【前回の続きです。】
オレンジ広場には1~2分もかからず到着した。
おっさんにお礼を言って降りたそこには、すでにものすごい数の人が集まっていた。
昼間はどこもガランとして見えたのに…いつこんなに増えたんだろう?
集まった客はクルクル色が変わる三角ツリーの前で写真を撮ったり、フードスタンドであったかい食いもんや飲み物を買ったりしてた。
腹がグーグー鳴る、夕メシ食ってねーもんな。
20時過ぎても食わずにいるなんて、人生初めての経験だ。
とりあえずハンバーガー売ってるスタンド見つけたんで、テリヤキパインバーガーってのを注文したら、マクドのハンバーガーの3倍は有るんじゃないかってボリュームでビックリした。
その分高ェけど味もなかなか、ハンバーグとパイナップルが意外と合う事を初めて知った。
3口で食い切り、ソースの付いた指をベロベロなめる。
まだ腹一分目にも満たない、もう2~3個食おうかな?
「…落ちこんでても腹は減るんだなー」
しみじみ思う、食ってる間はナミの事を忘れてられた。
着いた最初こそ集まってる奴らの顔を、かたっぱしからのぞいて廻ったけど、嫌な顔されるし、疲れたんで止めた。
俺ばっかり何でこんなさがし廻らなきゃなんねーんだ!
もう知らねー!ナミなんか独りで勝手に遊んでろ!
やけ食いだ!土産分つぎこんで食ってやる!
特にゾロ!サンジ!おまえらにはキーホルダー1個だって買って来てやんねー!
ムカムカしてる俺の隣で、女3人組が冬なのにソフトクリームを注文する。
渡されたソフトクリームは、ハンバーガー同様、普通より2倍はビッグなサイズだった。
よーし、俺も買うぞ!何にすっかな?バニラじゃありきたりだし…
――その時、風に乗ってミカンのにおいがした。
「そーだミカンが良い!ミカン味のソフトくれ!!」
「みかん??…済みません、みかんソフトってのはメニューに無くて…」
「え??でも今においがしたぞ…?」
店員の男が困った顔を見せる。
風に運ばれて来るミカンのにおい。
においを辿って後ろを振り向いた。
「――ナミ…!!」
広場の在る港街、目の前には海が広がってる。
木造船の甲板に似た板じきのデッキの正面には、赤くライトアップされた帆船がけーりゅうされている。
帆船の周りに集まった大勢の人達、どうやら花火は帆船後ろの海から打ち上げるらしい。
花火を待つ人ごみの中に、ナミは独りで立っていた。
ナミの体からは甘酸っぱいミカンのにおいがする。
子供のころから食い物のにおいに敏感な俺は、はぐれた時このにおいを頼りにさがし出した。
「ルフィ…!!」
「…やっと見つけた!!」
後ろから肩をつかんだ瞬間、ナミはビクッと体を震わせた。
目を真ん丸にして驚くナミに、俺は得意満面の笑顔を返す。
――真っ暗な海の向うに光が幾つも瞬いてる。
――なのに船乗りは灯台の光を見分けられる。
――それは灯台が船乗りの方を向いて、光ってるからさ。
「光じゃなくて匂いを辿って来たんでしょ?方向オンチのクセに、鼻は頗る利くんだから…」
