【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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駒尺喜美『紫式部のメッセージ』朝日新聞社、1991年

2012-07-10 00:25:59 | 文学

駒尺喜美『紫式部のメッセージ』朝日新聞社、1991年
           

 冒頭に著者が紫式部に宛てた「手紙」があり、ここに著者の問題意識が示されている。

 すなわち、「源氏物語」が男のための恋の手引書と勘違いされていますが、これは不幸なことである。あなたが書こうとしたのはそういうことではなかったはず。結婚は女性にとって不幸なこと、女性の幸せは不幸と抱き合わせであること、理想の男性である光源氏を登場させて男性の圧倒的優位のもとにある男女関係の力学を示したこと、宇治十帖はそういった男女関係の必然の帰結であること、あなたはそれを物語ったのですね、と。

 著者によれば、紫式部は男性を全く信用していず、女性との関係を大切にしていた、「源氏物語」の主人公は光源氏ではなく女性たちである、源氏が愛した女性のなかで葵の上、六条の御息所は年上でもあり、落ち着けない、あまり心休まらない女性。義母の藤壺に憧れ、関係を結ぶ、中流階級の女性を意味で見下しつつ、その階級の典型である空蝉、夕顔とはしたいように(空蝉には逃げられるが・・)関係した。

 紫の上(若紫)は玉の輿にのったようにうらやまれるが、その実、嫉妬と哀しみのなかで痩せ、衰弱し、死んでいく。強引で、思いやりのない源氏を、式部はこの物語のなかで年配の女性に語らせ、地の文で自らの苦言を呈している。

 あらゆる点で男性中心の権力構造をもった社会、そのなかでの男女の関係、家族のあり方に紫式部は何度、口惜しい想いをしただろう。そのことを直接に書いたのであればその物語は歴史に残らなかったであろう。男性中心社会でも物語が読みつがれ、生き残り葬られないよう、光源氏という理想の男性を描く工夫を凝らしながら、しかし当時の社会では結婚は女性にとって意味がなく(今でもそうかもしれない、結婚は女性にとってわりにあわない)、それは男性の従属物になることであり、そのことで悩み、苦しみ、衰弱し、亡くなり、出家していった不本意な女性はたくさんいる。彼女立ちに想いを寄せて、式部は「源氏物語」を書いたのである、と。

 源氏の死後の話である宇治十帖は、式部がより直接的に彼女の思いを綴った部分である、薫、匂宮は悪い人ではないがやはり男女関係では思慮のたりない男性であって、大君、中の君、浮舟の人生に象徴されるように、男女は本質的に理解しあえず、女性は構造的な男性社会のなかで理不尽な生と性を余儀なくされている。

 著者の読み解きは、誠に明快。


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