瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

君と一緒に(ルナミ編-その13-)

2010年03月01日 21時36分22秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回からの続きです。】




バスを降りたそこは、見覚えの有る場所だった。
運河の向うから流れて来る潮のにおいにひかれて、レンガ道のはじまでナミの手を取り走ってく。
目の前には昼飯食う前に観に来たヨットマリーナ…って事は、元の地点に戻ったわけか。
運河と海の境い目に、青いとんがり帽子を2つかぶったような、赤レンガの建物が建っていた。

「何のための建物だろ?」
「さあ…?ひょっとしたら水門かも」
「水門?」
「ほら、運河と海の境い目に建ってるし…ただ実際に水門の役目を果たしてるようには見えないけど」

謎の建物には屋根が有るけど、とびらが無い。
好きに入れて、m字型に開いた四方からのぞけるこーぞーになっている。
見晴らし台だろうか?

建物の中にベンチが並んでるのを見つけたナミが、「ちょっと休んでこv」と言ってニッコリ笑った。
運河を向くベンチに海を向くベンチ、俺達が座ったのはもちろん海を向く方だ。
m字型に開いた窓から夕焼けにそまる海が見えた。
水平線の向うには、かすむ山。

「パノラマね」
「うん、絶景だな!」

チラッとナミの横顔をうかがってから、視線をそおっと前方へ動かす。
昼間観た時と変らず、石のご岸近くには、ヨットが沢山けーりゅーされていた。

「…大丈夫よ。風が大分治まって来たし、明日は乗れると思うわ」

ザブーンと建物に波が当たって、海面が白く泡立つ。

「夕焼けが綺麗な次の日は、大抵好いお天気になるの。だから…乗れると思う」

「ほら!」と言って指差した先には、街のうらっかわに沈んでこうとする夕陽。
にぶい青色した空の中で、その周りだけが金色に輝いてた。

見とれるナミの横顔に視線を戻す。

夕陽の色に似た髪が潮風にあおられ、後ろになびくのがきれーに思えた。
俺にジッと見られているのに気付いてるはずなのに、ナミはこっちを振り向きもせず何も言って来ねェ。
ちゃんと隣に居る事を確めたくて、俺はにぎってる手に力をこめた。

「どーしても、一緒に乗りたくね?」
「乗りたいんだけど、乗れないの」
「乗れるさ!俺が付いてんだから!」
「ありがと!でもやっぱり、あんた1人で乗って来て」
「俺が乗ってる間、ナミは何してんだ?」
「適当に店ひやかしたりして遊ぶ積りですから、お気にされずに楽しんで来なさいよ」
「せっかく一緒に旅行してんのに、バラバラで行動したら、つまんねーじゃんか!」
「しょーがないでしょ!あんたがどうしてもヨットに乗りたいって言うなら…!」

がまん出来なくなったのか、ついにナミがこっちを振り向く。
真ん丸に開いた目が、俺の顔を正面から見すえた。
ザブーンてまた、波が下に当たる音が響く。

「だから…どうして私を乗せたがるの?」
「だから言ったろ!俺独りじゃヨットに乗れねェ、ナミが居なきゃダメなんだ!」

ふぅーっとナミがため息を吐いた。
「しょうがないわね」って、母ちゃんか姉ちゃんみたいな笑い顔だ。
もう1度海の方を向いた後、ナミは金色の夕陽を指差して言った。

「あんたはあの太陽と同じ。…私が居なくたって、夢を叶えられるわ」

そうしてまた俺の方を向いて、さびしく笑って見せる。

「自力で輝ける太陽は、何もしなくたって星を引き寄せる。もしも私が軌道から外れたとしても、きっと代わりの星が現れて、あんたを助けるでしょうよ」
「太陽なんかじゃねェぞ、俺は!!」

にぎってる手を引っ張り、ナミを胸に抱きしめた。
ネコみたいにあったかくて柔らかい体が一瞬だけ強ばる。
それでも腕にますます力をこめて、ぎゅうぎゅうにしめつけた。
ほほにほほが触れる、息がかかるくらい顔を近づけて、目の奥までじぃっとのぞきこんだ。

