【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

山本周五郎「おさん」(新潮文庫)

2012-12-14 23:17:41 | 小説

          

   山本周五郎の珠玉の短編集。「あとがき」に木村久邇典が「解説」を書いているが、小説の筋を要領よくまとめているだけなので、これは(とくに小説を読む前に)読まない方がよい。


   というのも、この文庫におさめられている10編の小説は、読み始めのうちは様子があまりわからず、一体この人はどういう人なのだろう、この件はどうなっていくのだろう、と思わせておいて、それが読み進むうちに次第に事情がわかっていくというつくりになっているし、この作り方が周五郎の短編の魅力のようなので、あらすじがわかってしまって読むのでは愉しみが半減する。筋を自分で追いながら読むべきであり、この作家はそういう力で読者をひっぱっていくのが得意なようだ。

   10編の小説はいずれも舞台は歴史的過去であり、江戸時代であったり、平安時代であったりである。個人的には「おさん」「青竹」「みずぐるま」が印象的で、「偸盗」はそうではなかった。

   「おさん」は、性の営みのたびに別の男の名前を呼んで陶酔するおさんが、その性のゆえに男を破滅に導き、最後は自分も匕首に刺されて死ぬ。女の業を宿命的に背負って生きたひとりの女。

  「青竹」は敵方の大将を討った伊予藩士が恩賞を所望するでもなく、生涯の妻と心に決めた娘の死を知り、墨絵かぶらの旗差物に数珠を描き添えて戦場を死守する逸話。「みずぐるま」は旅芸人の一座のメンバーで、薙刀を使いのうまい太夫の少女が、武家の重職に養女となり、さまざま流転を経験しながら健気に生きていく物語。

  その他の「並木河岸」「夕靄の中」「葦は見るいた」「夜の辛夷」「その木戸を通って」「饒舌り過ぎる」も心地よい読後感を愉しめる佳作。