【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

中野京子『怖い絵③』朝日出版社、200年

2010-04-14 00:35:55 | 美術(絵画)/写真
          
            

  テーマである恐怖について、著者が書いている部分があります。すなわち「『恐怖』は烈しい情動反応であって、基本的には『死』『未知』『喪失』『苦痛』『狂気』などに対し、誰もがひとしなみに感ずるものが、それとは別に、選れて個人的な恐怖も存在する。他人には理解不能な、その人だけの恐怖、稀には本人さえ理由のはっきりわからない、それだけに逃れようのない底なしの恐怖がー」と(p.164)。

 絵の見方がまるっきり変わってしまったのがミレーの「晩鐘」です。ミレーその人の理解も含めて、通説的理解のお粗末さを知りました。

 ダリの突飛にさえ思える解釈を援用しながら、敬虔で宗教的な「晩鐘」という絵の含意を暴きだし、清貧の画家ミレーの実像を日のもとにさらしています。

 同じようにブリューゲルの「ベツレヘムの嬰児虐殺」にまつわる事実にも驚かされました。ブリューゲルが描いた宗教的テーマをもつ絵が、何者かによって書き換えられ、それがブリューゲルその人の作品として出回っていたとは・・・。それは画家に対する冒瀆以外のなにものでもない、と著者は書いています。確かに書き換えによって凡庸な絵になりさがってしまっています。本当はそれを見抜けなければいけないのですが。

 その他、本書でとりあげられている作品は以下のとおりです。
・レンブラント「テュルブ博士の解剖学実習」
・ピカソ「泣く女」
・ルーベンス「パリスの審判」
・エッシャー「相対性」
・カレーニョ・デ・ミランダ「カルロス二世」
・ベラスケス「ラス・メニナス」
・ハント「シャロトの乙女」
・フォンテーヌブロー派の逸名画家「ガブリエル・デストレとその妹」
・ベックリン「死の島」
・ジェラール「レカミエ夫人の肖像」
・ボッティチェリ「ホロフェルネスの遺体発見」
・ブレイク「巨大なレッド・ドラゴンと日をまとう女」
・カルパッチョ「聖ゲううオルギウスと竜」
・ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」
・ホガース「精神病院にて」
・ヴェッロッキオ「キリストの洗礼」
・ビアズリー「サロメ」
・ファン・エイク「アルノルフィニ夫妻の肖像」。

 あまり知らない画家の絵を、最高のキュレーターの解説で、たくさん観せてもらいました。著者に感謝。