「大勢の中から見つけ出した事には違いねェだろ?やっぱナミは俺の灯台だ!俺がヨットマンになるために絶対必要なんだ!」
「悪いけど他を当たって。私程度に地図が読める人間なら、世の中にごまんと居るわ」
「俺は、ナミじゃなくっちゃ嫌なんだ!!!」
突然広場中のイルミネーションが消えた。
集まってた奴らがザワザワ騒ぐ。
英語で開始のアナウンスが流れ、重々しい鐘の音が響いた。
音楽が始まる、海から何本ものレーザー光線が走った。
「俺はナミが言うような『太陽』じゃねェ。独りじゃ輝けねェんだ」
「輝く為には他の人の力が要るって言いたいの?だったら探せばいいわ。私は駄目。ヨットに乗ってるあんたを待ち続けるなんて出来ない。かと言って一緒に乗る事も出来ない…!」
「けど俺にとっての灯台はナミだけだ。ナミが俺の方を向いて、光って導いてくれなきゃ、俺はどこにも行けない…!」
「灯台になんかなれない…!!あんたを一生導いていけるほど私は強くない…!!目の前に居た母さんも助けられなかった!!」
「でも俺の事を助けてくれた!!!」
――パパパパパンッ…!!!!と、夜空に連続して花火が開いてく。
暗い空からキラキラ光って舞い落ちる。
泣いてるナミの目が、鏡になって光を反射した。
「……太陽じゃないって言うなら……ルフィ、あんたは花火よ!パーン!と飛び出して、華々しく散って…」
「…あのな、えんぎの悪い例えすんなよ」
「だって……」
「俺は太陽でも花火でもねェ!ちゃんと陸に戻って来て、おまえと一緒に生活する!海上でずっと暮らしてくつもりはねェんだ!」
次々と打ち上がる花火、雲とけむりがレーザーを反射する。
まるで夜空いっぱいにスクリーンが広がってるみたいだった。
「花火は打ち上げたら空で開く…けど人間を打ち上げたら、元の姿のまま帰って来るんだ!――こんな風にな!!」
「ちょっ!?何する積り!?止め――キャアア…!!!」
腕に抱きしめたナミを、空に向かい放り投げる。
悲鳴を上げるナミの後ろで、花火がドーン!!と打ち上がった。
落ちて来たナミをキャッチしては、また放り投げる。
何べんも何べんもくり返した。
「実験してみろ!俺だって打ち上げたら必ずおまえの元に帰って来るから!!
太陽じゃねェ!!花火でもねェ!!俺はおまえと同じだ!!」
「ご…ごめん!!もう言わないから…!!恥ずかしいから止めて!!お願い――キャアアアア…!!!」
「だったらプロポーズ受けるか!?受けるって約束したら止めてやる!!」
「そ…それは…!!――アアア…もう許してェェ~~!!!」
ナミが泣きながら止めてと叫んでも、俺はタカイタカイをし続けた。
花火と一緒にポーン!ポーン!とナミが打ち上がる。
光る雪を浴びて落ちて来るナミはきれーだと見とれた。
「ナミ!!俺…1人で廻ってて思い知ったんだ!!
独りの俺はすっげー弱いって!!
ナミが居なくなっただけで、自信も何かも失くしちまった!!
だからナミ……俺を助けてくれ…!!!」
腕にキャッチしたナミをしっかり抱きしめる。
ナミが俺の首に腕を回した。
「……私が……あんたを…?」
「…おまえがピンチの時は必ず俺が助ける!!
