフィゾロの顔を見回したナミは、意地悪く笑って宣言しました。

「という訳で、全員から観賞料として10万ベリー頂きます!」

「「「自己評価高っっ!!!」」」

想像を絶する高額を請求された3人が声をハモらせます。
気にする事無くナミは指をパチンと鳴らして呪文を唱えました。
すると忽ち身に纏っていたバスタオルが、普段彼女の着ている黒のワンピース+オレンジのエプロンにチェンジしたのです。
一瞬の早変りを見た少年達の胸に、残念な気持ちが生じましたが、賢明にも誰1人それを口には出しませんでした。

「…それで、あの『ロビン』って女は?」
「俺達が駆け付けた時には居なかったぞ」
「地図だけは置いてってくれたみたいだけどな」

ルフィが指差したテーブルを見ると、大判の地図がティーカップで留められていました。
素早く手に取り、確認したナミの背中が、小刻みに震え出します。

「……あの…女ァ~~~…!」

彼女の手の中に有る地図が、ぐしゃりと音を立てました。

触らぬナミに祟り無し。

背中から迸る怒りのオーラを感じ取ったウソップが、震えて後退りします。
そこへゾロが空気を読まずに、彼女の神経を逆撫でる様な質問を浴びせました。

「ときにナミ、おまえの左肩に有る魔方陣なんだが――」

――ガインッ!!!

叩かれたゾロの頭が、派手な音を響かせました。

「やっぱしっかり見てんじゃないのっっ!!!」
「……さっきまで肩剥き出しで居ただろうが、てめェ…」

頬を染めて怒鳴る彼女にゾロは溜息を吐いてみせ、己の質問の意図を説明しました。

「ほら、ルフィの左掌に『破魔の方陣』が描かれてるだろ?あれと似てるなァと思ってよ…」
「ルフィの掌の方陣と?」
「ああそれ俺も思った!ゾロの左手にも同じよーなのが有るんだよなー!」
「あんたの手にも魔方陣が描いてあるの!?」
「そうか。俺、普段手袋嵌めてる事が多いから、気付かなかったんだなァ、おまえ」

ルフィの言葉を聞き驚いたナミの前で、ゾロは左手に嵌めている緑色の手袋を脱いで見せました。
差し出された左掌には、成る程彼らの言う通り、黒い魔方陣が刻まれています。
ルフィが並べて出した左掌の魔方陣とは色違い。
他に違う点といえば、描いてある円の中の3本の各線が長いか短いか位で、ナミの左肩に刻まれた物とも確かに酷似していました。

「……どういう事なの?」

見比べるナミが呟きます。

「んー俺が推理するに、おまえら実は兄弟だったりするんじゃね?」

野次馬根性で眺めていたウソップが、碌に考えもしないで説を唱えました。

「んな訳有るかっっ!!!私とこいつらの年の差を考えなさいよっっ!!!」

馬鹿馬鹿しさから否定したものの、ナミの胸の中でルフィとゾロへの疑念が湧出します。

体に魔方陣が刻まれているのは魔女関りの証。
そんな彼らと自分が出会ったのは、果たして偶然なのか?

急に重くなった部屋の空気を暖める様に、青地のカーテンを通して陽射しが降り注ぎました。
長い夜が明けた事を知って、ウソップが威勢良くカーテンを開きます。
途端に薄暗かった部屋が眩しい朝の光で満たされ、遠くで打ち鳴らされる鐘の音が4人の耳に届きました。




【続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・3 その10

2010年07月31日 15時09分48秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その9へ戻】





最初感じたのは、痛みよりも激しい熱さでした。

じわじわと背中から腹へと伝わる熱がむず痒く、ルフィはその箇所を手探りで確めました。
硬くて薄べったくてヌルヌルした物が、己の背中から腹へと突き通ってるのが判ります。
恐る恐る下を向くと、血塗れの剣が腹からにょっきり伸びていました。

そこで漸くルフィは、自分が黒甲冑の首無し騎士の剣に、串刺された事を自覚したのです。

剣が引き抜かれるのと同時に、ルフィの背中と腹から、血が勢い良く噴出しました。
あたかも噴水の如くビュルビュル噴出したそれは、瞬く間に床を真っ赤に染めてしまいました――ただ結界の円の中を残して。

力無く膝を着いたルフィを、更に5本の剣が、前から串刺しました。
ブスブスブスブスブスと、胸両腕両脚を刺した剣の勢いで、ルフィの体が床に仰向けに磔られます。

「げぼォッ…!!」と呻いたルフィの口から、夥しい血が吐き出されました。

「ルフィー!!!…うあああ…!!!!」

居ても立ってもいられず、ゾロが2本の刀を構えて、円から飛び出そうとします。
ウソップも真っ蒼な顔で、泣きながら飛び出そうとしました。

『待って2人共!!!落ち着いて話を聴いて!!!』

しかし鏡の向こうに居るナミは、円から出て行こうとする2人を制止しました。

「煩ェ!!!この期に及んで何を話そうってんだ!!?ルフィを見殺しにする積りかよ!!?あいつはおまえと違って、死んだらそれきりの人間なんだぞ!!!」

床に転がる鏡の少女に向い、ウソップが厳しく抗議します。
仲間のピンチを前に、冷静で居られるおまえが信じられない。
涙ながら睨み付ける彼の表情からは、そんな不審が読み取れました。

そこへゾロが、ウソップを押し退けて、顔を覗かせました。
首を軽く振って「話せ」と促します。
彼のジェスチャーに力を受けたナミは、焦らず素早く化物の正体を明かしました。

『この部屋の化物は全て幻覚!
 攻撃を喰らっても、気をしっかり保ってれば死にはしない!
 ルフィの事は私に任せて、ゾロとウソップは私の言う通りに動いて!』

「幻覚ゥ!?んな事信じられっかよ!!ルフィがあんな血を出して苦しがってんのに…!!」
「解った!どうすればいい!?」

説明を聞いて尚ウソップは疑いを消しませんでしたが、ゾロは直ぐに真剣な面持ちでナミに指示を仰ぎました。
ナミが浴槽に浸かった姿勢のまま、2人の背後の壁を指差します。

『壁画に描かれた絵の中に、黒衣を纏った1つ目の男が居たでしょ!?
 ゾロ!あんたの刀で、そいつの1つ目を貫いて!!
 そうすれば部屋にかけられた魔法は解けるわ!!』

「貫けったって!!…部屋が真っ暗で壁の位置すら掴めねェのに…!!」
『早くっっ!!!でないとルフィが本当に死んじゃうっ…!!!』

訴えるナミの顔から、大粒の涙が零れます。
その瞳は何時の間にか、金色に輝いていました。


――次ハ、右目ヲ潰シテヤロウ…!


ドームに不気味な声が木霊した直後、ルフィが凄まじい悲鳴を上げました。
ハッとして振り返ったそこには、右目を剣で貫かれたルフィの姿。

『ゾロ!!!お願い、早くっっ…!!!』

ナミから縋る様な眼差しで催促されるも、狙い所が判らなくては動きようがありません。
ゾロが躊躇してるそこへ、ウソップが勇ましい声を掛けました。

「『1つ目』の位置が判れば良いんだな!?だったら俺に任せろ!!」

白衣のポケットを探って、ゴーグルとピストルと弾丸を取り出します。
ゴーグルは自作の暗視スコープで、暗闇の中でも目標をバッチリ捉えられる優れ物。
ピストルもやはり自作で、素早く中に詰めた弾丸は、発光弾でした。

装着したゴーグルでターゲットを捕捉、『1つ目』を狙い打ちます。

――パァン…!!!と音を立てて放たれた発光弾は、見事的に当たって位置を明らかにしました。

「っしゃあ!!!」とウソップが叫んで、ガッツポーズを決めます。

「でかした!!!ウソップ!!!」

それを合図に、ゾロが2本の刀を構えて、円の外に飛び出しました。
緑の光を放つ的目掛けて走る彼の周りに、化物がわらわらと集ります。
飛び交う女の生首、骸骨の歩兵、首無しの甲冑騎士を薙ぎ払って進む彼の背後で、再びルフィの悲鳴が上がりました。

「ルフィ…!!?」
『ゾロ駄目っ…!!』

声に気を取られて振り返った瞬間、隙が生まれてしまいました。

背後から――ビュン!!!と空気を震わし、首無し騎士の剣が振り下ろされます。

気付いた時には、ゾロの右腕は肩からバッサリ斬られ、刀を掴んだまま血溜りの中に転がっていました。

「ゾロォォォ…!!!」

円の中のウソップが半狂乱になって呼び掛けます。

一瞬の内に失くされた右腕。
体を駆け抜ける激痛は、幻覚とはとても思えない、リアルな感覚でした。

それでもゾロはナミの言葉を信じ、残った左腕で化物共を斬り倒しながら的を目指しました。


――右目ト左目ハ潰シタ…!


――次ハ首ヲ斬リ落トシテヤロウ…!


