読売新聞2023/09/28 19:25
東北アイヌ語地名研究会は、アイヌ語由来とみられる岩手県内の地名を紹介する本「北上山地と三陸中北部」を発行した。アイヌ語地名研究の第一人者・山田秀三(1899~1992年)が残したノートを基に、会員らが約40年ぶりに岩手県内の調査地を再訪し、現在の写真を添えて再編集した。太宰幸子会長(79)は「地名には昔の人の経験や伝えたいことが隠れている。防災などの参考にしてほしい」と期待している。(有村瑞希)
山田は東京で生まれ、東京帝大法学部を卒業。官僚となり、1941年に仙台鉱山監督局長に着任した。その際、東北各地に残る美しい響きの地名に興味を持ち、アイヌ語研究の道に進んだという。
再編集した本を手に笑顔を見せる太宰会長(7日、宮城県大崎市で)
ノートは、山田が81年にアイヌ語地名調査で岩手県内を訪れた際に書き残したもので、当時同行した横浜国立大の村崎恭子・元教授が保管し、約15年前に太宰会長の手に渡っていた。太宰会長はコロナ禍で本来の講演活動などが制限されたことから、本格的に復刻版の作成に着手。昨年4~10月、会員らと改めて山田の足跡をたどり、推考を加えた。
例えば、「 長内
おさない
」はアイヌ語で「o-sat-nai」。つまり「川尻・乾く・川」と解釈でき、実際に会員が岩泉町の長内川を訪れると、確かに川に水は流れていないことを確認した。
他にも、県内に複数ある「 折壁
おりかべ
」は「後戻りする・川」を意味する「horka-pet」で、「h」の発音が消えて変化したものという。調査した花巻市大迫町の「折壁川」もN字状に後戻りするように流れ、山田の調査でも、一関などの「折壁」は川がN字状に流れていたと紹介されていた。
また、再調査では新たな発見もあった。田野畑村の「目名」は「mem(泉池)-nai(川)」。山田は当時、語源となる湧き水を見つけることができなかったというが、再調査では住民への聞き取りで湧き水が確認された。太宰会長は「地名は生活に密着している。アイヌの人々は食料を求めて歩く際、飲料水が飲める場所の目印としてこの地名を付けたのではないか」と推察した。
太宰会長は「地名を読み解くことで、先人が言いたかったことを解読できた時の喜びは大きい。地名は地質や地形を正直に伝え、防災にも活用できるはず」と調査の意義を強調した。
本は盛岡市先人記念館で閲覧でき、北上市立中央図書館、二戸市立図書館では貸し出しを行っている。今後、県立図書館でも閲覧できるようになる予定。問い合わせは太宰会長(080・9629・6854)へ。