だからナミ…俺がヨットマンになるのを助けてくれ…!!」
ほほに、涙でぬれたほほが、ぴっとりと触れる。
「…解った……あんたを助けてあげる…!」
いっそう強く首に巻きついた腕。
俺も腕に力をこめてナミを抱いた。
ワアァァ…!!と大きな歓声が上がる。
驚いて空を見たら、ちょうど花火が終わったトコで、金色の光がゆっくりと落ちながら、かき消えてく。
なぜか周りの観客数人が、俺達の方を向いて、はく手をしていた。
2そうのカヌーが光る水面をすべってく。
メガネ橋の下をくぐり、遠ざかってく様子を、橋の上で並んで眺めてた。
「あれが『ナイトカヌー』…観てるとロマンチックそうで、乗りたくなるわね」
「だったら明日乗ろう!俺も乗りてェ!」
河岸にたれ下ってるイルミネーションが、水面に映って瞬いてる。
「光の運河」って名の通り、まるで金色の河が流れてるみたいだった。
「それよりも先ずヨットに乗るんでしょ?私も乗るからフォローお願いね!」
「え?ナミも?乗ってくれんのか!?」
「恐いけど…待つより一緒に乗りたいもの。勇気出して踏み出すわ!」
にっこり笑って俺の両肩につかまる。
顔が近づいて来た。
唇に唇が触れる――やわらかい…甘い息が吹きこんだ。
味わってたのはわずかな時間で、すぐに離れる。
「………キスしてあげたってのに、どうしてそんな不満そうな顔してるの?」
暗くてもナミのほほが赤くなってるのが良く判る。
「だって…彼女からキスされるのって…男のメンツ丸つぶれじゃん!」
最初こそあっけにとられてた俺も、ジワジワと顔が熱くなってくのを感じた。
ナミがけらけらと笑い声を立てる。
白い息をやかんの湯気みたくポッポッポッと吐き出した。
「…待っててもあんたからしてくれないんだもん。一緒に部屋に居ても、押し倒そうともしない。あれこれ不安を抱えて、それでも覚悟を決めて来たってのに…肩透かし食らった気分よ」
「俺だって不安だった…抱きたくても、ナミがどう思ってるのか解らない内は出来なかった」
嫌われて、逃げられるのが恐かった。
「……不安なのはお互い様か」
手袋をはめてない手が、ナミの手袋をはめた手の中に包まれる。
ゆっくりもみほぐされると、温かくて気持ち良い。
のぞいた瞳の中に、金色の光でふちどられた俺が立っている。
肩をゆっくり抱き寄せ、今度こそ俺の方からキスをした。
「…初めて同士、今夜は頑張ろう♪」
唇を離したナミが明るく笑う。
その言葉を聞いた俺は、重要な事を思い出した。
「あ~~~~~~~~~~~~!!!!!」
「…!!――い…いいきなり何よ急に耳元で大声出して…!!!」
「コンドーム!!――買うの忘れた…!!」
ショックで足から力が抜ける。
がっくりとその場にくずれた。
「ば…馬鹿ッ!!阿呆ッ!!どうしてそんな重要な物…の前に、そんな事大声で言って、誰かに聞かれたら恥ずかしいでしょーが…!!!」
「…ナミ、どうすりゃいい?」
我ながら情けない声でたずねた。
ナミがちんつーな表情で「ハァーー……」とため息を吐く。
「…此処、薬局が有るから買えると思う」
「本当か!?やったー!!すぐ買って来る!!」
「…でも、今日はもう営業終ってると思う」
「マジかよ!??チクショー!!!」
いっきいちゆーする俺の正面にナミがかがむ。
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて言った。
「しょーがないから初Hは明日ねv」
「えええ!!?そりゃねーよナミ!!しよーぜ!!」
「駄目ェー♪させてあげなーい♪」
「いーじゃん付けなくても!!どーせ結婚すんなら出来てもOKだろ!?」
「駄目ったら駄目ェー♪根無し草な男相手に、無謀な真似出来るか!」
「せっかく一緒に泊まるってのに、何もしないなんてつまんねーじゃんか!!」
「うっさい私だってがっかりしてるんだから!!用意しなかったあんたが全部悪いんでしょー…!!」
次の日の早朝5時、ウソップから「セイコーしたか!?」と、メールが届いた。
それを読んだ俺は、「昨夜は予行!今夜が本番!」と返信した。
【終わり】
…ほぼ1年間連載にお付き合い下さった方、有難う御座いました。
お陰様で漸く書き終わる事が出来ました。
ダラダラ書いてた間に、ハウステンボスは大分変わりましたが(汗)、風景は変わらず美しいままです。
是非何時か遊びに来て下さい。
日を改めて連載の後書き的な物をUPする予定、その後ゾロナミ編を性懲りも無く始めようと考えてます。
ルナミ編の後に読むのは複雑かと思いますが、何となく世界が重なってますんで、続けてお楽しみ頂ければ嬉しく思います。
折角なんで(何がだ)ゾロナミ編は、ルナミ編の始まった9/16~開始する予定です。
出来なかったら御免なさい。(汗)
最後に…この回に登場するハンバーガースタンドは「ビッケン・ビッケン」、詳しくはまったりさんのブログを御参考にされて下さい。
オレンジ広場には1~2分もかからず到着した。
おっさんにお礼を言って降りたそこには、すでにものすごい数の人が集まっていた。
昼間はどこもガランとして見えたのに…いつこんなに増えたんだろう?