円の外側で、無残にも磔の刑に処されたルフィの耳に、不気味な声が尚も囁きます。
首無し騎士が己の首を狙って振り被るのを覚っても、彼には最早抵抗する気は有りませんでした。
ゆっくりと首を円の方へ傾け、必死に自分の名を呼ぶウソップに、胸の中で密かに詫びました。


――悪ィ、ウソップ…俺、死ぬわ。


潰された目蓋に、3人の仲間の笑顔が浮びます。


――ゾロにナミ、おまえが仲間になって、これから楽しくなるって思ったのになーー…


全身を痛みに蝕まれていながら、彼の頬は不思議と緩みました。

悔いを残してない訳じゃないけど、それなりに満足した人生だった。
死の間際にジタバタすんのはカッコ悪い。

そう思い、眠りに就こうとした時です。
光を失くした頭の中で、ナミの声が響きました。


『ルフィー!!!
 眠っちゃ駄目!!!
 生きるのを諦めないで!!!
 化物は幻覚、あんたが受けた痛みも本当じゃない!!!
 気を強く保って居れば、死にはしないわ!!!
 シャンクスは――シャンクスも昔、あんたと同じ目に遭って、生きて返って来たのよ…!!!』


その声が届いた途端、ルフィの目蓋にシャンクスの姿が浮びました。

自分と同じ目に遭い、シャンクスは生きて返って来た。
シャンクスが打ち克ったのなら、自分も負ける訳にいかない。

ルフィの胸に強い気持ちが蘇ります。

その時――ヒュウ!!!と空気を鋭く斬る音がして、首筋に冷たい物が当たる感触を覚えました。

間を置かず襲い来る、息苦しさとリアルな痛み。
それでもルフィは歯を食い縛って耐えました。


――諦メロ…オマエハ死ヌ…!


闇の中で嘲る様な声が木霊しました。

「死なせねェェェ…!!!」

首が斬り落とされる寸前――間一髪でゾロの妖刀が絵の中の『1つ目』を貫きました。

直後、彼らを取り巻く壁中から、物凄い唸り声が轟きました。

声は呪いの言葉を暫く放っていましたが、次第にか細い啜り泣きに変わり、何時しか部屋は元通りの静寂と闇に包まれていました。



水明鏡が放つ蒼い光の下、確めた床には、血など一滴も残っていません。

起き上がったルフィとゾロが、恐る恐る自分の体を確めます。

切断された右腕は、ちゃんと右肩にくっ付いていました。
貫かれた背も腹も胸も両腕も両脚も両目も首も無事。
体中の何処にも痛みは残っていませんでした。

「………本当に幻覚だったんだなァ……」

放心した様子でウソップが呟きます。
あれほど喧しく暴れていた化物の声も姿も、煙の様に掻き消えてしまいました。

自分達は揃って悪い夢でも見ていたのか?

ゾロがルフィの傍に近寄り、彼の両肩をポンポンと叩きました。
お返しにルフィも、ゾロの両肩をポンポンと叩きます。

「ハハハ…生きてた!」
「ハハハ…生きてるぜ、まったく!」

何度も何度も叩き合いながら、2人揃って笑い転げました。
釣られてウソップも笑います。
ドームいっぱいに少年達の朗らかな笑い声が木霊しました。


『ルフィ!ウソップの足下の銅鏡を、床から剥がして持って来て!』

「どーきょー??」

ナミから言われ、ウソップの足下に有る銅鏡を見詰めます。

結界を張って自分達を護ってくれたそれは、よく見るとシャンクスが残した銅鏡を、6回り位大きくした様な代物でした。

思い起せば、ナミに出会う切っ掛けであり、冒険の発端となった鏡――

彼女に言われた通り床から剥がそうとすると、難無く持上げる事が出来ました。
どうやら嵌め込まれていただけで、元より外せる仕組みになっていたようです。

『…それも勝負に勝って貰える賞品よ…。持って来て…私に見せて…』

そこまで話した所で、鏡の向こうのナミの様子がおかしい事に、少年達は気付きました。
湯から出した顔を窺えば、茹ダコみたいに真っ赤です。

「ナミ…おまえ…ひょっとしてのぼせてるんじゃ…?」

尋ねるゾロの前で緩慢に頷き、そのまま前のめって、ゴボゴボと湯の中に沈没してしまいました。

「お…おい!!ナミ!!?」
「うわァ~~!!!ナミがおぼれ死んじまう~~~!!!」
「ヤベェ!!早く助けに行くぞ!!!」

ゾロの号令を受けたルフィが、銅鏡片手にすぐさまドームの扉を抉じ開けます。
そうして彼らは先を争って、ナミが居る階下の部屋に急ぎました。




【続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・3 その9

2010年07月31日 15時08分34秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
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その頃化物部屋に閉じ込められた少年は、正真正銘絶体絶命のピンチに陥っていました。
鏡の円の結界で身を護られてるものの、周りはおどろおどろしい化物共が隙間無く囲んでいます。
打って出ようにもルフィ達の攻撃は摺り抜け、逆に化物からの攻撃は喰らうのですから、どうする事も出来ません。
薄ら笑いを浮かべるウソップを真ん中に、3人は長い間身を寄せ合って、じっと座り込んで居ました。

「…さてどうする?結界の中に居りゃ安全っつっても、この追い詰められた状況で夜を明かすっつうのは、精神衛生上宜しくないぜ」
「1晩こいつらに囲まれて笑われてるなんて気分わりーよ!ぜってーぶちのめして泣かしてやる!」
「アハアハアハハハハハハハハアハアハアハハァ~~~~~~~♪」
「同感だ!しかし外へ出て勝負しようにも、俺達の攻撃はスルーされちまう。どうしたもんかね」
「パンチが当たんなきゃケンカになんねーし…う~~~~ん」
「大人しく朝までこの中で眠って居ようぜェ~♪悪い夢でも見てると思ってよォ~♪そうすりゃ部屋から出して貰えて、地図も手に入るんだろォ~?命有っての物種、わざわざ勝ち目の無ェ勝負を買うのは止そうぜェ~♪」

放心して笑うウソップの手の中で、ランプの火が次第に弱々しくなり、遂には消えてしまいました。
それを見たウソップが堰を切った様に泣き出します。
彼には消えた火が、あたかも自分達の運命を暗示してるかの如く思えたのでした。

一切の灯りが無くなったというのに、化物の姿形ははっきり見えました。
ルフィ達の目前で、黒甲冑の首無し騎士が剣を振り上げては打ち下ろし、骸骨の歩兵が歯をカチカチと鳴らし、女の生首が嘲って宙を舞います。
暗闇の中、跳梁跋扈する化物共の哂い声が、ドームに反響して聞えました。

「…しょうがねェ。あいつを呼んで、助けて貰うか!」
「ギブアップすんのか?ゾロ」
「悔しいが、俺達の手には負えねェだろ」
「また借金追加されちまうな、俺達!」
「金の切れ目が縁の切れ目っつうなら、暫くは切られず済みそうで都合良いんじゃねェの?」

ルフィとゾロが言葉の割に愉快そうに笑い合います。
2人意見が一致した所で、未だ泣き続けているウソップの前に立ちました。

「おいウソップ、今からルフィが鏡を出現させるから、ちゃんと支えろよ!」

ゾロが事前に注意したものの、緊張の糸が切れてしまったウソップの耳には届きません。
しかしルフィは構わず、脱いだ麦藁帽子に向って呪文を唱えました。

「水明鏡よ、水明鏡! 汝、我が前に姿を現せ!!」

すると帽子の裏から青くキラキラ光る鏡のパズルが零れ落ち、1枚の大きな鏡に繋ぎ合わされ、前に座るウソップの方へ倒れました。

辺りに木霊する――ゴオン!!!という重々しい音。

「…だからちゃんと支えろって」
「…な!…お!…おまえらなァ~!!!実はわざとやってるだろオイ!!?」

1度ならず2度までも鏡の下敷きにされたウソップは、頭に拵えた瘤を擦りつつ文句を飛ばしました。
それでも2人の意図を察した彼は、言われた通りに鏡を後ろから支えてやりました。
再びルフィが大きな声で呪文を唱えます。

「水明鏡よ、水明鏡!
 我が前にナミの姿を映し出せ!!」

忽ち鏡の中心から広がる波紋。
掻き消されたルフィとゾロの像に替って、青い光の中現れたのは――裸になって風呂に浸かるナミの姿でした。

予想だにしなかった光景を目撃し、ルフィとゾロは「うおお!!」と叫んで固まりました。
2人の叫びを聞いたウソップも、何事かと思って鏡を覗き込み、直後「うあああ!!!」と叫んで硬直しました。


突然バスルームに響いた自分以外の声に、驚いたナミが振り返ります。

目の前には呆然と自分を見詰める少年達の姿――

『あ~~~~~~~~~~~~~~~…!!!!』

――ドーム内に化物の声すら凌ぐナミの金切り声が木霊しました。


『馬鹿馬鹿エッチドスケベ変態好色エロマセガキ!!!なんてトコロを呼び出してくれんのよ!!!鏡をノゾキに使うなんてもう最低信じらんないっっ!!!』
「ちょっ…!!待て違っ!!誤解だそんなんじゃなくて、助けを呼ぼうとしてだな…!!」
「聞け!!ナミ!!きんきゅーじたいなんだ!!今化物に囲まれてんだよ俺達!!」
『知らないわよ関係無いわよそんなの!!!あんた達が受けた勝負なんだから勝手に囲まれてればいいでしょー!!!』
「おまえなァ!!!少し落ち着いてこちらの状況を見てくれよ!!危機一髪大ピンチなんだって!!解んねェのか!?」
『うっさいうっさい!!!乙女のプライバシーを暴かれる事に較べたら、あんたらのピンチなんてタンポポの綿毛並に軽いわよ!!!』
「や、そこはせめて同等の重さに置いてくれって頼むから!!」

