【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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岩田規久男『日本銀行 デフレの番人』日本経済新聞社、2012年

2012-12-03 00:23:21 | 経済/経営

          
   日本経済は財政赤字とデフレという深刻な事態に直面している。その期間は14年間とかなりの長期にわたっている。政府と日銀が果たさなければならない役割は大きい。しかし、日銀の金融政策は一向に奏功しない。本書はその日銀金融論を徹底的に批判した内容となっている。


   2012年2月14日、日銀は「中長期的な物価安定の目途(消費者物価の前年比上昇率が2%以下のプラスと考え、当面は1%を目途とする声明)」を、追加緩和政策(資産買入額を10棟兆円増加)とともに発表、その後白川総裁は「1%達成の決意」を明確化した。この3点セットは、大きな円安と株価効果をもたらし、はしなくも「デフレの日銀理論」と「金融政策の日銀理論」の誤りを実証することになった。第一章は、この点をデータの提示で明らかにしている。

   第二章では、新日銀法施行以降の物価安定政策の成績が、日銀自身が設定した「中長期的な物価安定の目途」を基準に評価すると24%でしかないことが示され、そうなった理由は日銀の「デフレの日銀理論」と(第三章)、「流動性の日銀理論」に代表される「金融政策の日銀理論」(第四章)に依拠して金融政策が展開されたからと論じられる。

   それではデフレ脱却のためには、どうすればよいのか。著者は、それを世界標準の金融政策にもとめる。具体的には、日銀法を改正して政府が物価安定目標を決定し、日銀がその目標を中期的に達成することを義務付けること、と言う。インフレ目標政策を導入し、日銀が大量に長期国債を購入し、マネタリー・べースの供給増加させるならば、予想インフレ率が上昇、そのことによって円安と株価の上昇、予想実質金利低下によって設備投資の増加がはかられ、実質国内総生産の増加と雇用の増加、すなわちデフレ脱却の方向へ舵をきることができるというわけである。

   著者はこの壮大な社会実験を、「最適金融政策」と呼び、そのためには国民にこの内容を丁寧に説明しななければならないとし、その手順を示している(p.228-9)。

   問題提起は鋭いが、はたしてこれでうまくいくのだろうか。議論をうらずけるための統計的実証といっても、その中身をみると諸変数の相関分析が主なので(日本経済の実態分析が弱い)、これだけではもろ手をあげて賛成してよいものか、一抹の懸念が残る。継続した議論が必要であろう。