仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

悪習:読書ペースが追いつかない

2006-11-22 12:02:47 | 書物の文韜
我々の職業において、「本を買う」という行為はきわめて日常的です。そして、「買っておいて読まない」というのもきわめて当たり前。必要なときがくれば読むわけで、「そのとき」までは積んでおく。「そのとき」手元にあることこそが重要なのです。しかし、それは学問に関わる書籍のハナシで、小説やマンガは別問題。一般の方々と同じように、読みたいときに買い、欲望のままに読むべきものでしょう。けれども最近は、その種の趣味の本まで積んでおくことが多くなりました。理由のひとつは、ストレスによる?衝動買い。恥ずかしいことですが、仕事量が自分のキャパシティーを上回ってしまっており、反動として趣味に逃げようとするわけです(翻訳もののモダン・ホラー、SF短編集なんかはこの類ですね)。しかし踏み倒すほどの勇気がないので、買ってはみるけれども結局は読めません。ふたつめは睡眠不足。趣味の本は通勤/帰宅の電車のなかで読むようにしているのですが、没頭するのは最初の10分ほど。後はどうしても眠くなってしまい、ページが先へ進みません。最後はぼくの責任ではなく、嬉しいやら悲しいやら分からないのですが、最近わたし好みの書籍が次々出版されていること。最近では、「ケガレをめぐる理論の展開」でも引用したことのある森達也氏の新作、『下山事件―シモヤマ・ケース―』(新潮文庫、2006-11。初刊2004)。今月の文庫化を受けて読み出したのですが、異常に面白い。やはり今年文庫化された魚住昭氏の『野中広務 差別と権力』(講談社文庫)もそうでしたが、テーマに賭ける著者の真摯さ、迫力、紡がれる言葉の重みが、どこぞの学界の論文とはまるで違う。政治・経済・社会と多様な人間関係が複雑に絡みあう様相をみると、事象を特定の人物に還元したがる、古代政治史の単純さが浮き彫りになる気がします(自戒せねば)。早く完読せねば、と眠気をこらえて読んでいるところへ、今度は熊谷達也氏の『相剋の森』(集英社文庫、2006-11)の文庫化。環境史をやっていながら、(しかも思想的にリンクするであろうことが分かっていながら)ちょっと読むのが怖くて距離を置いていたのですが、〈野生〉や〈共生〉について語るうえでは、やはり目を通さなくてはいけない小説でしょう(なんと解説は赤坂憲雄なのでした)。
ご恵賜いただく文献にもなかなか手を付けられず、礼状執筆も滞って周囲に顰蹙を買っている情況。どこかで立て直さなくてはいけませんね。

ところで来年、酒見賢一の『墨攻』を映画でやるんですね(なんとアンディ・ラウ主演)。チャン・イーモウもまた豪華絢爛路線に戻った様子。『真系累ヶ淵』の本格的映画化『怪談』(なんと中田秀夫監督)、漱石原作の『ユメ十夜』(実相寺昭雄、清水崇ら監督。なんと天野喜孝も)、燕山君時代の芸人の運命を描いた韓国映画『王の男』も楽しみです。
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4 Comments

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オペラじゃないけどね (ほうじょう)
2006-11-28 02:31:27
『傷城』って、『インファナル・アフェア』みたいなもん? このあいだ、「杭州はメタセコイアの黄葉が見頃」って記事がどっかに出てた。そうそう、特講で稽山廟の話もしましたが、いま存在しているのでしょうか。
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オペラだったのか (みなくち)
2006-11-27 18:57:10
チャン・イーモウのよりも、金城武とトニー・レオンが競演する『傷城』のほうが気になっている。年末は、この2本でも見るかな。でもなあ、杭州の映画館って寒いからなあ。
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よかったみたいね (ほうじょう)
2006-11-27 17:05:17
おお、なんかよかったみたいだね。酒見賢一は『後宮小説』『陋巷に在り』で有名なひと。古代中国の哲学・神話的世界や、古代ギリシアの哲学なんかも扱っています。『陋巷』は諸星大二郎が挿絵を描いているので、『孔子暗黒伝』から移ってくるひともいるんだろうね。『墨攻』は宗教色は強くないけれど、全体的にまとまっている。森秀樹のまんがはかなり劇画的見せ場を作っているのだろうから、映画の原作としては、確かにそちらの方が適当かも。チャン・イーモウのオペラはどうよ。
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見たよ (みなくち)
2006-11-24 15:19:17
『墨攻』見たよ~。日本は来年2月公開だそうで。それまでガマン、ガマン。
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