きた産業のスローなブログ

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フランス・ワイン醸造所訪問記:〈シャンパーニュ編〉

2014年12月22日 09時07分51秒 | Weblog

前回のヴィニテック展示会の次は、シャンパーニュ訪問記です。
ヴィニテックの開催されていたボルドーからフランスの新幹線TGVに乗り4時間半、650kmほど北東に位置するシャンパーニュ地方へ移動し、伝統的なびん内二次発酵スパークリングワインの生産者を訪問しました。日本でも多くのワイナリー様がびん内二次発酵のスパークリングワインに挑戦されています。これから始められるところもあれば、製造量の拡大を検討されているところもあり、その本場であるシャンパーニュでの製造現場には皆さん関心が高いところです。



<シャルル・ドゥ・カサノヴ>
まずは世界遺産のノートルダム大聖堂でも有名なシャンパーニュの中心都市ランス。駅前すぐにあるシャルル・ドゥ・カサノヴというメーカーにお邪魔しました。1811年Avize村で創業されたこのメーカーは、以降何度かの買収を経て、ランスに発酵から熟成、ルミュアージまでを行なう醸造所を持つに至りました。年産300万本程度で、デゴルジュマン以降の工程はグループ会社のあるエペルネで行なうとのこと。



元はリキュール会社だったという広い場内には角型の発酵タンクが並んでいます。外観はコンクリートタンクですが、中身はステンレスタンクだそうで、モンターニュ・ド・ランス地方らしく、ピノノワールをふんだんに使っています。ロゼは赤ワインであるコトー・シャンプノワとのブレンドで造っているとのこと。



地下のセラーにはかなり古いジロパレットが並んでいました。一般コースでの見学でしたが、最近ではルミュアージュを機械で行なっていることを普通に見せるのが一般的になってきているようですね。



<ニコラ・フイヤット>
ランスから25kmほど南に行くと、シャンパーニュ生産のもう一つの中心都市エペルネがあります。そこからさらに少し南にいったChouilly村に、このメーカーはあります。最近は日本でも宣伝に力を入れていますね。



このメーカーはCM(コーペラティヴ・ドゥ・マニピュラン)と呼ばれる協同組合が集まってできたメーカーで、82の協同組合、シャンパーニュ域内で5000以上のブドウ生産者(全部で15000ほどといわれる生産者のうち実に1/3!)と関係し、彼らのためにシャンパーニュを造っています。年間3000万本を生産する大手メーカーであり、1970年設立と歴史の浅いメーカーながらその分最新式の自動製造機器を導入し、そのすべてを訪問者に公開しています。



まずは入ってすぐにある20000bphの高速自動ティラージュラインに目を奪われ、整然と並ぶステンレス発酵タンク、巨大なアッサンブラージュタンク等に圧倒されます。圧巻は広大な室内にずらりと並ぶジロパレットの列で、他のメーカーではなかなかお目にかかることのできない光景です。







プールのようなネックフリーザーから始まる自動ラインでは、デゴルジュマン、ドザージュ、コルク打栓、ワイヤー、キャップシュール、そしてラベルと、複雑な工程がいとも簡単に進められていきます。地下のセラーに一区画10万本以上詰まれたワインは壮観。現在のシャンパーニュ大手メーカーの自動化レベルを体感できる視察となりました。



<オートレオー>
エペルネから北に少し走ると、かの有名なドン・ペリニョンさんが修行をされていた修道院で知られるオーヴィエール村があります。このあたりは結構急な斜面にブドウ畑が広がるエリアですが、その隣のシャンピヨン村にあるのが次の醸造所オートレオーです。



規模的には小さいですが、自社畑のブドウ以外にもブドウやワインを買い入れて製造するネゴシアン・マニピュラン。注目すべきはジロパレットでのルミュアージュからあとの自動ラインで、日本のワイナリー様にも参考になる規模。シャンパーニュ独特の機器が実際に動いている様子をじっくり見せてもらうことができました。







<ボランジェ>

最後の醸造所は、ピノノワールの特級畑で有名なアイ村にあるボランジェ。



大手メーカーの一つですが、特にフランス人にとってこのメーカーは特別なシャンパーニュメゾンとして見られているようで、複数の人から「エクセプショナル」との表現を聞きました。というのも、他のシャンパーニュメゾンではお目にかかることにできないことがいくつもあるからで、その一つがプレフィロキセラのブドウの栽培。醸造所すぐ近くに、クロと呼ばれる塀で囲われたブドウ畑があり、まさにその塀のおかげで20世紀初頭にシャンパーニュでも壊滅的な被害をもたらしたフィロキセラ禍を免れ、オリジナルのブドウが今に伝えられています。見るからにミミズがたくさんいそうな畑では、伸びた枝をそのまま土に埋めて根付かせる特殊な方法でこのオリジナルのブドウが大切に維持され、これらのブドウからは毎年ごくわずか、特別なキュヴェ(Vieilles Vignes Françaises)が生み出されます。



ワインはステンレスタンクやオーク樽で発酵・熟成されますが、オーク樽の古いものを修繕して使い、そのための樽工房を自社内に持っています。シャンパーニュ在住の唯一の樽職人が、古来の技術を次世代に残すべく頑張っているとのこと。



また、リザーブワインの保管を60万本にも及ぶマグナムボトルにシャンパンコルクを打った状態で行なうのも非常にまれな方法。さらに、一部の製品のびん内二次発酵時にもシャンパンコルクとアグラフで栓をして、昔ながらの手作業のルミュアージとデゴルジュマンをしているそうです。このような手工業的な側面を色濃く残しながら高品質の製品を生み出していることで、シャンパーニュメゾンとしては初めてフランスの「Entreprise du Patrimoine Vivant」(EPV、人間国宝の企業版のようなものでしょうか)の認定を受けています。





基本的には一般ツーリスト向けの公開は行なっていないそうで、今回は弊社取引先のOeno Concept社Poisot氏の紹介で実現しました。マグナムボトルからのテイスティングも含め、貴重な経験になりました。



今回のシャンパーニュでは、街中に醸造所を構える中堅メーカー、最先端の高速自動ラインを持つ大手メーカー、日本のワイナリー様でもイメージしやすい比較的小規模なメーカー、大手ながら手工業的な部分を持つメーカーと、限られた時間で多様な醸造所を回ることができました。来るたびに感じることですが、シャンパーニュではブドウ農家、シャンパーニュメーカー、機械メーカー、資材メーカー、その他シャンパーニュに関係する人々が結束したコミュニティを築いていて、共に生きているという印象を強く持ちます。内部では熾烈な競争や反目などはもちろんあるのでしょうが、業界内の人間はみんな知り合いかのような、密接なつながりを感じさせられます。それがときに閉鎖的と取られる側面もありますが、シャンパーニュというブランドを支える大きな一因なのだと思いますし、日本の酒類業界においても参考にできる点があるように思います。


渡邊拓也(企画開発グループ)


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