風呂を覗かれた怒りと恥ずかしさから、ナミは全く聴く耳を持とうとしてくれません。
それでいて湯から上がって抗議するものだから、説得する少年達は目のやり場に困りました。

鏡の向こうには、湯気に霞む桃色の肌身。
幼い体をしていながらも膨らんだ胸に、殊更目が惹き付けられてしまいます。
ゾロは片手で目を覆い、懸命に説得を試みました。

「取敢えず座れ!!湯に浸かれ!!」
『はァ!?何でよ!?』
「立ち上がってたら丸見えで、俺達が落ち着いて話せないんだよ!!!」

「丸見え」という言葉に反応したナミが、慌てて首まで湯に浸かります。
真っ赤な顔で睨み付ける少女に、ゾロは自分らが置かれた状況を説明し、どうすべきか対策を求めました。


『対策ったって…あの女が言った通り、朝まで円の中に居てやり過ごすしかないわ!』
「けどそれじゃ戦えねェだろ」
「俺はあの化物を全部ぶっ飛ばしてやりてェー!!」
「――とルフィが言ってんだが、俺も同意見だ。1晩中哂われて、大人しく閉じ篭ってなんて居られるか!」
『とは言ってもあんた達の攻撃が効かない以上仕方ないでしょ?勝負は『肝試し』なんだから、朝まで目を瞑って耳を塞いで耐えるのね!』

「なんでェ自分はこの場に居ないと思って!!!」

唐突にウソップが話に割り込んで来ました。
正面回ってゾロを突き飛ばし、鏡に齧り付いて喚きます。

「独りちゃっかり逃げて、呑気に風呂に浸かってやがってよォ!!その間俺達がどんだけ恐い目に遭ったと思ってんだ!?ゾロなんか肩切られて血が出たんだぞ!!」

言われたナミが、後ろに座るゾロの方へ目をやります。
彼の言う通り、ゾロの左肩からは血が滲んで見えました。

『…あのね、ウソップ。あいつらから攻撃を受けても慌てる必要は無いの!だって――』
「慌てる必要は無ェ!?そうだな!!そりゃてめェは慌てなくてもいいさ!!どうせ他人事なんだから!!」

ナミは化物の正体をウソップに教えようとしましたが、恐怖で神経が昂ぶってる彼は、終いまで話を聴こうとしませんでした。
怒りで全身を戦慄かせ、鏡に映る少女に向い、暴言をぶつけます。

「やっぱりおまえは人でなしの魔女だ!!俺達が死ぬほど傷を負っても、自分さえ無事なら良いと思ってんだろ!?」
『ウソップ!お願いだから、私の話を聴いて!』
「言い訳すんな!!凄ェ力持ってるクセに、俺達を助ける事も出来ねェのか!?おまえなんか…おまえなんか、仲間じゃね――え!?ええ!?えええ~~~!!?」

興奮して、鏡を両の拳で叩こうとしたのが災いしました。
そもそも水明鏡を支えていたのはウソップの腕。
支えを失った鏡は当然ながら後ろに倒れ、慌ててそれを掴もうとした彼は、つんのめって転げて円の外に出てしまったのです。

「ウソップー!!!」
『ウソップ!?』
「馬鹿ウソップ!!早く円の中に戻れ…!!」

仲間が血相を変えてウソップの名を呼びます。
直ぐに円の中へ戻ろうとしたウソップですが、足が竦んで動こうとしません。
円から飛び出した獲物を狙い、化物が一斉に襲い掛かりました。
逸早く飛び出したルフィが、ウソップの体を抱えて、円の中へ投げ入れます。

結果、彼は助かりましたが、しかし――

『ルフィ…!?』
「「ルフィー!!!」」

――逃げ遅れたルフィの背中を、黒甲冑の騎士の剣が、真直ぐに貫きました。




【続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・3 その8

2010年07月31日 15時07分25秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その7へ戻】





3人の少年が化物に襲われ肝を冷やしているその頃、ナミはロビンの部屋で温かいコース料理をご馳走になっていました。

ドームの真下に続く3階の部屋のインテリアは、全て薔薇の模様で統一されていました。
青地に黒薔薇の刺繍が施された、絨毯やベッドやソファやテーブルクロス。
オークの木で造られた家具にも薔薇が彫られています。
天井には薔薇を象った硝子のシャンデリア。
壁に飾ってある数枚の額縁絵も薔薇。
薔薇薔薇薔薇に囲まれて、さながら花園に居る様な気分でした。

「随分薔薇が好きなのね」
「花は全て好きよ。中でも薔薇は別格。美しいだけでなく、醜い棘を持っている所に、人間的な魅力を感じない?」

嫣然と笑って返した部屋の主は、側に立つ美しいメイドに、食後の紅茶を頼みました。
直ぐにテーブルが片付けられて、2人分の茶器が調えられます。
カップに紅茶が注がれている間、ナミはメイドをじっと観察していました。

薔薇の香りを身に纏う彼女の立ち居振る舞いは、一分の隙も無く優雅でした。
髪と瞳の色に合わせた紅色のドレス。
目が合った瞬間微笑んだ顔は、正しく蕾が綻んだ様。

「料理はお口に合ったかしら?」

ロビンから尋ねられたナミは、ローズティーを一口啜ってから答えました。

「ええ、とっても美味しかった。花が作った料理なんて、私、初めて食べたわ」
「あらあら、やっぱりバレちゃったのね!」

聞いたロビンは楽しげに笑って、指をパチンと鳴らしました。
途端にメイドの姿がパッと消えて無くなります。
彼女が居た足下には、紅薔薇が1輪転がっていました。

「花を人や物に変えて自在に操る魔法…ドームの壁画はあんたが能力を使って描いたもんじゃないの?」
「ご名答!流石は『オレンジの森の魔女』ね!試すような真似をして御免なさい」

言葉の割に全く悪びれず、ロビンが謝ります。
己の仕業である事が露見したというのに、彼女は慌てる素振りを見せず、ナミと会話し続けました。

「化物の出る部屋に人を閉じ込めて、どうしようっていうの?」
「どうもしやしない。試すだけよ」
「試す?」

尋ねるナミの瞳が茶色から金色に変ります。

「信頼するに足る人間かどうかを――」

真偽を探る瞳を前に、ロビンは抑揚の無い声で、己の目的を告白しました。


私は長年或る秘宝を探してる。
それは失われた古代の道『レイライン』に沿って在ると云われているわ。
だから私は『レイライン』の謎を解明かしたシャンクスに近付き、秘宝探しを依頼した。
『レイライン』の発見以来、古代の遺跡に興味が向いていたシャンクスは、快く承諾してくれたわ。
依頼をする前に、私はシャンクスをドームに招いて、彼が信頼出来る人間かを確めたの。
シャンクスは一晩耐えてみせただけでなく、部屋の謎までも解明かした。
この男に任せておけば全て上手く運ぶ、そう考えていたのに…


「そのシャンクスが行方不明になってしまった。困ったあんたはシャンクスの足跡を辿る一方、秘宝探しの冒険に挑もうという人間を新たに募り、あの化物部屋に閉じ込めては、密かに度胸試しを行っていた」

話を引き継いだナミに、ロビンは頷きで返しました。

「今迄10人近く試したけど、一晩耐えられたのはシャンクスだけ。全員、朝を迎える頃には、鏡の円の中で気が触れてしまって居たわ」
「…気が触れた?」

ロビンを見詰めるナミの顔が益々険しくなります。
彼女の気持ちを覚ったロビンが、言い訳するように答えました。

「仕方ないのよ。花を使役する以外の魔法を私は持っていない。この身は普通の人間と変らないから、協力者が必要なの」
「それで己の目的の為に、他人を犠牲にしてるって言うわけ!?」
「鏡の円から出なければ、死ぬ事はないわ」
「円の外から出たら?」
「…今迄閉じ込めた人間で、シャンクス以外、円の外に出た者は居ないわ…」
「あいつらを見縊らないで!臆病なウソップはともかく、ルフィとゾロは化物を相手にしたら勇んで出るわ!賭けてもいい!」
「それなら尚の事試す価値が有るわね。何物にも屈しない強い心の持ち主こそ、私が求める人間だもの」
「その為に殺されちゃたまんないわよ!!」

立ち上がったナミがテーブルを叩いて怒鳴ります。
ティーカップが衝撃で飛び上がり、零れた紅茶がテーブルクロスに染みを作りました。
その凄まじい剣幕を前にしても、ロビンは一向に動じません。
真っ赤な顔で怒る少女を宥めるよう、彼女は冷静に話を続けました。

「もしも外に出て、化物に傷を負わされたとしても、正気を保ってさえ居れば死にはしない。
 化物は全て幻覚だから。
 お仲間さんが貴女の言う通り、真に強い心を持っているなら、必ず無事に生還出来る筈。
 勝負が始められた以上、彼らを信じて待ちましょう」

そう言ってにっこり笑ったロビンは、厳しく自分を睨んだままで居る少女に、風呂へ入るよう勧めました。




胡散臭い女の勧めに乗るのは癪でしたが、さりとて相向かいで待って居るのも嫌だしと、ナミは大人しく風呂に入る事にしました。

服を脱いでバスルームに入ります。
中は隣の部屋同様、至る所に薔薇模様が鏤められていました。

床や壁のタイルにも薔薇。
猫脚の付いた浴槽にも薔薇。
加えて立ち込める薔薇の香り。

浴槽の横には洗面台が取り付けられていましたが、鏡は有りません。
ナミと同じ魔女である彼女は、ナミと同じく鏡を苦手にしているようでした。

シャワーで体をざっと流した後、浴槽に湯を溜めます。
体を横たえ湯に浸り、立ち昇る湯気をボーっと見詰て居ると、再び頭の中にカリファの言葉が木霊しました。


――気を付けて…あの女は世界で最も邪悪な、『黒の魔女』と噂されているわ…。


数百年前、強力な魔法で世界を滅ぼそうと企み、人間達に捕まって生きたまま封じられたと伝えられる魔女。
あの女が本当に『黒の魔女』だと言うなら、誰かが呪縛を破り解き放ったという事か?

