千の天使がバスケットボールする

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「女性のいない世界」マーラ・ヴィステンドール著

2012-10-04 22:52:32 | Book
先日の中国で吹き荒れた反日デモの映像を観ていると、これは政治的なデモというよりも単なる若者の暴動ではないかと思えてくる。実際、暴れまくった彼らは*注)「第2代農民工」とよばれる都市戸籍のない出稼ぎ労働者の第二世代の若者が、欲求不満の捌け口に抗日をもちだした側面がある。この事件の背景は、意外でもなく本書の内容にも結びついている。

公立の小学校に入学した時、殆どのクラスでは男児が1~2人程度多かったはずだ。自然な出生時の男女比は、100人の女子につき男子は105人ほど生まれる。ちなみに日本では、100人の女子に対して106人ほど男子が生まれている。最近のアンケートによると、こどもがひとりだけだったら、女の子派の方が男の子がいい派よりちょっぴり多いそうだ。それは兎も角、中国では出生性比は113と男児が多く生まれている。中国のひとりっ子政策がもたらした不自然さは、おそらく誰もが言葉に表しにくいことを想像するだろう。しかし、事情は中国のみならず、韓国、シンガポール、インド、とひろがり、一国の中でもわずかにみえる性比だが、総計していくと1億6000万人もの女性が消えている計算になる。1990年、ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センは、「いなくなった1億人以上の女性たち」というタイトルの小論文を発表し、経済発展はしばしば女性の生存率悪化を伴うと警告している。

『サイエンス』誌の記者である著者は、パリ人口開発研究所のクリストフ・ギルモトの研究を足がかりに、複雑にいりくんだ不自然な出生性比がうまれた原因とその現象を丹念に追っていく。日本人としては驚くような事実が書かれているが、欧米が主導して資金を提供してアジア各国に人工抑制計画を実施させていたことにはまさに衝撃を受ける。考えれば、人類は誕生して以来、飢えとの戦いだった。それは20世紀に入っても変わらず、人口問題の研究者にとっては、男女の出生性比などよりも、幾何級数的に増加する人口の過剰に食糧の供給が追いつかず、貧困が発生することが何よりも懸念事項であり、研究目的でもあり、男性が多いということは一部のローカルな問題として関心が集まることがなかった。

しかし、女性のいない世界は他国のことではなく、世界的な問題である。
女性が少なければ、女性の地位向上につながりそうであるが、現実はその正反対である。成人したが結婚できない男性が増え、人口統計学者は彼らを「余剰男性」と呼ぶ。売れ残った彼らは、性目的の人身売買、ネットでの花嫁売買など、より貧しい地域からブローカーを通じて女性を仕入れてくる。本人の意志や希望だったらそれでも幸福になるが、誘拐されて強制的に売春をさせられる少女も多い。女性は生涯のパートナーではなく、妻として母として、家事をする労働者、SEXの相手として求められる。その一方で、米国では、裕福な人を対象に着床前遺伝子診断でスクリーングにかけ、特定な疾患のないお好みの性別の胚を選択できる病院も登場している。

中国の余剰男性が戦争ゲームに熱狂する姿や、憤青となって爆発する様はこの異常な出生性比がもたらしたとする著者の考えを否定できない。ひずみの波は、いつか世界に広まっていく。尚、本書は2012年度のピュリッツアー賞のファイナリストにも選ばれている。

*注)18歳から25歳までの年齢で、学歴や希望職種などの物質面や精神的な欲求は高いが忍耐力は低い“三高一低”が特徴


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