「…何で離れるような事言うんだよ?」
「離れたくないけど…」
「じゃあ言うな!死んでも言うな!!今度言ったらバツとして1番高い店で飯おごれよ!!」
「…それだけは勘弁して」

ナミの体からは甘酸っぱいミカンのにおいがする。
子供のころから食い物のにおいに敏感な俺は、はぐれた時このにおいを頼りにさがし出した。
どんなに離れた場所に居ても、ナミのにおいは不思議と判るんだ。
おかげで俺の脳には「ミカン=安心するにおい」ってインプットされちまってる。
もしもナミが俺から離れたって、きっとにおいをたどって見つけ出してみせるさ。

抱きしめたまま、キスをしようと思った。
見下ろす俺の目を見て、気持ちをさとったんだろう。
ナミがゆっくり目を閉じて、くちびるを少し上に向けた。

これが初めてのキスなのかーって思うと、すげーきんちょーする。
ナミにならって目を閉じようとして、それじゃあポイント誤っちまうと考え直し、目を開けて挑む事にした。
もうちょっと上を向いてもらった方がやりやすいんだけどな。
あごを持上げようとした指が、思っ切し汗ばんでるのに気付く。
しかも震えてまでいるから、触れたらナミにきんちょーしてるのがバレちまうかも。

しかたなく手を使う事はあきらめた。
角度は悪くても、度胸一発決めるしかない。
深呼吸して再び顔を近付けた時だ。


『……!!!』


突然聞覚えの有る声が耳に飛び込んで来てぎょーてんした。

「ゾロ!?」
「…ぞろ?」

慌てて声がした方に体を向ける。
運河側から聞えたと思ったのに、そこに知ってる顔は見当たらない。
教会が建ってる広場からバス停の方へ歩いて来たのは、ヤツにちっとも似てない太ったおばさん1人だけだった。

「『ゾロ』ってバイト先の先輩の事?あんた以上に計り知れない方向オンチだっていう」
「おっかしーなー、確かにゾロの声が聞えたんだけど…」

わざわざナミの体を離して、5本の道が合流するバス停まで道を戻り、キョロキョロ見回したものの、たずね人は出て来なかった。
タヌキにでも化かされた気分だ。
首をひねりながらベンチに戻った俺に、ナミは調子を合わせてか、真剣に考えこむしぐさを見せた。

「ルフィを凌ぐ方向オンチだってなら――東京から此処まで迷って出て来てもおかしくないわね」
「どーゆー意味だよ、そりゃあ!?」

ジロリにらんだとたん、ナミはプッとふき出した。

すっかりムード台無しだ、どうしてくれんだよゾロ!?
見付からないって事は空耳だったんだろうけど、初めてのキスを邪魔された怒りは、りふじんを承知でヤツに向う。
もしも本当に目の前に現れたら、碇を巻きつけてから海に沈めてやる。

人の気も知らずにナミはベンチに座って笑い転げるばかり。
その時パッと建物の中に明りが点った。
いつの間にか日が沈んで、空がうす暗くなってる。

「え?やだもう5時近いじゃない!早くチェックインしなきゃ!」

腕時計を見たナミが、ベンチから体を起して、広場の方へと急ぎ足に向う。
横切る途中で聞えよがしに「あー首が痛い」とつぶやいた。

街のうらっかわを残して、だんだんと青が濃くなる空と海。
くっ付いてるようで1つにならないのが、俺とナミに似てるなーって何となく思えた。

ともかく帰ったらゾロのヤツぶん殴ってやるんだ!
拳をギュッと固めてちかった俺は、回れ右してナミの後を追いかけた。






…3月は後2回…上手くすれば3回続きを書けるかも。
でも何時上げるかは言えない、2月末の時みたく、上げると言って、その日に上げられなかったら気まずいんで。(汗)

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