伝説に残る魔女は、髪も目も闇の様に真っ黒。
あの女も確かに黒い髪と目を持っている。
何より『黒の魔女』なら、体の何処かに黒い魔方陣が刻まれていると云うけど…


湯に浸かって考えながら、右手で左肩に触れます。
そこには白く仄光る魔方陣が刻まれていました。

金の瞳で視ても、ロビンの体に黒の魔方陣が刻まれているかは、判りませんでした。
魔女を視るには、かなりの魔力を必要とします。
視る側が相手の魔女の持つ力を上回らなければならないからです。

あまり力を出し過ぎれば、もう『人』には戻れない…。

未だ『人』だった頃に未練を残しているナミは、力の限界を超える事を躊躇っていました。


『絶体絶命のピンチに陥った時は、意地を張らずに水明鏡で私を呼びなさい!』

胸に思い浮べた3人に向い、ナミは母親の様な気持ちで約束させました。




【続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・3 その7

2010年07月31日 15時06分13秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その6へ戻】






腰を落ち着けて早々、3人は弁当の入った包みの紐を解きました。
中から出て来たのは、お茶の入った水筒と、チーズにハムにトマトに卵を挟んだサンドウィッチが8つ。
揺らめくランプの灯りを頼りに、ウソップがそれらを人数分に分けて行きます。
分けながら彼は、サンドウィッチを狙って伸びるルフィの腕を、巧みにブロックしました。

「おいコラ、未だ分けてる途中だ!手ェ出してんじゃねェよ!!」
「うるせーなウソップ!!マキノから貰った弁当を何でおまえが分けんだよ!?俺のだぞ!!」
「おまえだけが貰ったもんじゃねェ!!皆で仲良く食べるようにって渡されたんだろうが!!」

マキノから渡された弁当=自分の弁当と考えるルフィは、ウソップの振る舞いを激しく非難しました。
8個という数はナミ分を入れてのもの、ですがこの場にナミは居ません。
その事もサンドウィッチ争奪戦に拍車をかけました。
幸いゾロが年長者らしく遠慮したお陰で、残り2つのサンドウィッチを、ルフィとウソップで仲良く1つずつ分ける事が出来ました。

食べてる間中、ウソップは2人を相手に、喋りっ放しで居ました。食べカスを唾と一緒に口から飛ばしてルフィとゾロから迷惑がられても、彼は意地を張って止めようとしませんでした。
元々饒舌な性質ではありましたが、本音は暗闇の中で沈黙が降りるのを恐れたからです。

仄かに辺りを照らしているランプの灯りが、余計に恐怖を募らせました。

食後、3人で水筒を回し飲みしながら、ウソップは2人にも喋らせようと、ひたすら陽気に話を振り続けました。

「なァ、ルフィ。おまえはあのロビンって人、どう思う?」
「どう思うって?」
「ズバリ怪しいと思うか?あの市長が言った通り、シャンクスのチームが消えた事に関ってると思うか?」
「んーー……俺には解んねェ」
「俺は怪しいと踏んでる。この部屋の件にしたって、素性の知れねェ画家に依頼した時点で怪しいぜ」

話がロビンに及んだ所で、ゾロも会話に加わりました。

「そうか、確かに怪しいかもしれん。しかし俺には悪い人には思えねェんだよなァ」
「根拠は?」
「だって凄ェ美人じゃんか!」
「美しさは正義かよ!?だったらこの世の悪人は皆ブ男とブスばっかりか!?」

ウソップから、極めて偏見に満ちた根拠を聞かされたゾロは、呆れて噴出しました。

「おまえって結構美人に弱いタイプだったんだな!」
「そんなんじゃねェけどよォ。あの市長が言うほど話の解らない風には見えなかったっつか。俺達を門前払いするでなく、ちゃんと相手してくれただろ?あの人の言う通り、魔女だから疑うってのは理不尽な気がするぜ。魔女なだけに神秘的で謎めいた雰囲気ではあるが…てゆーか知ってる魔女とはえらい違いだよなァ」
「確かにナミは見た目全然魔女らしくないな」
「偶に目が金ピカ光る以外は、ただのチビでケチで凶暴で情の薄い女じゃねェか!千年も生きてる凄い魔女には到底見えねェよ!」
「居ないと思って面とは言い難い事をペラペラ喋りやがる」
「ちょっと言い過ぎじゃねー?大体は合ってるけど、情が薄いヤツとは思わねーぞ!」

次第にナミへの陰口めいて来た会話に、ルフィが眉を顰めて口を挟みました。

「あの女の何処を見て情が厚いと言えるんだ?俺が行き場が無くて困ってても、手を差伸べようとしなかったじゃねェか!」

反論されてムキになったウソップが食って掛ります。
しかしルフィはウソップを真直ぐ見詰めて言い返しました。

「心配してたぞ、ナミは!だからおまえが俺達の村に来て直ぐ、『暮してくアテは有るのか?』って、村長やマキノや俺達が居る前で聞いたんじゃねーか!」

聞いたウソップの目から鱗が落ちました。
加えて彼の頭が、幾分済まなさそうに下がります。

「もしも住む家が見付かんなかったら、仕方ないっつってナミの家にいそーろーさせてくれたと思うぞ!いそーろーじゃなくて、どれーにされたかもしんねーけど!」
「しかも法外な下宿代請求されてな」
「…あのな、おまえら、俺に文句付けときながら、余程酷い事あいつに言ってるぜ?自覚無さそうだけど」

フォローだか何だか判らない意見を聞いたウソップは、溜息混じりにツッコミを入れました。

「長く生き過ぎたせいか捻くれちまって、優しさを素直に表に出せねェらしい」
「ごくまれに見せるレアさだよな!」
「まァ慣れて来ると微笑ましいっつか…」
「あいつらしくって良いんじゃね?」
「…いいよ、もう、おまえら……俺が言い過ぎた!謝っから…!」

惚れた目には痘痕もエクボ。
聞いてる内にウソップは馬鹿馬鹿しくなり、終いには頭を抱えて黙ってしまいました。


急に降りた静寂に、充満する闇の色が濃くなった様に思えました。

ランプ1つの灯りだけでは精々自分達の顔しか判らず、ドームいっぱいに描かれた壁画は見えません。
閉じ込められてる状況下で、それは大変有難い事だと、ウソップは感じていました。

ふと闇の中で何かが動く気配がしました。

最初に気付いたのはゾロで、円の外に目を凝らした彼は、2人に低い声で告げました。

「…何かが転がって来るぞ!」

視線で示された方向を、ルフィとウソップが凝視します。


――コロコロコロコロ……


次第に転がる音がはっきり聞えて来ました。


――コロコロコロコロ……!


直ぐ側までやって来た時、それは黒い毛の塊に見えました。


――コロコロコロコロ……!!


遂に物体は鏡の円スレスレに到達し、見えない壁にぶつかり跳ね返った所で止りました。


黒い毛がばさりと左右に分かれて、中の蒼白い部分が覗けます。


それは長い黒髪を垂らし、血腸を引き摺る、若い女の生首でした。


目が合った3人に向い、生首がにたりと笑います。


「ぎょえ×◇●○うおおお##△∞♂♀★☆ぶぐわぽげどΩ☆∞ぐああああああ~~~…!!!!!」


ウソップの言葉にならない絶叫が、辺りに轟きました。


「出たな化物ォ!!!俺が叩きつぶしてやるから覚悟しろっ!!!」
「バババカルフィ…!!!鏡の円から外出るなって言ってたろっ!!?」

臆しもせず円の外へ飛び出すルフィを、ウソップが焦って引き止めます。
しかしルフィは彼の言葉に耳を貸さず、左掌を化物に向って翳しました。

掌がボウッ…と炎の様に燃え上がり、魔方陣が現れます。
それは魔を破る力を秘めた『破魔の拳』。
翳した左手を拳に固め、女の首を狙い打ちます。
すると不思議な事に、拳は女の首を摺り抜けてしまいました。

