【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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村松友視「時代屋の女房」角川書店、1982年

2017-12-22 20:32:47 | 小説

       

 昨日、紹介した映画「時代屋の女房」の原作を読む。村松友視の作品である。それほど長い小説ではない。短編といってもいいほどである。


 小説をもとにした映画はよく原作に忠実かどうかがひとつの見方の基準になるが、その観点からみると骨董品屋の「時代屋」の様子は見事に再現されている。場所の設定はほぼ小説に書かれているとおりで、その記述の映像化に感心した。時代屋の一階の雑然と並んだ商品の様子、二階が主人である安さんの寝床であり、住処であるが、その周りにも商品が並んでいる様子もそのまま映像化されている。

 主人公の真弓が並んだ骨董品のなかから「涙壺」をとりあげている様子もそのままで、夏目雅子の演技を彷彿させる。真弓が連れ込んだノラ猫のアブサンのことは丁寧に書き込まれてる。映像ではネコは演技をしないので印象が薄いが、小説では文字の力で描写は細かい。

 安さんがなぜこの骨董屋を始めたのか、またどのように大井町のその場所で店を開いたのかは、映画ではよくわからなかったが、小説では詳しく説明されている。父との葛藤もあって、安さん子どもの頃から好きだったその商売を始めたということである。最初は消極的姿勢でいわば食べていくために始めた骨董屋なのだが、真弓があらわれて姿勢が変わることも小説ではわかりやすい。ついで言えば、映画では真弓が安さんと結婚しているのか、単に同棲しているのかは不明で、タイトルが「時代屋の女房」なので結婚しているらしいと判断したのだが、小説では結婚しているときちんと書かれてる。


 安さんの周囲の人間関係も、映画は割と原作のとおりである。ただ夏目雅子が二役で演じた美郷の役割は小説では小さい。映画のほうがしっかり登場している感がある。関連して盛岡で展開される旅館での騒動は小説にはない。この部分、すなわち映画の後半部分は、脚本段階での創作と思われる。他にも、安さんの伯母にあたる人物は小説では出てこない。

 この本には、他に短編「泪橋」が収録されている。


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