フランスのポンビドゥー元大統領のことは知っていたが、ポンピドゥー・センターのことはまったく知らなかった。
7月第3水曜日、都美術館の高齢者無料の日、「20世紀の巨匠たち、ぞくぞく」のキャッチフレーズにひかれ「ポンピドゥー・センター傑作展」を観に出掛けた。
―ピカソ、マティス、デュシャンからクリスト―まで、とあれば、心ときめくではないか。
同じパリにあるオルセー美術館が19世紀の作品を展示しているのに対して、こちらは20世紀のアートだという。
普通、美術館鑑賞と言えば、有名画家や彫刻家の作品を目的に行く。
が、今回はみごとに裏切られた。1906年から1977年まで、1年1作1人を選んで展示しているのだ。
無論上記のような日本で有名な画家・彫刻家のものもあるのだが、71作品の中では、ほんのわずか。
後は日本では知られていないアーチストである。
しかし、それらの作品が、また魅力的なのだ。
無名の天才という解説があった。
71人が、自らの創作あるいは芸術について語っている言葉も重かった。
それを読み、プロフィールを見るだけで、かなりの時間を要した。
普通に絵を見、ふむふむと納得して通り過ぎるわけにはいかないのだ。
何しろ、一人ひとりの人間の創作への意欲を垣間見るのだ。
約束した待ち合わせの1時45分が過ぎ、がっくり休憩所の椅子にもたれてしまった。
相方はまだ出てこない。
暇つぶしに目の前の壁を写してみた。
それなりのアートに見えるではないか。
こんなに疲れる美術展は初めてだ。
なにも根を詰めずに見ればいいのだが、この企画展のアイディアは称賛するしかない。
よく考えれば、わが生きてきた人生71年と向き合うことになるのだ。
そう思い、1945年はと目を向けて見たら、作品はなく、エディット・ピアフ「バラ色の人生」の声が流れていた。
正確にいえば、この曲は1946年だ。
カメラ爺としては、M.ディートリッヒの「リリー・マルレーン」にしてほしかった。
もともと第二次世界大戦中、ドイツ軍の慰問レコードのひとつだったが、イギリス軍も共に戦場で聞き、故郷を思い、涙を流したという。
ぎりぎりの戦中生まれとしては、「バラ色の人生」より「リリー・マルレーン」のほうが共感を覚えるのだが…。