「なっ…!?」

驚いたルフィが声を漏らします。
馬鹿にするようニタニタと笑う生首に、ムッとしたルフィが怯まずパンチを繰り出すも、全て手応え無く摺り抜けてしまいました。

そこへビュンと空を斬って剣が振り下ろされました。
慌てて避けた彼の前には、黒甲冑の首無し騎士。

「ルフィ退いてろ!!剣が相手なら俺がやる!!」

それを見て、今度はゾロが円の外に飛び出しました。

舌なめずりして背中から引き抜いたのは、血の様に赤い柄の『鬼徹』――魔族の血を吸う妖刀です。

甲冑に護られていない、血溜りの切断部分を狙い、飛び上がって刀を突き立てます。
しかしルフィの拳同様、刀も騎士の体を摺り抜け、床に突き刺さってしまいました。

――ギィィン…!!と耳を劈く金属音が響きます。

「何っ…!?」

動揺するゾロの頭上に、騎士の更なる攻撃が振り下ろされました。
焦って逆の右手で黒い柄の『雪走り』を引き抜き、応戦しようとするも、やはり摺り抜けてしまい、逃げ遅れたゾロの肩から鮮血が迸りました。

「ゾロ!!!こいつら…!!!」
「ああ!!どうやら俺達の攻撃は無効で、相手側の攻撃は有効…卑怯な事この上無ェな!!」

仕方なく2人は一時退却して鏡の円の中に戻りました。
するとそこは確かに結界らしく、化物は中へ入って来ません。

黒甲冑の首無し騎士が、見えない壁を剣でガンガン叩きます。
最初は1体だったのが、2体3体と増え、何時しかすっかり取り囲まれていました。
白くぼんやり光る骸骨の歩兵も仲間に加わって騒ぎます。
床の上には女の生首が幾つも転がり、為す術無く円の中に縮こまっている3人を見て、ケラケラ嘲っています。

自分達はさながら亡者の国にでも引き擦り込まれてしまったのか…ブッチン壊れたウソップの口からは、最早悲鳴ではなく笑いが零れました。




【続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・3 その6

2010年07月31日 15時05分00秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
その5へ戻】






中央広場を飛立った箒は、港を過ぎ湖を過ぎて、紅葉する森の真上までやって来ました。
森の遥か向うには、なだらかな稜線が続いています。
夕陽で真っ赤に染まった山並みは、さながら燃えている様に思えました。

「どうしたのルフィ?珍しく静かじゃない」

後ろを振り返ったナミが、心配気に尋ねます。
市役所を出てから、ルフィはずっと無言のままでした。
日頃元気で喧しい分、異常に思えて仕方ありません。

「出された茶菓子だって残して来るしさ。普段皿まで齧ろうとする、あんたらしくないわ」

訊いても黙って居るのを見て、諦めたナミが首を戻そうとした時、ルフィがぼそりと呟きました。

「…俺…冒険の話は何時も聞いてたけど…シャンクスが何をやってるのかは、全然知らねェ…」

触れてる肌から彼の言いたい事は伝わって来ましたが、ナミは敢えて言葉を待ちました。

「…何で教えてくれなかったんだろ?」
「そりゃ理由は色々考えられるでしょうね。単純に『教えたくなかった』か、或いは『教えられなかった』か、はたまた『あんたなら教えなくとも知ろうとするだろう』…」
「シャンクスは俺が知るのを待ってるのか?」
「あんたが話すシャンクスのイメージと、あんたの性格から思い付いただけよ」

2人が話してるそこへ、ゾロが「おい!」と声を掛けて来ました。
振り返って、彼が指差す方向を見詰めます。
箒の下、森に隠される様に、大きな館が建っているのが見えました。

「此処が『魔女』の住んでるって言う博物館ね!」

カリファから貰った地図を見て確認し、1回ピョンとジャンプしてから、一気に箒を降下させます。
急降下の風に煽られ、体の浮き上がったウソップが、甲高い悲鳴を上げました。




目の前に建つ博物館は、まるで宮殿の様に華麗でした。
赤煉瓦の壁、白い窓、青い屋根。
シンメトリーの佇まいは、指でドレスを抓み、お辞儀する貴婦人を想像させます。
天辺のドームには、金の王冠が飾られていました。
建物正面の庭園には、美しく刈り込まれた芝生が広がっています。
箒から降り立ったナミは、黄金色の夕陽を浴びて煌く建物を、うっとりと見上げました。

「素敵ねー…」
「しっかし教会かと思えば市役所だったり、宮殿かと思えば博物館だったり、外から訪ねて来る人間にとっちゃ紛らわしいトコだな」
「どうせなら王様連れて来て、本物の城にしちまえば良かったのに!」
「あら、らしくないからこそ、洒落てんじゃない!…この建物もあの変態大工が建てたのかしら?考えたくないわー」
「そんな事よりマズイだろ!正門通らず入っちまっちゃ!折角向うが『門を開けて待ってます』っつったのに…」

気配りの人ウソップが、館の主の心遣いを慮って注意します。

「開門されてんなら構うこたないでしょ?大体上から飛んで来る魔女が、律儀に門を開けて通りますかっつの!――あ、薔薇の香り…見て見て!薔薇園が有るわ!」

けれどナミはウソップの注意をバッサリ斬捨て、庭園内に在る薔薇園を見付けると、勝手に足を踏み入れてしまいました。
彼女に呼ばれてルフィとゾロが、ウソップも躊躇いがちに中へ入ります。

そこは彫刻の建つ噴水を中心に、薔薇が二重三重の囲みを造って、園を構成していました。
赤白黄色、ピンクにオレンジ、青に薄緑に紫、様々な色の薔薇が咲き誇っています。

複雑に重なる花弁を観比べていたナミ達を、突然聞き覚えの無い声が呼びました。
慄いた4人が声のした方へ一斉に振向きます。

「市長から連絡を受けて待っていたわ。ようこそ、可愛い訪問者さん。此処で館長を務めている『ニコ・ロビン』です。宜しくねv」

全く気配を立てず傍に寄った女は、そう自己紹介した後、4人に握手を求めました。

身を屈めた瞬間、紫色のスーツの胸元から、薔薇の香水が香りました。
花の様に麗しい笑顔、象牙色の肌、通った鼻筋、艶めく唇、完璧なプロポーション。
カリファに負けず劣らず絶世の美女と握手を交わしたウソップが、逆上せて「ほあー」と口から変な声を出しました。
肩の位置で切り揃えたストレートの黒髪と、闇の色を湛えた瞳が目に入った時、ふとナミの脳裏にカリファが耳打ちした言葉が蘇りました。


――気を付けて…あの女は世界で最も邪悪な『黒の魔女』と噂されているわ…。


握手に応じながら、じっと黒い瞳の奥を探ります。
向い合った彼女も対抗するように、ナミの茶色い瞳を見据えました。




館内に4人を招いたロビンは、陳列されている奇妙で不可解な代物を、順繰りに観せて廻りました。

「この博物館に集められてるのは、全てシャンクスのチームが発見し、彼から寄贈された物よ。古代虫を踏み付けた靴跡、古代の遺跡から出土した水晶製のレンズ、ほぼ正確な球状に加工された巨大石球、千数百年経て尚錆びない鉄柱――ああそこの硝子ケースに入ったダイヤには極力近付かない方が良いわ。傍に居る者に呪いをかけると云われているの――シャンクスは特に『オーパーツ』に興味を持っていたから、この館でも主にそれらを中心に展示しているわ。オーパーツとは『Out of Place Artifacts(場違いな遺物)』の略語、考古学上有得ない古代遺物を指す言葉よ」

豪奢なシャンデリアが淡い光を降らすフロアで、子供達相手に専門的な解説をする彼女は、考古学に根っから強い興味を持っているようでした。
ロビンの話をルフィとウソップは目を輝かせて聞き、目に付いた物を指してはガイドをせがみました。
反対にゾロは眉に唾を付けて眺めるだけで、終いにはフロアに置いてあった長椅子をベッド代りに寝てしまいました。

休館という事で、ロビンと4人の他、館内に人影は見当たりません。
木の床はルフィ達が踏む度に、ギイギイと不気味な音を立てて軋みました。

2階フロアへ続く階段にロビンが足を掛けた所で、痺れを切らしたナミが呼び止めました。
声を掛けるついでに、側の長椅子で寝転がってたゾロを、蹴飛ばして起します。
自分を見上げる険しい表情から悟ったロビンは、彼女が用件を切り出すより早く口にしました。

「御免なさい。ついガイドに夢中になって忘れていたわ。…シャンクスのチームの足取りを記した地図が欲しいんだったわね?」
「持ってるの?」
「ええ、持ってるわよv」

ロビンがにっこりと顔を綻ばせました。

「くれるのか!?」

彼女の言葉を聞き、ルフィが興奮した面持ちで尋ねます。

「あら?ただであげろとは伺ってないわ。私と勝負をして勝ったらって約束じゃなかった?」

自分に注目する顔を見回しながら、ロビンが余裕綽々の微笑を浮かべました。

「勝負ってマホーでか!?マホーで戦えって事か!?」
「よォしナミ!!俺達の為に死に物狂いで戦って来い!!」
「うっさい鼻!!あんまり調子に乗ってると、盾に変えちゃうから!!」
「魔法で対戦する訳じゃないわ。勝負と言っても『肝試し』よ」

そう言って笑ったロビンは、4人を最上階のドームに造られた部屋へと案内しました。




スイッチを入れた途端、降り注いだ光が、ドームの壁いっぱいに描かれた、奇怪な絵を浮び上らせました。

先ず目に付いたのは、金の冠を戴き、黒衣を纏った1つ目の男。
8本の脚を持つ黒くて巨大な馬に乗ったその男の後ろには、黒い甲冑を着た首無
し騎士、骸骨の歩兵、首だけで空を飛ぶ女といった、魑魅魍魎が付き従っています。
おどろおどろしい一群が吹雪の夜空を飛翔する光景を、4人は息を呑んで見回しました。

