千の天使がバスケットボールする

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「ハケンの品格」を問う

2007-01-14 22:55:25 | Nonsense
派遣3千人超を契約社員に  明治安田、正社員登用も

 明治安田生命保険は4日、人材サービス会社からの派遣職員約3200人を1日付で直接雇用の契約社員に切り替えたと発表した。大手保険会社が派遣職員を全面的に契約社員にするのは初めて。このうち一部は、選考試験などによって正社員に登用する考えだ。
同社によると、契約社員になったのは、子会社の「明治安田スタッフサービス」からの派遣職員。保険金の請求書の作成や顧客との電話応対などを担当していた。契約社員になると、有給休暇が増えるなど福利厚生面が充実するという。
 (07/1/4 岩手日報)

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職場でちょっとした話題になっているのが、テレビ番組「ハケンの品格」。いつもテレビ番組や芸能人の噂話で盛り上がる彼女たちにとっても、確かにこれはみのがせないない番組だろう。篠原涼子演ずる時給3000円!の特A級のスーパー派遣が、大手食品会社「㈱S&A」のたちあげたばかりのマーケティング事業課に派遣されて大活躍するというストーリーのようだ。同じグループ会社の人材派遣会社から派遣されている彼女たちは、異動を希望しない限り本体である派遣先が変更されることはないが、同じ”ハケン”という身分から関心を示すのも当然だろう。

「ハケンの品格」は、働く人々を応援する番組というのがうたい文句である。スポンサーがまさに人材派遣会社だったところから、この応援したい人々というのは、派遣社員のことだろうか。20年前に派遣業法が施行されてから、現在派遣社員として働く人々は300万人に登るという。派遣料金は平均1900円程度だが、本人の時給にすれば1500円ぐらいが相場である。番組の主人公・大前春子のように3ヶ月ごとに労働と休暇と使い分け、3000円の時給で働く派遣社員はめったにいない。職種やスキルによって事情も異なるが、殆どの派遣社員は、時給×7時間×20日勤務で20万円程度から税金・社会保険・健康保険料などひかれ、場合によっては交通費も自前、勿論賞与はなし。この収入で、自活するのはなかなか厳しいという話も聞いた。

かっては、派遣社員とはおもに女性が残業しないで自分の趣味や生きがいに時間と労力をかけたいということでハケンの道を選び、企業にとっても人件費削減という労使相方のメリット面が強調されていたような気がする。林真理子の丸の内の商社を舞台にした小説でも、正社員はシゴトの責任と重さで性格もきつくなり、控えめで気立てもよくそつなくシゴトをこなす”ハケンの子”ばかりが、派遣先の男性と職場結婚にゴールインするという話があった。(一方「ハケンの品格」では、部下にハケンにつかまらないように注意する男性社員・東海林武の会話があった。ここには、正社員よりハケンは格下という正社員側の意識があらわれている。但し、この男性社員のハケンを差別する心情が、後に語られるのだが。)これが事実がどうかわからないが、ハケン、正社員、それぞれの立場で働くことの厳しさはある。

春子はとにかくオールマイティにデキルのである。しかしパソコンのスキルは、誰でも業務をこなすうちに身につけられるだろう。ところが非正社員という立場では、業務の根幹をなす仕事や企画を依頼されるということはないのでは。専門的なスキルをもっていたらそれをいかせても、所詮、代替えのきく狭い範囲での仕事が殆どでさほど能力を開発するところまでには至らない。春子のデキルは、起業するわけでもない会社で雇用される立場では派遣という身分では限界があるというのが私の感想だ。先日の勤務先の上司との面談でも伝えたのだが、仕事は人を成長させるというのが私の考えだ。業務を限定されているハケンが、能力をのばす機会が少ないというのも現実ではないだろうか。だから時給=自分の単価をあげるのは、実際なかなか難しい。

時給3000円で働く春子の給与はハケンの中では驚くばかりの高給だが、賞与や退職金がないことから長く働けば働くほど生涯賃金は逓減していく。それに30歳そこそこだったらハケン先もあるが、35歳を過ぎると一般事務の派遣は先細りをするそうだ。年齢の差別とは、また違う。

春子を嫌う東海林武(大泉洋)が、春子の上司にあたるマーケティング課主任・里中賢介(小泉孝太郎)にしみじむ語る場面がある。

「右も左も何にもわからない俺たち新人に電話のとりかたから教えてくれたおばちゃん、残業すると差し入れしてくれたおじさん、み~んなリストラされちゃったよな。後からくるのは、あかの他人の派遣ばかり。」

ここで次々と派遣社員の契約を打ち切る敵役の正社員の心情が吐露される。彼からすれば、仕事は今ひとつだったが彼らを育て、見守ってくれた同じ釜の飯を食べた家族のような仲間の机を奪ったのが派遣社員なのである。実際は、そんな人の良い労働者を斬ったのはカイシャ側なのだが、その怒りが派遣社員に向かう感情もわからなくもない。けれどもなんとかチームの雰囲気を盛り上げようとする里中に比較して、正社員がカイシャにとって家族なら、ハケンはお屋敷に雇われた使用人だという現実も”あかの他人”というこの言葉にあらわれている。
なんともいえず、せつなくなるドラマだ。(この項、続く)