【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

丸谷才一『女ざかり』文藝春秋、1995年

2012-12-26 10:47:14 | 小説

            

  長編小説というが異色。筋はある。簡単にいえば女性論説記者の起こした筆禍事件とその顛末。

  大手新聞社「新日報社」の記者南弓子(45歳)は論説部に所属していたが、彼女が書いた記事、すなわち元首相が臨んだ水子供養塔除幕式で妊娠中絶と産児制限に対して放った暴言への批判記事が思わぬ波紋をよび、得体のしれない何者かの逆鱗に触れる。新聞社はこの騒ぎを彼女の配置転換でかわそうとするが、彼女はそれに抵抗する。彼女は見えない力の原因究明にたちあがるが、そこからおぼろげにわかったことは新日報社が新社屋用地払下げで政府与党に借りがあり、このことが事件と彼女の配置転換の背景にあるということだった。政府与党は選挙である宗教団体の支援を受けていて、この団体は水子供養で大きな利益を享受していた。
  しかもこの団体自体は、内部に与党幹事長を巻き込む組織的抗争をかかえていた。事情に感づいた弓子は、一計を案ずる。元女優で伯母の雅子はかつて首相の田丸と関係があったことを盾に事態解決の交渉へ、弓子の愛人で哲学者の豊崎が妻の友人の紹介で幹事長と交渉へ、弓子の娘千枝が政府首脳に影響力をもつ書家に交渉の橋渡しを依頼に。
 それぞれのルートを通じての交渉過程が興味津々に描かれる。事態は落着の方向にむかうが、弓子は記者をやめる決意をする。話の大筋は以上のようであるが、この小説はその筋よりもプロセスに重きがあり、そこでは日本に古くからある贈与の美学、哲学が開陳されたり、首相官邸の描写があったり、論説部の記者のリアルな生き方が示されたり、する。
 このあたりは、作者が生来言いたかったこと、知らしめたかったことを、小説に登場する人物の口や眼をとおして語らしめ、描写しているようだ。

  主人公、弓子は最後まで魅力的だ。