「この壁画は5年前の開館記念イベントとして描かれた物よ。
 来場者を前に、1人の画家が半年間掛けて制作したの。
 題は『ワイルドハント』、堕ちた神が、狩った亡者を従わせ、荒れ狂う夜空をさまよう場面を描いたと聞いてるわ」
「たった半年間、しかも独りでこのドームいっぱいの壁画を!?人間業じゃねェだろ、それ!!」

ロビンから説明を聞き、ウソップが驚いて飛び上がります。

「ええ、そう…今思うに、この絵を描いた者は魔女だった。
 そして絵が完成して以来、部屋には毎晩化物が現れるようになったの」
「ばば化物ォォォ!!?」
「マジか!?おもしれー!!」

化物が出ると聞いて、ウソップはブルブルと震え上がり、ルフィは目をキラキラと輝かせました。

「どうやら絵に呪いが篭められているらしくて、塗り潰そうにも消えないの。
 お陰でドームはオープン後間も無く閉鎖、開館記念イベントとして制作した筈が、とんだ皮肉な結果に終ってしまい、残念で仕方ないわ」
「なら描いた人間捕まえて、呪いを解かせりゃいいだろ?残念に思うくらいなら、何故4年半も放っぽってんだ?」

芝居がかった溜息を吐くロビンに、ゾロが至極真っ当な疑問をぶつけます。
しかしロビンはそんな彼に向い、首をゆっくりと横に振りました。

「ところが壁画を描き終わると同時に、画家は姿を暗ましてしまったの。
 不思議な事に、その画家の素性を知る者は無く…何を目的でそんな絵を描いたのか、全ては闇の中という訳」

「それで?私達にこの部屋で何をしろと?」

ナミが本題を話すよう急かします。
ロビンは彼女の方を振向くと、笑顔で勝負を切り出しました。

「この部屋で一晩過して化物と対決する事。
 それが出来たら、シャンクス達の足跡を記した地図を渡すわ。
 対決と言っても戦う必要は無いの――床の真ん中を見てくれる?」

ロビンに指で下を示され、全員タイルが貼られた床に注目します。
床の中央には、大人が両手をいっぱいに伸ばした位な直径の、古びた銅鏡が嵌められていました。

「その銅鏡は結界になっているらしくって、その中に居る限り、化物に襲われる心配は無いとの話よ」

「……鏡……よりによって、また!……最近どうしてこうも鏡続きなの…?」

丁度中央に立っていたナミが、足下を恨めしそうに見詰めて呻きました。
魔女である彼女は、鏡が大の苦手なのです。
姿を映しても映らず、合わせ鏡の間で魔法を使えば、鏡の中に閉じ込められてしまうからでした。

「という訳でこの部屋に一晩泊まる件は、あんた達に任すわ!」
「おう!任せとけ♪」
「化物と対決たァ、修行にぴったりだぜ!」

ナミに肩を叩かれ頼まれたルフィとゾロが、嬉々として請合います。
ただ1人、ウソップだけは、蒼褪めた顔でヨロヨロと蹲ってしまいました。

「あああ…皆、悪ィ…!俺…実は『肝を試したら死んでしまう病』という持病に罹っていてな…化物と対決出来ねェのは残念だが、ナミと一緒にヌケさせて貰うって事で……」

ウソップが今にも死にそうな弱々しい声で訴えます。
しかしナミは彼にマキノが作った弁当を差し出し、有無を言わさぬ笑顔で迫りました。

「しっかりしろ天才少年!ルフィやゾロの手前逃げ出したら、あんたの男が廃るわよ?」
「気楽にヌカシてんじゃねェェェ!!!自分だけちゃっかり1ヌケなんてズリィだろコノヤロー!!!」
「それじゃあ私と彼女は、この下の部屋で待機してるわね。気絶する事無く一晩過せたら、賞品に地図をあげるから、頑張って頂戴、男の子達v」

ロビンがクスクス笑いながら、ナミを連れて部屋を出ようとした時――

「なァ、おまえがシャンクスを隠したのか?」

――その背中に、ルフィが無遠慮な質問をぶつけました。

忽ち場が凍り付き、4人の視線がロビンに集まります。
扉の前で立ち止まったロビンは、ゆっくりとルフィの方へ振り返り、苦笑して答えました。

「…シャンクスは私を此処の館長に推薦してくれた人よ。そんな大恩有る人を、どうして隠したり出来るかしら?」
「だったら何でアイスのおっさんと協力して、捜そうとしないんだ?」

否定されるもルフィはロビンを真直ぐ見据えたままで居ます。
その強い眼差しに一瞬怯んだ様子を見せたものの、ロビンはきっぱりと己の潔白を訴えました。

「だってあの市長は私を疑っている、そんな人と一緒に組めると思う?
 確かに私はシャンクスに或る秘宝の情報を教え、その秘宝を探す冒険の途中で、彼のチームは消息を絶った。
 正直責任を感じているわ、だから行方を捜して居るの。
 でも私が彼らを消したんじゃない…此処の館長に就いて以来、私は一歩も町から出ていないのよ!
 なのに市長は魔女である私なら、離れた場所からでも力を及ぼせると考え、疑いを消してはくれないの…」

一方的に話し終えたロビンは、ランプに火を灯してルフィ達に渡し、ドームの照明を消して扉を閉めてしまいました。

暗闇にすっぽり包まれた中、残された3人の少年は、中央にランプを置き、鏡の円に入って座りました。




【続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・3 その5

2010年07月31日 15時03分35秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
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吹雪が止むまでの間、ナミはルフィ・ゾロと一緒に、シャンクスの資料の片付けに励みました。
泊まって2日目の朝、空は漸く青く晴れ渡り、眩しい陽の光が一面雪に覆われた村を明らかにしました。
3階建てだった『パーティーズ・カフェ』は2階建てに変り、マキノは笑いながら本日の休業を宣言しました。
早朝からマキノの号令で屋根の雪掻きに励み、その後昼食を済ましてから、3人は予定通り出発する事にしました。

「帰って来たら皆で雪掻きの続きを手伝ってね!でないと店潰れちゃうから!」

屋根裏部屋の窓から箒に乗って飛立とうとする子供達に、マキノは明るく声を掛けて見送りました。
渡された弁当を箒の先端に結わえ、ナミが飛行の呪文を唱えます。
忽ちフワリと浮上する大きな古箒。

家を出た3人は途中でウソップを拾い、マキノに紹介された街を目指して飛行し続けました。




「まぶしーーー…目ェ開けてらんねーーー…」

ナミの腰に掴まるルフィが、目をしぱしぱ瞬かせてぼやきます。

「ああ…眩しいな……」

ルフィの腰に掴まるゾロも、薄目を開けて同意を返します。

「もんの凄ェ照り返し。こりゃ焼けるなァ~~」

ゾロの腰に掴まるウソップも、汗を手で拭いながら答えます。
最後部に座る彼だけ、こっそりちゃっかりサングラスを装着していました。

「嫌だわ…日焼け止めクリーム塗っとくんだった!」

先頭で箒を操るナミが、女の子らしい気遣いを見せます。
雪に覆われた大地は天然の鏡、眩しい陽に照らされ、正にギンギラ銀に光っていました。

「上から下から炙られてる様なもんだぜ。着く頃には全員こんがり美味しく調理されてんじゃねェ?」

そう言って見下ろしたウソップの目に、屋根だけ雪の上に突き出した家々が映りました。
さながら土中から顔を出した茸。

真下には黒く細い糸の様な川が走って見えます。
村の中央を流れる川に沿って、箒は飛んでいるようでした。

視線を前に戻したウソップは、ふとゾロの後頭部が妙な形に盛上ってる事に気付きました。
何とはなしにその箇所を撫でてみます。
その途端ゾロが「痛ェェ!!!」と叫び、物凄い形相で振り返りました。

「触んじゃねェ!!!馬鹿野郎!!!」
「おめェ、どうしたんだ、その瘤?しかも2つも出来てるじゃねェか。マリモみたく真ん丸かった頭がでこぼこだぜ?」
「ああ…これな…何か知らねェけど、朝起きたら腫れてたんだよ」
「ゾロもかァ!?俺も昨日の朝起きたらコブが出来てて痛ェのなんの!今日起きたらもう1個増えてるし!」

会話を聞いて、ゾロの前に座るルフィも振り返ります。
被っている麦藁帽子を下ろすと、頭頂部がこんもり盛上って見えました。

「俺もルフィと同じだ。…一夜毎に瘤が増えるって、どんな現象だ?」
「恐ェなァ。ルフィ、おまえんち、化物にでも祟られてんじゃねェの?」
「ああ、それはきっと妖精ブラウニーの仕業ね。ルフィ、あんた、夜に茶碗1杯のミルクを台所に置き忘れたでしょ?ブラウニーは毎晩お礼のミルクを置いておけば家事を手伝ってくれるけど、忘れると怒って家の人を殴ったり蹴ったりするのよ」

