【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

岡崎武志『上京する文学』新日本出版社、2012年

2012-12-15 23:19:17 | 文学

         

   わたしは東京生まれだが、父の仕事の関係で、生後数カ月で札幌市へ。以来、札幌市で幼少、青年期を過ごし、最初の就職もそこだった。子どもの頃、数回上京したが、汽車で24時間以上。大変な道のりで、東京は空間的にも、心理的にも遠かった。しかし、そこでは大好きな大相撲、プロ野球が行われ、正月には雪が積もっていない。子どもの頃のわたしに、東京への憧れや妬ましさが全くなかった、といえばウソになる。


   本書はわたしよりもはるかに強く、東京に関心をもち、実際に上京し、そこで作品を書いた作家たちの志をたどってまとめた興味深いもの。登場するのは、斎藤茂吉(山形)、山本有三(栃木)、石川啄木(岩手)、夏目漱石、山本周五郎(山梨)、菊池寛(香川)、室生犀星(石川)、江戸川乱歩(三重)、宮沢賢治(岩手)、川端康成(大阪)、林芙美子(山口)、太宰治(青森)、向田邦子、五木寛之(福岡)、井上ひさし(山形)、松本清張(福岡)、寺山修司(青森)、村上春樹(京都)[漱石は小説「三四郎」の主人公の上京について書かれている。向田は東京出身であるが、子どもの頃転勤で各地を回り、東京がふるさとであったと同時に、憧れの対象だった]。

   彼らが、(当時)いかに東京に憧れ、そこで暮らすことを夢見たか。想像力を強く働かせないとわからないが、電車や飛行機で簡単に行くことができる今とは比較にならないことだけは確かである。彼らは東京の何に興味をもち、驚いたのか、それがよくわかる。

   上野駅のまばゆさに驚いた茂吉(故郷の夜は漆黒の闇)、停車場、新聞社などの都会の装置(啄木)、大きな図書館(菊池寛)、「ふるさと」への想い(犀星)、軟式野球ボール(ひさし)、早稲田大学の寮(春樹)などなど。

   彼らの憧れと志の先にあったのは、近代の文化装置、銀座の匂い、妙なよそよそしさとその対極にある自由、ある種のいかがわしさ、シュールであるが退廃的でもある時代の空気だった。日本の近代文学の黎明期に、東京に憧れた文学者が果たした役割は大きく、彼らの作品はまぎれもなく骨太だった。


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