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熟柿

 父が毎日せっせと通っている畑の近くで実っていた柿をもいできた。といっても、普通の柿ではなく、今にも弾けんばかりに熟しきった柿だ。変に力を加えてしまったらグチャッと潰れてしまいそうなほどに熟れた物を20個ばかり箱に入れて大事そうに持ってきた。熟柿が好きな妻は自分ようにいくつかもらって、箱に入れて台所の隅においてある。毎日少しずつ食べるつもりらしい。


 柿色というよりも赤みがかっていて、ちょうど手のひらで包み込めるくらいの大きさだ。丁寧に扱わなければ潰れてしまう、そんな危うさを秘めてはいるが、はちきれんばかりに力強く膨らんでいるようにも見え、小さな実の中に宇宙を隠しもっているような神秘ささえ感じられる。私は今までこうした熟柿を食べたことはあまりない。柿といえば硬いものを、えいっと歯に力を込めて噛み砕いて食べるものだと思っている私にはこんなに熟した柿はあまり得手ではない。だが、まじまじと宝玉のように光り輝いている熟柿を見ていたら、いつになく食べたくなってきた。そこで妻から一つもらって食べてみた。


 箱から取り出すと一段と輝きが増したように思えた。何だか食べるのがもったいない気もしたが、思い切って包丁で2つに切ってみた。父は、「皮ごと食べても十分にやわらかいぞ」と言っていたが、今回は中身の様子を見てみたかったので、包丁で切ってみた・・。

 

 「トロトロだぁ・・!!」
そんな言葉が思わず口をついて出てしまった。完全に熟している。種さえもやわらかくなっていて、スパッと切れてしまった。スプーンですくってみた。


 果汁が滴り落ちそうで落ちない、不思議だ。口に入れてみた。スプーンですくった形はすぐにはくずれない。しかし、とろりっとそのまま口の中で溶けていく感触がたまらない。蜂蜜をたらしたように見える果肉から想像したほど甘くはないが、控えめで上品な甘みが口中に広がる。続けて二口三口と食べ進んでもくどさはまったく感じない。爽やかな食感が最後まで続く。これほどまでに美味しいものだとは知らなかった。今まで食べたことがなかったのを大いに後悔した・・。
 
 俚諺に「食べ物は腐る寸前がおいしい」と言われているが、まさしく熟れきった瞬間に見せる最高のおいしさを味わったのかもしれない。ちょっとクセになりそうなほどだ・・。
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