集まった客はクルクル色が変わる三角ツリーの前で写真を撮ったり、フードスタンドであったかい食いもんや飲み物を買ったりしてた。
腹がグーグー鳴る、夕メシ食ってねーもんな。
20時過ぎても食わずにいるなんて、人生初めての経験だ。
とりあえずハンバーガー売ってるスタンド見つけたんで、テリヤキパインバーガーってのを注文したら、マクドのハンバーガーの3倍は有るんじゃないかってボリュームでビックリした。
その分高ェけど味もなかなか、ハンバーグとパイナップルが意外と合う事を初めて知った。
3口で食い切り、ソースの付いた指をベロベロなめる。
まだ腹一分目にも満たない、もう2~3個食おうかな?
「…落ちこんでても腹は減るんだなー」
しみじみ思う、食ってる間はナミの事を忘れてられた。
着いた最初こそ集まってる奴らの顔を、かたっぱしからのぞいて廻ったけど、嫌な顔されるし、疲れたんで止めた。
俺ばっかり何でこんなさがし廻らなきゃなんねーんだ!
もう知らねー!ナミなんか独りで勝手に遊んでろ!
やけ食いだ!土産分つぎこんで食ってやる!
特にゾロ!サンジ!おまえらにはキーホルダー1個だって買って来てやんねー!
ムカムカしてる俺の隣で、女3人組が冬なのにソフトクリームを注文する。
渡されたソフトクリームは、ハンバーガー同様、普通より2倍はビッグなサイズだった。
よーし、俺も買うぞ!何にすっかな?バニラじゃありきたりだし…
――その時、風に乗ってミカンのにおいがした。
「そーだミカンが良い!ミカン味のソフトくれ!!」
「みかん??…済みません、みかんソフトってのはメニューに無くて…」
「え??でも今においがしたぞ…?」
店員の男が困った顔を見せる。
風に運ばれて来るミカンのにおい。
においを辿って後ろを振り向いた。
「――ナミ…!!」
広場の在る港街、目の前には海が広がってる。
木造船の甲板に似た板じきのデッキの正面には、赤くライトアップされた帆船がけーりゅうされている。
帆船の周りに集まった大勢の人達、どうやら花火は帆船後ろの海から打ち上げるらしい。
花火を待つ人ごみの中に、ナミは独りで立っていた。
ナミの体からは甘酸っぱいミカンのにおいがする。
子供のころから食い物のにおいに敏感な俺は、はぐれた時このにおいを頼りにさがし出した。
「ルフィ…!!」
「…やっと見つけた!!」
後ろから肩をつかんだ瞬間、ナミはビクッと体を震わせた。
目を真ん丸にして驚くナミに、俺は得意満面の笑顔を返す。
――真っ暗な海の向うに光が幾つも瞬いてる。
――なのに船乗りは灯台の光を見分けられる。
――それは灯台が船乗りの方を向いて、光ってるからさ。
「光じゃなくて匂いを辿って来たんでしょ?方向オンチのクセに、鼻は頗る利くんだから…」
「大勢の中から見つけ出した事には違いねェだろ?やっぱナミは俺の灯台だ!俺がヨットマンになるために絶対必要なんだ!」
「悪いけど他を当たって。私程度に地図が読める人間なら、世の中にごまんと居るわ」
