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弁慶・・・

 今この文章を書き始めたのは、午前0時半過ぎ。現時点で弁慶は生きている。一昨夜は、私が餌をやろうとしたところ、「う~~」と低いうなり声をあげて、柄杓に咬みついたりして私を困らせたのに、一晩明けたらガクンと弱々しくなってしまった。朝は犬小屋を遠くなら眺めて、無事でいることを確認しただけだったが、昼過ぎにドッグフードをやろうとしたところ、まったく食べようとしない。見れば前夜にやった餌もずいぶん残してある。
「食べられなくなったのか・・。とうとうカウントダウンが始まったのか・・」
頭でそう思ってみても、心は混乱してしまった。
「弁慶、どうした?元気出せよ。まだ死んじゃだめだ」
そんなバカなことを叫んでいるうちに涙が出てきた。弁慶は物憂げにちらっと私を見るもののすぐに目をそらしてしまう。すぐに目をつむり、うとうとと今にも眠りそうな様子だ。
「意識が混濁してるのかな・・」
ちょうど出かけていた妻に電話して弁慶の様子を伝えた。
「朝は元気なさそうだったから、大丈夫かな、って思ってたけど・・」
父にも話した。
「まあ、仕方ないわな」
そう言って、寂しそうな顔をした。家じゅうの誰もが弁慶が大好きで、弁慶はいつまでも元気でいてくれると思っていただけに、弁慶が歩けなくなって10日余りの間、みなずっと心が晴れない。ふと気付くと弁慶のことを話している。
「エサやろうとすると「ううっ~~」と唸るから腹が立つ」
などと私が言う時でも、動けなくても弁慶は力に溢れた弁慶のままだ、と確認できたようで嬉しくもあった。木曜日に獣医に話を聞きに行った時に、ここ10日間の弁慶の様子を話したところ、
「老衰ですね・・。何もしてやれないですね・・」
と先の短いことを示唆されたが、それでもこのまましばらくは頑張ってくれるのではないか、と思いこんでいた。しかし・・、

 昨日は塾で授業をしていても、ずっと弁慶のことが気になっていた。窓の下にある弁慶の小屋から、うめき声が聞こえたりしないか、ついつい耳をすませたことも何度かあった。塾バスに乗り降りするときにも必ず弁慶の様子を確かめた。
「弁慶、元気か?」
私の声に反応して弁慶が顔を上げてくれるとホッとした。
「頑張れよ!」
もうそれしか言えなかった・・。
 
 先ほど、いつものように餌をやろうと弁慶のところに行ってきた。
「おい、食べるか?」
だが、私が差し出した餌にはまるで見向きもしなかった。
「ダメか・・」
それでも諦めきれずに餌の入った柄杓を顔の近くに持っていったら、
「ぅぅぅ・・」
と小さく唸った。まだ唸る元気があるんだ、と少し嬉しくなったが、昨夜までとは全く違って、かえって弁慶が弱ってしまったことを痛感させる小さな唸り声だった・・。柄杓を手元に戻して、弁慶をじっと見ていたら、やたら呼吸が荒いのに気付いた。全身を小さく波打たせながら、呼吸をしている。苦しそうにも見える。じっと見ていたら、涙で弁慶の顔が潤んできてしまったので、耐えられなくなって、
「また明日会おうな。弁慶、頑張ってくれよ」
そう言いきかせて、走って家に戻ってきた。
 あれが最後とならなければいいのだが・・。外は今にも雪が降り出しそうなほど寒い。毛布は一枚かけてあるものの、とても十分ではないだろう。だが、いくら弱っていても、私たちが手を伸ばせば必ず咬みつこうとするだろうから、今の時点ではこれ以上何もしてやれない。ただ、さほど苦しまずに安らかな眠りにつけるよう祈るばかりである。
 
 でも、弁慶、約束したとおり、明日も会おうな!!


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