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表題の「白愁のとき」は季節に色をあてる中国の陰陽五行説(青春、朱夏、白秋、玄冬)から発想して、主人公・恵門潤一郎が自ら人生の白愁にさしかかっていると述懐したことに由来しています。
主人公は52歳の著名な造園設計家。こなす仕事は多くあり、「エメラルド開発」からは赤城山麓のリゾート・テーマ・パーク・プロジェクトの依頼を受けていました(その後、「エメラルド」は倒産)。ところが人生の真っ盛りにあった彼に記憶の部分的喪失という症状があらわれ、診断するとアルツハイマー病の初期症状の疑いがかかりました(「神の残酷な冗談」[下p.9])。
告知されたことによる恐怖と、残りの人生を如何に生きていくかとの葛藤、それが本書のテーマです。
最後は、主人公が子どもの頃、疎開した福岡県怙土町で、自分の意思と想像力をたよりに時間を気にすることなく、公園造成へ取り組む意欲を漲らせて、終わります。
桐乃の愛と助言が彼を立ち直らせたのでした。痴呆症から逝った叔母の思い出、「精神余命」の自覚、家族との葛藤、友人の医師とのやりとり、美人デザイナー桐乃との出会いとロマンスが挿入され、重いテーマですが、それらが混然一体となって心地よく流れる小説になっています。
アルツハイマー関係、造園関係の入念な下調べの成果が感じられます。
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