仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

もの書きに専念

2009-03-16 02:10:38 | 書物の文韜
出版社に延引の言い訳をしながら、缶詰になって熊野の原稿を書いている。平安から中世初期にかけての古記録を精読しつつ、複数の地図や地名辞典、Googleマップを駆使しての作業だが、ようやく面白くなってきた。もちろんぼくの原稿がではなく、〈史料〉を読解する作業がである。熊野への行程を具体的に記した〈史料〉は幾つかあるが、詳細なことでは藤原定家の「熊野道之間愚記」がいちばんで、詠み込まれた歌を鑑賞する楽しさもある。しかし個人的には、藤原宗忠『中右記』の参詣記録がさまざまに想像力を刺激してくれて気に入っている。宗教史的には、往路の難行苦行に対する帰路の瑞夢連発など、参詣という宗教的実践の意義を深く考えさせてくれる点が重要だろう。社会史的にも、荘園制と国衙支配の補完関係、交通に従事する在地の人々の生き生きした活動が浮かび上がってきて興味深い。記述も難しくないので、ゼミなどで読むには適当かも知れない。かつては戸田芳実御大や小山靖憲氏が、実地踏査を組み込みながら、やはり学生や院生と読み込んできたものなのだ。今度の三年生は、ゼミ旅行で伊勢へゆきたいといっているらしいので、『霊異記』『三代格』の合間に組み入れていってみようか。
それにしても、懸案の原稿がなかなか片付かないのは困る。熊野はもう数日で仕上げて、次の依頼に取りかからねば。もう新学期は目の前ではないか。

左は、気分転換に読んだもの。『バクマン』は少年漫画らしいご都合主義的な展開だが、『サンデー』に投稿していた頃を思い出して懐かしかった。どの付けペンで絵を描くかという話題が出てくるのだが(カブラペンは初心者向き、Gペンは上級者向きという)、ぼくはカブラペンより断然Gペンの方が使いやすかった。とくに、しばらく使い込んで自分のクセに馴染んでくると、細い線・太い線が自在に引けるようになる。太い線の力強さ、それを引くときの心地よさはカブラペンの比ではない。しかし、こういった漫画描きを扱った作品でいつも気になるのは、ペン先の寿命にほとんど触れない点だ。ペン先が手に馴染んでくるのは先端が削れて紙に引っかかりにくくなるからで、しばらく描き続けていると摩耗していい線が引けなくなってしまう。いちばん寿命が短いのが極細の線を引く丸ペンで、多用する向きには箱買いが必要な代物。使い慣れていないと紙に穴を空けてしまうこともあるのだが、貧乏でスクリーントーンを買う余裕がなくすべてカケアミで済ませていたぼくには、本当に重宝する道具だった。カラス口の使い方なんかにも言及してくれると、漫画が上達するということがより具体的になって面白いと思うのだが、どうだろうか(黒インクより墨汁の方が「骨太」な線が引けるとかね)。
『ひとり百物語』は個人体験もの実話怪談、『怪談熱』は実話怪談を活かした創作短編集。前者は『新耳袋』を連想させる出来だが、墓や火葬場を無闇に忌避する視線が気になった。後者は巧妙な仕掛けや文章の冴えこそないが、平山夢明などと異なり、適度に上品で気持ちの悪い思いをせずに済む。心霊ものより、海外旅行先で理不尽な落とし穴にはまる「猿島」の方が恐ろしかったが…。
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2 Comments

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北條先生もマンガを描かれていたのですね (ながおさ)
2009-03-23 23:24:02
昨日はいろいろとありがとうございました。

同時に、拙い作品となってしまったことをお詫びします。

私も美術部時代にデッサンの練習の合間にGペンで静物を描いていたのを思い出しました。
でも難しいですよね。意外と中間の線を同じ太さで引くのが大変だったのを思い出しました。
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描いてましたね (ほうじょう)
2009-03-24 00:56:18
昨日はお疲れさま。ながおさ君の「poison」が聞けてよかったです。

まさに『バクマン』が描いている中学生時代、50周年を迎えた『少年サンデー』から専用原稿用紙を貰って修行していました。オタキングと呼ばれる岡田斗司夫が募集した、「第1回岡田賞」の準入選者でもあります。それから映像の方が面白くなってそちらへ転向し、ついには学問の苦界へ身を沈めてしまいましたが...。
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