【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

米沢冨美子『まず歩きだそう-女性物理学者として生きる』岩波ジュニア新書、2009年

2010-08-12 00:10:39 | エッセイ/手記/日記/手紙/対談
            
          


 科学の世界で女性研究者は少ないし、その道にろいろな障害があり、その地位は正当に評価されていません。そのような環境のなかで物性物理の領域で記念碑的な業績を生み出してきた著者が若い読者に語りかけています。

 本書の最後で、著者は次のメッセージを若い人に贈っています。①自分の能力に限界を引かない、②まず歩きだす、③めげない、④優先順位をつける、⑤集中力で勝負する、です。

 自らの研究歴、人生経験にもとづくメッセージなので、説得力があります。それらのディテールは本書全体で具体的に示されています。

 執筆の動機は3つあるそうです。第一は物理の楽しさを伝えたいということ、第二は若い女性に自然科学者となるためのローモデルを提供すること、第三は個人的に自身の歩んできた道を振り返り、整理するということだと言っています。

 著者は子どもの頃から宇宙の果てに疑問をもったり、水と油を包括的捉えるものを考えたり、疑問多き子どもだったようです。数学が好きで、頭もよかったらしいです。

 大学生以降は物理の世界へまっしぐら。修士論文のテーマとして「不規則系の電子状態」を与えられ、その後「コヒーレント・ポテンシャル近似」で一躍有名となり、1984年には「非結晶物質基礎物性の理論的研究」で猿橋賞を受賞しました。30歳代にはアモルファス物質の研究に、40歳代にはガラス転移の研究に、さらに50歳代には「複雑液体における協力現象」の研究に取り組みました。

 新しい常識を覆す研究成果を次々に発表し、認められました。他方、病気との闘いも壮絶で、それらを全て克服して、物理学の世界に一石を投じました。

 女性初の日本物理学会会長にも就任した他、日本学術会議会員にも選ばれています。まさに研究者としての人生が凝縮された一冊です。

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