【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

川本恵子『魅惑という名の衣装』キネマ旬報社、2009年

2012-12-22 00:22:13 | 映画

       

  映画を観る切り口としてこういうものがあったのだ。確かに映画(製作)にとって衣裳デザインは重要だ。まず、女優、男優を引き立たせなければならない。演技上の個性を際立たせることにも気をつかわなけらばならない。過去の時代を舞台にした映画であれば、衣裳には時代性がもとめられる。ライトがあてられて映えるかどうか、現代ものであれば映画製作時と公開時のラッグに配慮しなければならないケースもあるだろう。予算への配慮、工房の手配、さまざまな課題が衣裳デザイナー、あるいは衣裳担当部門には要求される。考えてみれば当然のことなのだが、これまで映画といえば、ストーリー、監督のコンセプト、俳優の演技にばかり目が向いていて、衣裳にはあまり着目していなかった。


  これがわたしだけのことでないことは、映画の衣裳をテーマにした本がほとんどなかったことからもわかる。アカデミー賞でさえ、衣裳デザイン賞が設けられたのは、戦後、1948年(第21回)からである。

  本書は、映画(製作)において衣裳デザイナーが果たした役割を正面からテーマにとりあげて論じた異色の作品である。年代順に編纂されている。グレタ・ガルボとエイドリアン、ディートリッヒとトラヴィス・バントン、グレース・ケリーとヘレン・ローズ、ベティ・デイビスとオリー・ケリー、オドリー・ヘップバーーンとジパンシーなどの幸福な関係とともに、女優とデザイナーの確執もいくつか取り上げられている。

  話が具体的であるのがよい、たとえば1924年のパリ・オリンピックを扱った「炎のランナー」で、衣裳を担当したミレナ・カルネロはこの作品に登場する人間の全ての衣裳を20年代の古着を再生してつくったという(pp.273-74)。「ウエスト・サイド物語」でジョージ・チャキリスたちがはいていたジーンズは、ダンスが可能なような素材のものでつくられていて、普通のそれではだめだという(p.210)。アイリーン・シャフのアイデアだったそうだ。

  他にも多くの懐かしい映画が紹介され(もちろん、衣裳、デザイナーとの関連で)、懐かしかった。「俺たちに明日はない」「華麗なるギャツビー」「ワーキン・ガール」「裏窓」「花嫁の父」「陽のあたる場所」「マイ・フェア・レディ」「シェーン」など。衣裳の視点から見直したい。また、女優も懐かしい人たち。上記以外では、ローレン・バコール、エリザベス・テーラー、リタ・ヘイワース、グロリア・スワンソン、ドリス・デイ、ナタリー・ウッド、ヴィヴィアン・リー、ジ-ン・セバーク、アン・ロスなどなど。

  写真が豊富なのもよいが、残念ながら白黒。カラーだったらもっとよかっただろうが、コストの問題があっただろう。著者は映画評論家で有名な川本三郎の妻。繊維工場の娘として育ち、ファッションライターとして活躍していたが、惜しくも2008年6月に亡くなった。