【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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ロマン・ローラン/豊島与志雄訳『ジャン・クリストフ』岩波文庫

2016-09-17 11:40:16 | 小説

          

 3か月ほどかかって「ジャン・クリストフ」全巻を読了しました。オリジナルは全10巻で、現行岩波文庫版では4冊に納められています。


 構成は、以下のとおりです。
 「第1章:暁」「第2章:朝」「第3章:青年」「第4章:反抗」「第5章:広場の市」「第6章:アントワネット」「第7章:家の中」「第8章:女友達」「第9章:燃える茨」「第10章:新しい日」

 クリストフが生まれてから亡くなるまでの波乱万丈の生涯が描かれています。ローランがこの小説で書きたかったことは、ひとことで言えば、西欧の当時の音楽世界にはびこっていた因習に対する批判であったと思います。

 ドイツのライン河のほとりで、宮廷音楽家の長男として生まれたクリストフは、父から厳しいピアノの手ほどきを受けます。才能もあり、次第に音楽家として大成しますが、生活は苦しく、もって生まれた強い個性のために敵が多く、苦しい生活が続きます。とくに音楽の世界、文明の世界に淀んでいた党派性、汚い批評のやりとりに批判を行い、その結果クリストフはその世界から締め出され、寂寞感にさいなまれます。しかし、生涯の親友オリヴィエや心寄せる女性もたくさん出てきて、このあたりには読者は癒されます。

  この小説が書かれた頃のことを念頭に置きながら読まないと、とても続けられません。映画もテレビもなかった時代、こういう長編小説は読み手にとって、大きな楽しみだったことと思われます。しかし、現代では、このようにとてつもなく長い小説は受け入れられないのではないでしょうか。


 事実、読んでいて退屈なところもたくさんありました。また、わかりずらいところもありました。とくにクリストフの当時の西洋の音楽的雰囲気に対する不満、批判、あるいはドイツに生まれたクリストフの母国ドイツやフランスの文化に対する感じ方は、すぐにはすとんと胸におちません。この小説は、若いころに読んだほうがよいという意見もしばしば耳にしますが、現代の高校生、大学生が読みとおすのは大変だと思いました。


 小説の構成としてみても、違和感のあるところは多かったです。ローランはどれだけ時間をかけて書き上げたのでしょうか。推敲などにどれだけ時間をさいたのでしょうか。内容はドラマティックなのですが、書き方が感情を煽るようなところは少なく、たんたんと、それもかなり抽象的な思惟の描写が長く続く箇所がめだちます。


 この小説はベートーヴェンの生涯が念頭にあると書かれたものがあります。クリストフは作曲家ですし、ローランに「ベートーヴェンの生涯」という有名な作品がありますから、クリストフの生き方、思想がベートーヴェンのそれとオーバーラップしているところがあるのかもしれませんが、素人のわたしにはそこまで読みこむ力がありません。

 ただ、子どもの頃のクリストフの家にベートーヴェンの絵がかけてあったり、クリストフがベートーヴェンよりも後期のブラームスの音楽にたいして感想をもたったりしている記述はあるので、クリストフがベートーヴェン自身ではありえません。


 長編小説に挑戦しようと思い立って3冊目が終わりました。トーマス・マン「ブデンブローグ家に人々」、谷崎潤一郎「細雪」、そして今回のロマン・ローラン「ジャン・クリストフ」です。次はヘミングウェイにしようと思っています。そのうち、ダンテの「神曲」を目指しています。

 


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