【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

村井吉敬『エビと日本人Ⅱ』岩波新書、2007年

2010-04-08 11:44:26 | 政治/社会

 本ブログ3月18日付で紹介した前書『エビと日本人』(1988年)から約20年、テーマの状況はどう変わったのでしょうか。
              

             


 日本ではバブル景気とその崩壊。「失われた10年」と続きました。日本ではエビもバブルに乗りましたが、その後「凋落」傾向。しかし、世界的にはエビの生産と消費は上昇気流に。

 生産国としての中国の台頭、アメリカは2004年にエビの輸入量で日本を抜き一位に。そして、養殖エビが大隆盛。しかし、それとともにマングローブの破壊が進みなした。

 台湾ではウイルスの蔓延で養殖が崩壊。エビの種類ではブラックタイガーにとってかわってバナメイの生産が好まれる状況になりました。そして2004年12月のスマトラ沖地震による津波が与えたエビ養殖地の甚大な被害。こうした激変の様子を伝えるのが本書です。

 日本がエビの大量消費国であることに変わりはありません。消費者はエビが生産国からどのような経路で自らの手元にたどりつくのか知っているのでしょうか? その経路は実に複雑です。日雇い労働者⇒池の管理人⇒スーパーバイザー⇒池主⇒集買人⇒工場労働者⇒工場長⇒パッカー(加工・輸出業者)⇒(輸出)⇒商社・大手水産会社⇒荷受け(一次問屋)⇒仲卸(二次問屋)⇒鮮魚店・スーパー⇒消費者(p.180)。

 揚げ物を作ることすら面倒がるようになった日本消費者のゆえに、エビの加工も途上国労働者が担っています。そして、このような複雑な経路で輸入され、消費者に届くエビは安全な食品なのか?それが今わからなくなっています。

 エビを食べ過ぎる国民は以下の諸点を自覚しなければなりません。養殖エビは、環境にやさしくないです。安全な食品とは断言できません。輸入に依存しすぎます(自給率の低下)。生産・加工国の労働事情を知るべきです。そして、グローバル化の行きすぎた進展。(以上pp.196-199)。

 著者は引き続き現地調査からエビ生産の実情の新たな諸相を伝え、統計を更新し(水産物生産量、エビ生産量、養殖エビ生産量一位:中国[2005]、エビ輸入量一位:アメリカ[2005]、エビ一人当たり消費量一位:エストニア[2005])、20年間のエビを巡る環境の大きな変化を書きとめることに成功しました。

 最後にエビのフェアトレードについて言及している点も新しいところです。