先頭に居るナミが、何故か振り返らずに淡々と喋ります。
彼女の話を聞いたルフィとウソップは、飛び上がらんばかりに驚きました。

「えええ!?俺んち、そんな面白ェもん居たのか!?」
「大変だぜルフィ!!早いトコお祓いしねェと!!」
「何言ってんだウソップ!?お礼を忘れなければ家事手伝ってくれる良いヤツなんだぞ!よし解った!俺、今度から毎晩ミルク置いとく!ぜってー忘れねェ!」
「しかし俺、偶ァにルフィんち泊まってるけどよォ…今迄1度もそんな目に遭った事無ェぞ?本当に居んのか?そんな妖精…」
「居るわよ。私も2夜続けて蹴られ殴られ、全身青痣だらけにされたわ。おまけに耳元で不気味な地鳴りを夜中聞かされて、ちっとも安眠出来なかった」
「ふーん。世の中不思議な事が起こるもんだなー」

話をすっかり真に受けたルフィとウソップが、頻りに感心して見せます。
ゾロだけは疑いを消しませんでしたが、さりとて他に納得のいく答えは浮んで来ず、揃って首を捻る姿を肩越しに観察したナミは、3人に気付かれないよう、クスクスと忍び笑ったのでした。

「ところでウソップ!あんたの方はどうだった!?新しい家の居心地は!?」
「ん?…ああ!俺が世話になってる家は、変な化物も棲み付いてねェし、同居人は全員格好こそ変態だが、案外常識人の良いヤツばっかだぜ!」

ナミから唐突に話をふられたウソップは、新しく一緒に住まう事になった家人について、詳しく話し出しました。

フランキーを頭に弟子が4人、内2人は女性。
年齢は十代後半~二十代前半、何れも陽気でノリの良い性格。
フランキー同様見掛けは変態でも、根は気さくな人情家ばかりなので、直ぐに打ち解けたとの事でした。

「皆仕事してねェ時は酒ばっかり呑んでんだ!俺が初めて来た日も酔って寝転がってたみてェで、紹介されたのは翌朝だった。それから歓迎会が始まって、気付いたら今日の朝だったぜ!」
「なんか楽しそうな家だなー!」
「ああ、楽しい!最初は不安だったけど、紹介して貰って良かった!今度村長に会ったら、お礼言わなきゃなァって思ってる!」
「良かったじゃねェか。気の合う同居人で」
「『類は友を呼ぶ』って言うものねェ」
「変態は変態を呼ぶってか」
「その内こいつも短パンいっちょで外出回るようになるのかしら?」
「誰が変態道まっしぐらだァァ!!?」

4人賑やかに飛びながら雪山を下り終えると、真下に見える川は大河に変っていました。
陽を照り返す白銀も消え、黒々とした平地が広がっています。

河を流れる水が海と出合った所で、ナミは箒の進む向きを変え、今度は海岸線に沿って飛行しました。
山から吹くのとは違う穏やかな風に乗って進む事40分、目指していた港街は漸く姿を現しました。

「見付けた!あれがマキノの言う街、『ボスコ』だわ!」

エプロンのポケットから地図を出し、確認したナミが叫びます。
彼女が指で示した街を、3人の少年はじっと見詰めました。

先ず高く聳える塔が目に入りました。
もう少し近付くと、その下に沢山の建物が整然と並んでいるのが判りました。
建物の多くは赤茶色で、煉瓦で造られているようでした。
街を囲んで河が流れているのが見えます。
河は海から街に流れ、街から海に流れる、人工的に造られた運河のようでした。
海を臨む港に帆船を見付けたルフィが歓声を上げます。
更に高度を下げると、色彩がはっきり飛び込んで来ました。
建物の赤、河と海の蒼、街路樹の緑…3色のコントラストは絶妙で、まるで絵画を観ている気持ちになりました。

「きれーな街だなー…」
「本当、とっても綺麗だわ…」

見下ろす一同の口から、感嘆の溜息が零れます。

「俺様が鑑定するところ、この街は近代に造られた新しい物だな!長い歴史を持つ街は、その途中で時代の異なる建物が加えられるもんだが、此処の街の建物は全て同じ時代で統一されている!」
「けど建物のデザインはやたら古めかしいぜ?」
「おとぎばなしに出て来る、お城みたいな建物ばっかだよな♪」
「いえ、ウソップの見立て通りよ。この街は完成してから精々5年しか経っていない…」

街を上から眺める彼らの耳に、カーンという鐘の音が届きます。
音を頼りに位置を探ると、街の中心の広場に白い教会が見付かりました。
再びナミが地図を開いて確認します。
4人を乗せた箒は、教会を目指してゆっくりと下降して行きました。




周りを囲む建物が赤煉瓦で造られている分、その白い石造りの教会は一際目立って見えました。
広場中央に位置する点からも、特別な建物である事が解ります。
正面最上部には数本の尖塔と、鐘撞き堂が取り付けられていました。
3階(鐘撞き堂を含めると4階)まで続く壁の至る所に、精緻な彫刻が施されています。
その威風堂々とした姿に圧倒され、4人は暫く広場に呆然と佇んでいました。

「…なァ…本当に此処で合ってんのか…?」
「ええ、間違い無いわ!」

ウソップに尋ねられたナミが太鼓判を押します。

「だってよ…お前らの言う尋ね人の『アイスバーグ』って市長だろ?…普通教会に居るのは神父か司祭か牧師かシスターに決まってね?」
「間違い無いって!地図に『教会みたいな市役所』だって書いてあるもの!」
「これが市役所ォォ!?随分神々しいなァ、オイ!!」
「すげー、教会そっくりじゃん!」
「『俺はこの街の神』とでも言いたいんじゃねェの?」

ふとざわめく人の声が耳に入り、周囲を見回します。
気が付くと4人の背後には数人のギャラリーが出来ていました。
空から降りて来た為に、注目を浴びてしまったのです。

慌てて玄関に続く階段を上り、呼び鈴を鳴らすと、金色の長い髪を1つに纏め、眼鏡をかけた美女が顔を出しました。
驚いた事に、扉に鍵は掛けられていなかったようでした。
許可を待たずに笑顔で入ろうとしたルフィを殴って止め、後ろに立つゾロに渡したナミは、かしこまって挨拶をした後、マキノに持たされた手紙を美女に渡しました。
美女は手紙の宛名に目通しした後、一旦断って中に引っ込み、数分後、許可が下りたと言って、ナミ達を館内に通しました。




美女の案内でシャンデリアの点る螺旋階段を上り、2階の市長の部屋に入室します。
肘掛け椅子に座って出迎えた男は、青い髪の、無精髭を生やした、逞しい中年の男でした。
眼鏡をかけた美女が、「この方が我が街の誇る市長ですよ」と、ナミ達に紹介します。
アイスバーグはルフィとゾロとウソップの顔を認めた途端、破顔して立ち上り、近付いて3人の少年達の頭をグリグリ撫で回しました。

「ンマー!おまえら、どうやってこの街に来た!?今の時季、山には雪が降ってて、馬車で下りる事も出来ないだろうに…ンマー、そんな細けェ事はいいさ!よく来たなァ、歓迎するぞ!しかしちょっと目を離した隙に大きくなりやがって!ルフィ、マキノさんに変りはないか!?」

いっぺんに色んな事を訊きながら、ひたすらグリグリ頭を撫で回す男を、される側の少年達は不審を露に睨みます。
その視線に気付いたアイスバーグは、気まずそうに笑って手を引っ込み、少年達に謝りました。

「…ンマー、おまえらは覚えてないだろうが…俺ァ何度か赤ん坊だったおまえらと会ってんだよ。その頃の顔でつい見ちまってな…済まなかった!」
「へー、そうなのか?ちっとも記憶にねーよ」
「ンマー、そりゃそうだ。だがこっちはマキノさんからの週一の手紙で村での素行は熟知してるし、ウソップ、おまえの話もヤソップと会う度耳にしてたんだぞ!」

そう言ってウインクをしたアイスバーグは、子供達に椅子を勧め、己も対面する位置に着席しました。
ビロード布の張られた横に長いソファは、4人並んで座っても窮屈に感じません。

アイスバーグは眼鏡美女に珈琲と菓子を持って来るよう頼もうとしましたが、言われるより先に彼女は車輪の付いたテーブルに人数分の珈琲と菓子を載せて持って来ていました。
アイスバーグが呼ぶところ、眼鏡美女は「カリファ」という名前のようでした。
そのカリファが四角いマホガニーのテーブルの上に、珈琲と菓子を置いて行きます。
カップの中の珈琲には予めミルクも砂糖も入れられていて、それが事前に要望を訊いた訳じゃないのに各人の好みピッタリだった為、口にした子供達は大層驚きました。
眼鏡を通して煌く理知的な瞳、セクシーな唇、麗しい金色の髪、均整の取れたプロポーション、といった姿形の美しさだけでなく、彼女は一流の実力を具える秘書のようでした。

珈琲を飲んで一息入れた子供達は、改めて市長室を見回しました。
建物の外観に較べると、室内は随分質素に思えます。
ケバケバしい金ピカのインテリアで飾られてるでもなく、御立派な肖像画が壁に掛けられてるでもなく、豪華な物と言えば大きな硝子のシャンデリアと、マホガニーのテーブルと書記机と戸棚と、ビロード張りのソファくらい。
シンプルなしつらいは、部屋を使う者の人となりを、暗に語っていました。

子供達が部屋を観察したり、争って菓子を食べたりしている間、アイスバーグは黙ってマキノからの手紙を読んでいました。
読み終えた所で眼鏡を胸ポケットに戻し、折り畳んだ手紙をテーブルに置きます。
紙が立てた軽い音に、騒いでいた子供達の視線が集中しました。
全員黙ってアイスバーグの言葉を待ちます。

