火星への道

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放射線被爆と時間因子

2015-05-07 21:14:48 | 宇宙線

5月2日に“What happens to your brain on the way to Mars” というレポートがthe open-access journalScience Advancesで発表されました。
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版でも紹介されています。
それに関して、アメリカの火星協会は、無効なクレームだという反論の記事を配信しています。 

題名は、「Invalid Claims Made for “What Happens to Your Brain on the Way to Mars” Publication」となっています。

以下は、主要な反論部分です。 
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しかしながら、実際は、その研究“What happens to your brain on the way to Mars” は、有人火星探査との関連性はありません。
研究者から被験者に与えられた照射線量は、火星へ向かう途中で宇宙飛行士によって経験されるものとは関係がないのですから。
原理の違いは、研究のマウスへの放射線量の投与時間は、惑星間宇宙で旅行者が受けるであろう時間よりも400万倍も短いものでした。
加えて、その30秒間でマウスに与えられた総累積照射量は、宇宙飛行士が2.5年の火星ミッションの過程で受けることになるGCR量よりも約50%大きいものです。 
*GCR(galactic cosmic ray:銀河宇宙線) 

要点は、次のとおりです。マウスの実験では、被験者は、1分あたり100ラドの割合で30ラド(0.3グレイ)の照射が与えられました。
火星ミッションで、宇宙飛行士は、行きと帰りのそれぞれ6ケ月で毎月1ラドの照射を受け、火星滞在中の18ケ月に毎月0.5ラドの照射を受けるので、トータル21ラドとなります。(1グレイ=100ラド=100 cGray、 GCRの1グレイ=6シーベルト=600レム、空間線量率は、次の文献でで見つけることができます。「惑星間空間での宇宙線放射線量- 現在とワーストケース評価」RA Mewaldtら、2005年)
The Cosmic Ray Radiation Dose in Interplanetary Space – Present Day and Worst-Case Evaluations” R.A. Mewaldt, et al, 2005.) 

“What happens to your brain on the way to Mars”というラボでの研究と宇宙飛行との間の線量率で400万倍の時間差が非常に重要です。
急激に大量の毒素を投与された場合の効果と、同量ではあるが長期に亘って非常に少量づつ投与された毒素の効果とが全く異なっていることは、化学的および放射線毒性においてよく知られた知見です。
違いは、身体の自己修復システムは、長期間にわたって受け取った場合なら簡単に管理できる量でも、突然大量に投与された場合は、対応できないということです。
例えば、個人が100秒間、毎秒ウォッカの1ショットを飲んだ場合、彼は死んでしまうだろう。同じ人が、100ヶ月間、毎月ウォッカの1ショットを飲んだ場合は、彼は全く悪影響を経験しないであろう。
これは、宇宙空間で宇宙飛行士によって経験されるであろう(1ラド/月)ことと、「火星に向かう途中で、あなたの脳に何かが起こる」レポート(毎秒1.6ラド)で報告された意味のない照射線量率とを分けて考える必要があると言うことです。

“What happens to your brain on the way to Mars” の著者達は、これらの違いを認めて、それらの結果の意味に但し書きをつけることを怠った。
それだけでなく、彼らは、レポートの深くに実際の線量率に関する情報を埋め込んでしまっている。(それが“Animals, heavy ion radiation, and tissue harvesting「動物、重イオン放射線、および組織の収穫と題し終わりに向かってテキスト段落の途中で見つけることができます)、それによって、一部のサイエンスライターは、真偽のほどが良くわからないセンセーショナルなことを暗示させる報告に簡単に騙されます。

長期間に亘って被爆した毒素の少量が人への悪影響のリスクを統計的に高めることがあるということは事実です。
しかし、私たちは、すでに長期の宇宙飛行中に被爆した宇宙線のゆっくりとした蓄積が有人火星探査を中断させるほどのものではないことを示しているデータを持っています。
(地球低軌道でのGCR線量率は、惑星間宇宙の半分のものとしています。)
地球低軌道での拡張宇宙ミッションで、有人火星ミッションと同等のGCR放射線量を被爆した宇宙飛行士が既に半ダースもいます。
彼らから、一人もいかなる放射線死傷者を出していません。(Avdeyev, Polyakov, Solovyov, Krikalyov, Foale, Walz, Lucid) 

さらに、国際宇宙ステーション(ISS)が継続的に有人で行われており、火星ミッションでは、宇宙空間にいるのは、ISSミッション時間の約40%です。
ISSプログラムクルーがこれからの10年で計画されているオペレーションで被爆するだろう全GCR線量(人·REMSで測定)は、火星へ隔年で打上げられ同じ期間のミッションをする一連の5乗組員によって被爆されると予想されるものと同等です。
継続的な有人火星探査プログラムに対応するように、実際にISSプログラムは、乗組員のためのGCRリスクを同じレベルにしました。
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以下は、長期滞在者の記録です。
Avdeyev
:747.59日
・Sergei Vasilyevich Avdeyev(ロシア語:Сергей Васильевич Авдеев)
Polyakov438日
・Valeri Vladimirovich Polyakov((ロシア語:Валерий Владимирович Поляков)
Solovyov361日22時間49分
・Vladimir Alekseyevich Solovyov(ロシア語:Владимир Алексеевич Соловьёв)
Krikalyov:803日9時間39分
・Sergei Konstantinovich Krikalyov(ロシア語:Сергей Константинович Крикалёв)
Foale374日11時間19分
・Colin Michael Foale(イギリス人)
Walz230日13時間4分
・Carl Erwin Walz(アメリカ人)
Lucid223日2時間50分 
・Shannon Matilda Wells Lucid(アメリカ人) 

*放射線被爆に関しては、なかなか分かり難い面がありますね。
 しかしながら、今回のレポートに対してズブリンさんが主張しているとおり、深宇宙探査のような場合の環境被爆等では、どのような時間をかけて被爆するかが意味を持ってくるのだと思います。
 もちろん、放射線をコントロールできるようになると良いのですが・・・

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