表題にある「ロングラン」は彼女の女優人生そのものを讃えたものだろうが、あわせて彼女がその主役を務めた「放浪記」(林芙美子)が2000回を超え、文字通りロングランを続けたことへの賞賛があるのだろう。ロングラン、長く続けることには価値があるのだ。
本書は森光子さんが自身の人生を語ったもの。日本経済新聞の「私の履歴書」(2007年12月1日~31日)に書ききれなかったことを補足してなった書。
その森光子は大正9年に京都の割烹旅館「國の家」で生まれ、15歳で従兄弟の嵐寛寿郎のつてで嵐寛寿郎プロに入り映画デビュー。多くの少女役をこなした。20歳を過ぎ、歌手をめざして東京へ。しかし、時代は軍靴の不吉な足音が。外地の慰問活動へ、朝鮮半島、シンガポール、ボルネオ、セレベス、チモールなどを巡回。本土に戻るも、東京は焦土と化し、京都に帰郷。
昭和27年にNHK大阪のラジオ番組「エンタツの迷探偵」に出演、芸能界復帰を果たす。以来、順調に(とはいえ結婚生活は必ずしもうまくいかなかった。また、かなり深刻な病気も患った)女優の道を続けた。名脚本家で演出家の菊田一夫の眼にとまったのが大きかった。
「放浪記」といえば森光子、森光子といえば「放浪記」であるが、有名な「でんぐり返し」を演じた経緯、もともと5時間ぐらいあったこの舞台を3時間ほどに台本を圧縮したさいの三木のり平の才覚、など興味深いエピソードが織り込まれている。珍しい写真も多数。