昭和初期に多くの童謡をよんだ金子みすゞの名は、矢崎節夫氏が彼女の手帖を「発掘」、紹介して以来、一気にひろがった。故郷には記念館があり、在りし日のみすゞの面影を伝えている。
この本は、そのみすゞと弟の正祐との関係をフィクションで仕立てたもの。フィクションと言っても素材は、正祐が遺した膨大な日記とみすゞと正祐との往復書簡なので、リアルである。視点は主として正祐からみた、当時の彼自身の生活と姉弟関係である。
みすゞが詩の投稿で島田忠夫と競っていたこと、西条八十との関係(一度会っている)、自分の500余の詩を推敲しながら3部清書していたこと、出版を願っていたことなどを知ることができた。
また正祐は正祐で個性的な人物で、才能もあり、数度、東京に出て古川ロッパ、菊池寛らと関係をもっていたことなども新しい知見で眼のうろこが落ちた。
著者の松本侑子さんの筆は達者で、読ませる本にできあがっている。構成は次のとおり。
・序章「電報」
・第一章「カチューシャの唄」中山晋平
・第二章「赤い鳥」鈴木三重吉
・第三章「かなりあ」西条八十
・第四章「片恋」北原白秋
・第五章「金の鈴」上山正祐
・第六章「芝居小屋」金子みすゞ
・第七章 関東大震災
・第八章「大漁」金子みすゞ
・第九章「沼」島田忠夫
・第十章 結婚
・第十一章 『ジャン・クリストフ』ロマン・ロラン
・第十二章 芸妓花千代
・第十三章「映画時代」古川緑波
・第十四章「東京行進曲」菊池寛
・第十五章「鯨法会」金子みすゞ
・第十六章『復活』トルストイ
・終章 朝日丸
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