「俺は、ナミじゃなくっちゃ嫌なんだ!!!」
突然広場中のイルミネーションが消えた。
集まってた奴らがザワザワ騒ぐ。
英語で開始のアナウンスが流れ、重々しい鐘の音が響いた。
音楽が始まる、海から何本ものレーザー光線が走った。
「俺はナミが言うような『太陽』じゃねェ。独りじゃ輝けねェんだ」
「輝く為には他の人の力が要るって言いたいの?だったら探せばいいわ。私は駄目。ヨットに乗ってるあんたを待ち続けるなんて出来ない。かと言って一緒に乗る事も出来ない…!」
「けど俺にとっての灯台はナミだけだ。ナミが俺の方を向いて、光って導いてくれなきゃ、俺はどこにも行けない…!」
「灯台になんかなれない…!!あんたを一生導いていけるほど私は強くない…!!目の前に居た母さんも助けられなかった!!」
「でも俺の事を助けてくれた!!!」
――パパパパパンッ…!!!!と、夜空に連続して花火が開いてく。
暗い空からキラキラ光って舞い落ちる。
泣いてるナミの目が、鏡になって光を反射した。
「……太陽じゃないって言うなら……ルフィ、あんたは花火よ!パーン!と飛び出して、華々しく散って…」
「…あのな、えんぎの悪い例えすんなよ」
「だって……」
「俺は太陽でも花火でもねェ!ちゃんと陸に戻って来て、おまえと一緒に生活する!海上でずっと暮らしてくつもりはねェんだ!」
次々と打ち上がる花火、雲とけむりがレーザーを反射する。
まるで夜空いっぱいにスクリーンが広がってるみたいだった。
「花火は打ち上げたら空で開く…けど人間を打ち上げたら、元の姿のまま帰って来るんだ!――こんな風にな!!」
「ちょっ!?何する積り!?止め――キャアア…!!!」
腕に抱きしめたナミを、空に向かい放り投げる。
悲鳴を上げるナミの後ろで、花火がドーン!!と打ち上がった。
落ちて来たナミをキャッチしては、また放り投げる。
何べんも何べんもくり返した。
「実験してみろ!俺だって打ち上げたら必ずおまえの元に帰って来るから!!
太陽じゃねェ!!花火でもねェ!!俺はおまえと同じだ!!」
「ご…ごめん!!もう言わないから…!!恥ずかしいから止めて!!お願い――キャアアアア…!!!」
「だったらプロポーズ受けるか!?受けるって約束したら止めてやる!!」
「そ…それは…!!――アアア…もう許してェェ~~!!!」
ナミが泣きながら止めてと叫んでも、俺はタカイタカイをし続けた。
花火と一緒にポーン!ポーン!とナミが打ち上がる。
光る雪を浴びて落ちて来るナミはきれーだと見とれた。
「ナミ!!俺…1人で廻ってて思い知ったんだ!!
独りの俺はすっげー弱いって!!
ナミが居なくなっただけで、自信も何かも失くしちまった!!
だからナミ……俺を助けてくれ…!!!」
腕にキャッチしたナミをしっかり抱きしめる。
ナミが俺の首に腕を回した。
「……私が……あんたを…?」
「…おまえがピンチの時は必ず俺が助ける!!
