酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

山吹・天守物語

2006-07-15 13:31:09 | 演劇
7月大歌舞伎公演の14日夜の部(歌舞伎座)。「山吹」と「天守物語」の二本。
「山吹」は泉鏡花の中では、しっとりした作品であるが、舞台は輪をかけて地味に作ってある。原作にはマゾヒスティックであやしい部分もあるが、さらっと流している。あまりに動きが少ないので、周りでは居眠りしている人が多数。今回は坂東玉三郎の「天守物語」の前座的な役割に徹したのかもしれない。
休みをはさんで後半は「天守物語」。原作は泉鏡花の中で、私は「草迷宮」と並んで面白い作品だと思っている。姫路城に潜む魔界の天守夫人「富姫」(玉三郎)と城の若侍「姫川図書之助(市川海老蔵)の恋物語。
さすがに玉三郎の所作の優雅さや、鏡花独特のセリフの表現には惚れ惚れしてしまう。「山吹」で熟睡していた隣のおばさんは、いつのまにか身を乗り出していた。
相手役の海老蔵も若々しく純粋な侍をうまく表現。昨年の海老蔵の失敗作「信長」とは変わって、同一人物とは思えない出来栄えである。すこし痩せたのか、顔の線もすっきりしたのが魅力的。肝心なところで一度だけセリフをかんでしまったが、これだけの出来だとご愛嬌と許せてしまう。
城の家来たちが総じて元気がないのと、鏡花作品の幻想世界の美しさに、全体的にいま一歩欠ける部分はあったが、玉三郎の演技だけでも十分満足できる舞台である。