エキサイトism-2015年 1月 9日 08:00
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1946年、戦後すぐに作られたアメリカ映画に、ウィリアム・ワイラー監督の「我等の生涯の最良の年」がある。3人の帰還兵が故郷に戻ってくる。両手が義手の若者がいる。夜、悪夢にうなされる男がいる。映画は、やや苦い味のハッピーエンドだが、戦勝国でさえ、被る戦争の悲惨さを、真正面から描いた傑作だった。
「ジミーとジョルジュ 心の欠片(かけら)を探して」(コピアポア・フィルム配給)もまた、戦後すぐのアメリカが舞台である。ただし、これはフランス映画である。原作は、アメリカ先住民の民族精神医学の研究者で、精神分析医のジョルジュ・ドゥヴルーの書いた「夢の分析:或る平原インディアンの精神治療記録」である。本書をフランス語訳で読んだアルノー・デプレシャン監督が、映画化を熱望していたという。アルノー・デプレシャンは、「クリスマス・ストーリー」(イズムで紹介)で、さまざまな問題を抱えた家族の絆を巧みに描いた作家である。ここでは、惚れ込んだ原作だけに、共同で脚本を担当する。
先住民ブラックフット族のジミーは、フランス戦線から帰還している。ジミーは、頭蓋骨を骨折したが、体は一見、健康そうである。しかしながら、原因不明の症状が続いている。いつも、目はチラチラし、ひどい頭痛が続く。軍の病院の診断では、原因が判然としない。そこに、国籍はフランスだが、ニューヨークにいるユダヤ人のジョルジュが、ジミーの診断に呼ばれる。ジョルジュは、アメリカの先住民を研究している文化人類学者で、カウンセラーの資格がある。ジミーの診断にはうってつけとの判断である。ジョルジュの診断が始まる。
ジョルジュ役に、マチュー・アマルリックが扮する。この人は、映画監督でもあり、演技者としても実力者である。つい最近では、「毛皮のヴィーナス」(イズムで紹介)で、達者なところを見せていた。先住民の患者、ジミー役は、ベニチオ・デル・トロで、「チェ 28歳の革命」(イズムで紹介)では、主役のチェ・ゲバラに扮した。これまた、オムニバス映画「セブン・デイズ・イン・ハバナ」(イズムで紹介)で監督デビューを果たしている。
単に、心的障害の患者を、精神分析で治療しようとするするだけの映画ではない。ここには、ふたりの男が対話を重ねることで、心と心が触れ合い、信頼し、それぞれにとって、忘れようのない時間が、ゆっくりではあるが、確実に刻まれていく。
アメリカでは、1940年代から60年代にかけて、いろんなジャンルの映画が数多く作られた。無邪気で楽しい映画も多いが、人と人同士が信頼しあうといった秀作も多い。本作はフランス映画なのに、まるでかつてのウエルメイドなアメリカ映画のよう。アルノー・デプレシャン監督とマチュー・アマルリックはフランス生まれ、ベニチオ・デル・トロはプエルトリコ生まれである。別に驚くにあたらない。もともと、アメリカは、いろんな国、民族、人種のより集まりである。信頼や友情なくしては、成り立たない。なによりも、本作のように、古き良きアメリカ映画の伝統を引き継ぎ、いまなお、きちんと作り続けていることが、たまらなく、うれしい。
劇中でジョルジュが言う。「自ら安らぐ者は相手とも安らげる」と。そして、さらに胸打つセリフが続く。新年早々、すがすがしい気分になる映画である。
【Story】
1948年のアメリカ、モンタナ州。先住民でブラックフット族のジミー(ベニチオ・デル・トロ)は、第2次世界大戦の帰還兵である。頭蓋骨を骨折したが、見た目は健康そうである。ジミーは、視覚異常や頭痛が顕著になる。姉の農場を手伝っているが、症状はひどくなる一方である。姉に付き添われてジミーは、カンザス州トピカにある軍の病院に入院する。医師たちには、ジミーの症状は、戦争によるトラウマだろうという程度しか、分からない。軍の病院にしても、このまま治療不能というわけにはいかない。患者は先住民である。そこで、先住民の文化や歴史の専門家に、ジミーの診察を依頼することになる。
呼ばれたのは、ニューヨークに住むフランス人の文化人類学者で、医者ではないが、精神分析のカウンセラー資格のあるジョルジュ(マチュー・アマルリック)である。ジョルジュは、国籍こそフランスだが、もとはハンガリー(現ルーマニア領)生まれのユダヤ人で、先住民モハヴェ族の実地調査を長く行っている。
ジョルジュは、ジミーの診察を始める。ジョルジュは、軍の医者たちの判断をもとに、先住民に伝わる夢判断の解釈を加えつつ、ジミーの症状は、後天的なもので、精神分析によって治療が可能と判断する。毎日1時間、ジョルジュとジミーの対話が始まる。
ジミーは、風邪気味のジョルジュを気遣い、優しさを見せる。ジョルジュは、ジミーの生い立ちや、家族のことなどを事細かく聞いていく。やがて、ジョルジュは、戦争のトラウマかと思われていたジミーの心の傷が、ジミーの幼い頃の経験や、女性たちとのつながりに、多くの原因があることに気付き始める。
ジョルジュのもとへ、人妻のマドレーヌ(ジーナ・マッキー)が訪ねてくる。一緒には暮らせない仲だが、ジョルジュにとっては、くつろぎの時間となる。ジョルジュは、次第に、ジミーの心に深く残る「闇」に触れることになる。そして、ジョルジュ自身も、自らの人生を見つめ直していく。
<作品情報>
「ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して」
1月10日(土)よりシアター・イメージフォラームほか全国順次公開
配給:コピアポア・フィルム
©2013 Why Not Productions-France 2 Cinema-Orange Studio
公式サイトhttp://kokoronokakera.com/
文/二井康雄
http://ism.excite.co.jp/art/rid_E1419490312004/