【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

ジェームス三木脚本「太陽と月」(青年劇場101回公演)紀伊国屋ホール

2010-04-30 00:53:02 | 演劇/バレエ/ミュージカル

      
              
 時は1934年(昭和9年)3月。場所は南満州鉄道(満鉄)理事、山倉誠二郎(青木力弥)の邸宅(新京[長春])。山倉家の長女、早苗(中山万紀)は婚約者である満州国務院のエリート官僚、吉野日出夫(清原達之)と幸せいっぱいで談笑しています。
 同席しているのは母親(藤井美恵子)と早苗の兄で関東軍将校の房彦(北直樹)、それに早苗の妹千草(中山万紀:二役)。結婚式はヤマトホテル、満鉄の特急アジア号に乗って大連に行こうというわけです。

 ところが数字後、その早苗が土龍山での農民の武装蜂起にまきこまれ、拉致され、行方不明となります。早苗は協和会に勤務していましたが、宣撫活動の最中の出来事でした。心配する家族と吉野。懸命の捜査にもかかわらず、早苗は見つかりません。
 
 それから2年9ヶ月後。家族が半ばその生存をあきらめていたところ、早苗が家に戻ってきます。行き倒れの状態でした。回復を待ちますが、早苗はすっかり別人になっていました。

 早苗は満州国が日本の傀儡国であることを糾弾します。五族協和と言いながら、実態は日本の侵略に他なりません。土龍山事件の指導者、謝文東に洗脳されたに違いないと驚く家族をよそに、早苗はなぜ日本からきた移住者が満州の国籍もたないのか、教育がなぜ日本一辺倒であるのか・・・など、婚約者の吉野を質問攻めにします。最初は、好意的に応えていた吉野もしだいにしどろもどろに。

 警察が早苗の帰還をかぎつけ、出頭するように言います。家族は人が変わった早苗が逮捕されることを懸念し、彼女とそっくりの双子の妹、千草を内地から呼び寄せ、取り繕おうとします。

 事態は急展開。話は思わぬ方向に進んでいきます。

 満州で生まれ育ったジェームス三木さんが満をじして書きおろした作品。国家とはなにか? 満洲国はなんだったのか? そこに生きた人たちはどういう思いで生きていたのか? 虚構の国家のあり方を深く問う真摯な作品です。

 タイトルの「太陽と月」の「太陽」は日本、「月」は満州。しかし、それは立場によって反対にもなりえます。