「此処を訪ねた理由は解った…シャンクスのチームの足跡を記した地図が欲しいと…」
「おお!!そうだ!!くれるか!?早くくれっ!!」
「いいいやそれだけでなく、捜索隊に入れて欲しいっつか、入れて下さいっ!!」

威勢良く頼むルフィとウソップを前に、アイスバーグは何故か浮かない顔で居ました。

「地図を貰ってどうする気だ?」
「もちろんシャンクスを捜しに行く!!」
「俺の親父のヤソップも捜すんだ!!だから捜索隊に入れてくれ!!」
「その前に地図見せてくれよ!!持ってんだろ!?おっさん!!」
「駄目だ!!」

アイスバーグの一言に、一瞬場がしんと静まりました。
しかし2人は怯む事無く、声のボリュームを上げて食い下がりました。

「何でだよ!?ケチ!!!地図1枚くらいよこせよ!!!只じゃくれねーってのかァ!!?」
「そんなんじゃねェ、金積まれたとしてもやれねェさ!」
「捜索隊に入れて貰うってのも駄目なのかァ!!?それって俺達が子供だから…!!!」
「そうだ!」
「子供だからってバカにすんな!!!俺やゾロは大人にだって負けない力持ってんだぞ!!!」
「その通りだぜ、おっさん!!!片や怪力無双の『破魔の拳を持つ者』、片や『魔族の血を吸う妖刀使い』、加えて俺は『世紀の発明王の血を引く天才少年』!!!偽魔女のトリックを見破り退治した1件は、世の人達の記憶に新しい所!!仲間に加えりゃ大人800人力は堅いと思うぜェ!?」
「トリックを見破ったのはおまえの手柄じゃねェだろ」
「だァァ!!!コブマリモは黙っとれェ!!!」
「お前達が大人顔負けの力を持ってる事は承知してる!その上で駄目だと断ってんだ!!」

再び全員の頭上に静寂が降りました。
アイスバーグは組んだ両指の上に顎を置くと、ルフィ達を真直ぐ見据えて厳かに話しました。

「どんなに強力だろうが、所詮おまえらは育った村で10年と少ししか生きてねェ子供だろうが!
 狭い世界の中で起きる物事しか見てねェし、聞いてねェし、知っちゃいねェ!
 井の中の蛙が大海に跳び込んでも溺れるだけだ!
 おまえらに冒険は未だ早い!――38年生きて来た俺の見解だよ!」

「要するに経験が不足してるって言いてェのか?」

仏頂面で問うゾロに、アイスバーグは苦笑して頷きました。

「ンマー、とどのつまり、そういうこった!1年も消息不明で焦る気持ちは解るが、おまえらが捜索に加わった所で状況が好転するとは思えねェし、ミイラ取りがミイラになられても困る。此処は俺を信じて任せちゃくれねェか?」
「…1年も捜して見付かんねークセに、えらそうに『任せろ』なんて言うな!俺達が捜せばもっとずっと早く見付かるさ!!」
「そうだそうだァ!!お先に生きてますってだけで偉そうに説教するなァ!!俺達を仲間に加えなければ、必ずや後悔する日が来るだろう!!」
「そうだな!大人の俺達より強力なおまえらが捜せば、地図を貰わなくとも、捜索隊に加わらなくとも、あっという間に見付かるかもしれん!」

諦め切れず悪態を吐いたルフィとウソップに、アイスバーグが意地悪く返します。
返された2人は悔しさで顔を真っ赤にし、黙ってしまいました。
子供達の表情を満足そうに見回しながら、アイスバーグは尚も続けます。

「ンマー、シャンクスやヤソップはおまえら以上に強くて賢いんだ!捜索は勿論続けるが、こちらが見付ける前にひょっこり帰って来る可能性も有る。俺の力は信じられなくとも、あいつらの力は信じられるだろう?帰って来る奴らを出迎えてやる為にも、おまえらは自分の家で待――」
「ちょっと待ったァ!!」

独り珈琲をお替りし、啜っていたナミが、立ち上って叫びます。
話を遮られたアイスバーグは、ぽかんとした顔で彼女を見上げました。
そんな彼の目の前で、ナミの茶色かった瞳が、瞬く間に金色に変化します。
続いて宙から大きな古箒を取り出して見せると、アイスバーグとカリファの口から驚愕の叫びが漏れました。

「何処のお嬢ちゃんかと思っていたが……『オレンジの森の魔女』だったか!!…噂に知られる人物にお目にかかれて光栄だよ!」
「『ナミ』よ!宜しく!」

背を屈め差し出したアイスバーグの右手を、ナミはにっこり笑って握りました。

「成る程!こいつらが此処に来れたのは、あんたの手助け有ってか!」
「まーそーゆー事。それで、私の話をちょっとの間、聞いて貰いたいんだけど…」

彼女の申し出を聞いたアイスバーグは、ソファに座り直して「どうぞ」と促しました。
譲って貰った舞台の礼を愛想良く述べてから、演説を始めます。

「あんたの言い分は理解したわ。
 その上で千年生きてる私の言葉を聞いて――『こいつらに地図を渡しなさい!』
 あんたの言う通り、経験が不足してる彼らだけじゃ、地図を手に入れて大海に飛び込んでも溺れるだけ。
 私が力を貸しさえしなければね!」

話を聞き終えたアイスバーグは、さも愉快そうに爆笑しました。
「降参だ」とばかりに、彼女の前で両手を挙げてみせます。

「じゃあ、地図を渡してくれるの!?」

ルフィとウソップの顔がパァッと明るく輝きます。
しかしアイスバーグは笑いを引っ込めないまま、首を大きく横に振りました。

「渡さねェと言っただろ!ただ、オレンジの魔女さん、あんたの事は気に入った!…実はこの街にも海千山千な魔女が居るんだが…どうだい、対決してみねェか?」

アイスバーグの紫色の唇の端が、ニヤリとつり上がります。

「魔女?」
「街の1番奥に建つ博物館の館長を務めている女さ!
 名前は『ニコ・ロビン』!
 シャンクスらが行方不明になる切っ掛けを作った女でね…」
「そいつが犯人かっ!!?」

聞いた途端、ルフィが血相を変えて、会話に加わりました。

「残念だがアリバイが有る。
 だが怪しい女である事は確かだ。
 今回のシャンクスらの冒険は、その女の依頼を受けて、始まったものなんだよ。
 シャンクスのチームが消息を絶って以来、女は独自で足跡を辿っているらしい。
 つまり俺らと同じ目的で動いてる訳だが、協力を求めても何故か断りやがる。
 どうだ?あの女に勝負を持ち掛けて、地図を手に入れちゃみねェか?
 俺よりもずっと手強い相手だと思うがな。
 勝負してみるって言うなら、俺がアポを取ってやろう!」

そう言うとアイスバーグはカリファを呼び、博物館に電話させようとしましたが、彼が頼むよりも前に手配は済んでいました。
電話を終えたカリファは、今日博物館は休館だけれど、住み込みの館長は門を開けて待っていてくれると、ナミ達に説明しました。

「休館とは都合良い。存分に相手して貰えるだろうぜ!」

不安げに顔を曇らすナミ達に向い、アイスバーグは益々笑みを深めて言いました。




4人が館を出る頃、空には青から朱のグラデーションが広がっていました。
斜めから射す黄金色の陽が、煉瓦の広場に長い影を描きます。
建物も、通り行く人も馬車も、黄金色に染められ、まるで1枚の絵の様でした。

「綺麗な街だろ?」

テラスで足を止め、うっとり眺めていたナミ達に、アイスバーグが囁きました。

「設計に3年、完成までに10年を費やした。未だ5年目、これから更に綺麗になる!」
「あんたが設計したの?」

自分を見上げる茶色い瞳に、にっこり笑い掛けます。

「設計は俺が主導で行ったが、その際多くの学者達を呼んで、知恵を借りた。その学者達との仲立ちをしてくれたのがシャンクスだ!」
「つう事はあんたとシャンクスが、この街の創始者って訳か!」
「シャンクスがこの街造ったのか!?」

ルフィが目を丸くして叫びます。

「加えて明かすなら…ルフィ、おまえの村に『フランキー』って奴が居るだろ?あいつと俺は同じ師匠の下で腕を磨いた義兄弟だ。この市役所は俺の書いた図面を元に、あいつが建てた物だよ」
「あの変態マッチョ大工が、こんなにも神々しい建物をォォ!!?」

今度はウソップが目を丸くして叫びました。
振向いて白亜の館を微細に観察します。
壁を飾る繊細な彫刻と、頭に浮かべた短パン大男の像は、如何にしても結び付きませんでした。

「この街を育てるには、シャンクスの力が要る。
 俺にとっても居なくちゃ困るんだよ。 
 捜し出してみせる!必ずな…!」

別れる間際、アイスバーグはルフィと目を合わせて約束しました。
鐘がカーンと鳴り、広場に響きます。
陽は今にも建物向うに隠れてしまいそうでした。

階段を下り、急いで箒に跨ったナミが、3人を呼ぼうと振向いたその時――後を追って来たカリファが、そっと耳打ちしました。

「気を付けて…あの女は世界で最も邪悪な、『黒の魔女』と噂されているわ…」




【続】
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