だからナミ…俺がヨットマンになるのを助けてくれ…!!」
ほほに、涙でぬれたほほが、ぴっとりと触れる。
「…解った……あんたを助けてあげる…!」
いっそう強く首に巻きついた腕。
俺も腕に力をこめてナミを抱いた。
ワアァァ…!!と大きな歓声が上がる。
驚いて空を見たら、ちょうど花火が終わったトコで、金色の光がゆっくりと落ちながら、かき消えてく。
なぜか周りの観客数人が、俺達の方を向いて、はく手をしていた。
2そうのカヌーが光る水面をすべってく。
メガネ橋の下をくぐり、遠ざかってく様子を、橋の上で並んで眺めてた。
「あれが『ナイトカヌー』…観てるとロマンチックそうで、乗りたくなるわね」
「だったら明日乗ろう!俺も乗りてェ!」
河岸にたれ下ってるイルミネーションが、水面に映って瞬いてる。
「光の運河」って名の通り、まるで金色の河が流れてるみたいだった。
「それよりも先ずヨットに乗るんでしょ?私も乗るからフォローお願いね!」
「え?ナミも?乗ってくれんのか!?」
「恐いけど…待つより一緒に乗りたいもの。勇気出して踏み出すわ!」
にっこり笑って俺の両肩につかまる。
顔が近づいて来た。
唇に唇が触れる――やわらかい…甘い息が吹きこんだ。
味わってたのはわずかな時間で、すぐに離れる。
「………キスしてあげたってのに、どうしてそんな不満そうな顔してるの?」
暗くてもナミのほほが赤くなってるのが良く判る。
「だって…彼女からキスされるのって…男のメンツ丸つぶれじゃん!」
最初こそあっけにとられてた俺も、ジワジワと顔が熱くなってくのを感じた。
ナミがけらけらと笑い声を立てる。
白い息をやかんの湯気みたくポッポッポッと吐き出した。
「…待っててもあんたからしてくれないんだもん。一緒に部屋に居ても、押し倒そうともしない。あれこれ不安を抱えて、それでも覚悟を決めて来たってのに…肩透かし食らった気分よ」
「俺だって不安だった…抱きたくても、ナミがどう思ってるのか解らない内は出来なかった」
嫌われて、逃げられるのが恐かった。
「……不安なのはお互い様か」
手袋をはめてない手が、ナミの手袋をはめた手の中に包まれる。
ゆっくりもみほぐされると、温かくて気持ち良い。
のぞいた瞳の中に、金色の光でふちどられた俺が立っている。
肩をゆっくり抱き寄せ、今度こそ俺の方からキスをした。
「…初めて同士、今夜は頑張ろう♪」
唇を離したナミが明るく笑う。
その言葉を聞いた俺は、重要な事を思い出した。
「あ~~~~~~~~~~~~!!!!!」
「…!!――い…いいきなり何よ急に耳元で大声出して…!!!」
「コンドーム!!――買うの忘れた…!!」
ショックで足から力が抜ける。
がっくりとその場にくずれた。
「ば…馬鹿ッ!!阿呆ッ!!どうしてそんな重要な物…の前に、そんな事大声で言って、誰かに聞かれたら恥ずかしいでしょーが…!!!」
「…ナミ、どうすりゃいい?」
我ながら情けない声でたずねた。
ナミがちんつーな表情で「ハァーー……」とため息を吐く。
「…此処、薬局が有るから買えると思う」
「本当か!?やったー!!すぐ買って来る!!」
「…でも、今日はもう営業終ってると思う」
「マジかよ!??チクショー!!!」
いっきいちゆーする俺の正面にナミがかがむ。
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべて言った。
「しょーがないから初Hは明日ねv」
「えええ!!?そりゃねーよナミ!!しよーぜ!!」
「駄目ェー♪させてあげなーい♪」
「いーじゃん付けなくても!!どーせ結婚すんなら出来てもOKだろ!?」
「駄目ったら駄目ェー♪根無し草な男相手に、無謀な真似出来るか!」
「せっかく一緒に泊まるってのに、何もしないなんてつまんねーじゃんか!!」
「うっさい私だってがっかりしてるんだから!!用意しなかったあんたが全部悪いんでしょー…!!」
