千の天使がバスケットボールする

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エネスコに聴くバッハ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ集」

2005-08-12 23:44:51 | Classic
J・S・バッハの「無伴奏ヴァイオリンソナタ集」は、世界中のありとあらゆるジャンルのすべての曲のなかで、最高峰であり究極の音楽だと私は思っている。というか断言しているのだが。芸術に順位はつけられないことは充分に承知しているが、バッハのこれらの曲はヴァイオリンという楽器の魅力と音楽の宇宙観が凝縮されていると言ってもよい。CD、生演奏と多くのヴァイオリニストの演奏を聴いてきたが、演奏家としては”この人!”と恋に落ちる方にはいまだ出会っていない。

さて、そんなこだわりのバッハをジュルジュ・エネスコが演奏しているCDがあると「ETUDE」のromaniさまより教えていただき、早速翌日、台風到来で5時にベルダッシュできた日に、山野楽器で無事購入。ほぼ毎日帰宅後、料理をしながら聴いている。

エネスコ(Georges ENESCU )は1881年にルーマニアで生まれ、1955年にパリにて没す。
幼少の頃より、その音楽性を開花させる天才にありがちな早熟性を発揮し、7歳でウィーン楽友協会音楽学校に入学し8歳でヴィオリニストとしてデビュー。1895年にパリに渡り、パリ音楽院で作曲と和声法を学び、その後は亡くなる直前のNY演奏会に至るまで、ヴァイオリン演奏会だけでなく、作曲家、指揮者としても活躍する。今年は没後半世紀にあたる。といっても、格別なイベントはないようだが。

5年くらい前、BSクラシックでエネスコと同時代のヴァイオリニストのジャック・ティボーの演奏を観たことがある。その番組で当時の演奏スタイルは、今と違って生真面目でしなやかさに欠けるという印象があったが、やはりエネスコのバッハも地味ともいえる。現代の小数点以下の残響音にこだわるハイテクなコンサートホールでの響き、編集して音のひとつひとつを磨きぬいたCDでの演奏になれてしまうと、エネスコのような演奏は、アラがめだつが逆になんともいえない懐かしさがこみあげてくる。最初は、音のくもり(録音状況の悪さからくるのだろうが)や、音程の悪さ(特にパルティータ3番、プレリュードのでだし)が気になった。しかし演奏家の人間性という不思議な生々しさが、バッハの音楽にからみあってうかびあがってくるからおもしろい。厳しさやメニューインの演奏のような神々しい天国への階段を感じる演奏もあるが、ここにはエネスコの恵まれた音楽人生のおだやかさとぬくもりがある。(エネスコと完全に同時代を共有していない者としての、ヴァイオリンという愛すべき楽器へのオマージュが、そんな鑑賞と感傷を与えているのかもしれないが。)にも関わらず、演奏家の真価を問われるバッハの命ともいえる高貴さは失っていない。

そんなことを考え、感じながら今夜は雨の音とともに聴く、エネスコのバッハだった。
*私が聴いているのは、IDIS盤でなくLa Voce=Tone Rede盤・・・らしい。