【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

長辻象平『忠臣蔵釣客伝』講談社、2003年

2012-08-24 01:05:52 | 歴史

            

   赤穂浪士討ち入り事件は、吉良上野介の屋敷に大石内蔵助を含め47士が赤穂藩主君の浅野内匠頭の仇を討つために襲撃した騒動であるが、津軽采女は上野介を義父としていた(上野介の娘あぐりと成婚していた)ので、この事件とも深く関わった。


   この小説は、津軽采女の視点から、赤穂浪士討ち入り事件およびその前後の江戸での権力確執(柳沢芳明と僧正隆光)の模様を描いたもの。刀剣にまつわる数奇な命運が随所で顔を出し、興味つきない。

   後者については、読み始めてすぐのところで、上野介が将軍から下賜された脇差の描写が細かいことに気付いたのだが、読み進むうちにその脇差と浅野内匠頭が勅使供応に使ったひと振りの刀との関係が説かれ、この小説に流れるひとつの筋になっていることがわかった、という次第である。

   上記の脇差しの描写は、こうなっている。「錦繍の刀袋から出てきた脇差は、印籠刻みの黒の蝋色鞘。ふっくらとした栗形には金の縁金の鵐目が嵌め込まれている。白糸で巻かれた柄には金無垢の獅子の目貫が使われている。鐔は深みのある黒の鳥金魚子地(しゃくどうななこじ)で、金象嵌の牡丹と獅子が山吹色に輝いている。鞘の両面に収められている小柄と笄も目貫と揃いの意匠であり、金の高彫りの獅子と鳥金魚子地の対比が美しい。いわゆる三所物である。将軍家の御用をつとめる後藤家の作であろう」(p.23)。

   このように刀の意匠を細かく記述した小説に出会ったことがないが、振り返れば、刀に対する著者の深い思い入れがすでにここにでているのである。次いで、采女はやはり吉良邸で人振りの別の脇差しを拝聴する場面がある。浅野内匠頭による勅使饗応の追加の礼物で、銘は村正入魂の刀であった。上野介のもちには、先の将軍から賜った脇差とともに、内匠頭から正宗銘の脇差、それも村正の由来を隠した脇差のあわせてふた振りの雌雄の吹毛剣がもちこまれたというわけである。このふた振りの吹毛剣がそろったあたりから、伝説に沿う形で殿中の刃傷事件が起こり、遺臣による仇打ち騒動が進んでいくと言う筋立てである。

  この小説の前に、夢枕獏の『大江戸釣客伝』を読んでいたのだが、いたるところで、異なった史実に遭遇して面喰った。作家の想像力でつくりあげた世界が双方にかなりあるようである。また、仇討事件そのものも通説とかなり異なる。仰天するようなことも書かれていた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