次の日の早朝5時、ウソップから「セイコーしたか!?」と、メールが届いた。
それを読んだ俺は、「昨夜は予行!今夜が本番!」と返信した。
【終わり】
…ほぼ1年間連載にお付き合い下さった方、有難う御座いました。
お陰様で漸く書き終わる事が出来ました。
ダラダラ書いてた間に、ハウステンボスは大分変わりましたが(汗)、風景は変わらず美しいままです。
是非何時か遊びに来て下さい。
日を改めて連載の後書き的な物をUPする予定、その後ゾロナミ編を性懲りも無く始めようと考えてます。
ルナミ編の後に読むのは複雑かと思いますが、何となく世界が重なってますんで、続けてお楽しみ頂ければ嬉しく思います。
折角なんで(何がだ)ゾロナミ編は、ルナミ編の始まった9/16~開始する予定です。
出来なかったら御免なさい。(汗)
最後に…この回に登場するハンバーガースタンドは「ビッケン・ビッケン」、詳しくはまったりさんのブログを御参考にされて下さい。
一年にわたる、長期連載(?)本当にご苦労様でした。この1年テンボスもワンピ本編も、実に様々起こりましたが、“君と一緒に/ルナミ編”ここに見事完遂されました事
本当にありがとうございます(泣)
この『君と一緒に』は他作品同様に、ワンピのパラレルワールドでありながら、舞台がハウステンボスなので異世界なのに現実感があって、実に不思議な思いに浸らせて頂きました。
特に、最後ら辺のルナミの会話…
ル『…コンドーム忘れた』
ナ『ここには薬局あるから…』
の部分は自分的にはスッゴく現実感(親近感)がありました
本当にありがとうございました
~ゾロナミ編・サンナミ編?も楽しくお待ちしてます。
約1年もかかって漸く終らせる事が出来ましたよ。(汗)
本当に…毎夜の花火は無くなり、場内は有料と無料とで分かれる等、連載していた間にハウステンボスは大きな変化に見舞われました。
その事でどう書こうか悩んだ時期も有りましたが、己の中のハウステンボスを描けば良いと開き直って書き上げました。
それでも奇妙なリアリティを感じて下さったのなら、こちらの意図したものが通じた様で嬉しいかぎり。
このシリーズのテーマ(んな大それたもんじゃないけど)は、「夢と現がごっちゃ混ぜ~♪」なので。(笑)
ルナミ編は終了しても先はまだまだ長いですが(汗)、宜しければこの先もお付き合い下さいませ。
やっと二人が心から笑ってくれたなぁと嬉しくなりました。このシリーズの一旦の終了お疲れ様でした。描ききって下さって嬉しいです。
びょりさんの中の身体に染みついたって変な言い方ですがそういうテンボスの中に大好きなナミ達が行くというのは、読み手側にとってもの凄くリアルで身近で本当に彼らがその世界に息づいている事を感じ取れる作品になるのだなぁと改めて読み直して思いました。
現の上の夢は本気な書き手とリンクするともう一つの現と成るのかもしれませんね。
びょりさんのナミだなと思いましたしルフィもゾロも皆がらしく動いていてとても魅力と勢いに溢れた素敵な作品でした。
最後の章の次を匂わせる展開にこのシリーズが続く事を感じられてこれも楽しかったです。では次回作も楽しみにしてます
ゾロナミ推奨のかるらさんにお読み頂けただけでも大変光栄に思います。(笑)
しかも嬉しい感想まで…書き上げて良かったなぁとしみじみ。
体に染み付くほど遊びに行ってる場所ですからねえ。(笑)
加えて実際にハウステンボスでワンピイベント開催された事も、相乗効果を上げてくれたかなと。(笑)
自分の筆力だけじゃなく、タイムリーな幸運も有りました。
ナミは好き故にか、自分が書く他キャラと比較して、より自己流になってしまいがちです。
原作のナミはもっとサバサバしてて格好良いのに…この辺り自分の限界かもしれない。(汗)
次回ゾロナミ編という事で、かるらさんがどのように読まれるかを考えると、緊張を感じてしまいます。(笑)
続けて楽しんで頂けるよう、頑張って書いて来ますんで、宜しければまたお付き合い下さい。