今日は「純粋階段」です。「純粋階段」とはトマソン(赤瀬川原平氏らの発見による芸術上の概念)の第1号物件「四谷の純粋階段」で知られる事になった無用の長物となってしまった不動産建築物の階段部分の事です。「四谷の純粋階段」自体はビルの再開発で既に無くなってしまったそうなのですが、その後、各地で次々に発見された「純粋階段」には非常に面白いものが多く、私的には「ナニコレ珍百景」的なものよりも、その存在そのものに超芸術的な面白みを感じてしまいます。
今日の写真はそのような「純粋階段」のように見えた水晶です。
これは、近年、面白い鉱物標本を多産している中国・内モンゴル産の緑水晶です。この水晶の面白みは先端の錐面部分が3段の階段状になっているところです。白くコーテイングしているものは恐らく風化して粘土となった長石だろうと思います。緑色の和菓子に白い砂糖が被っているようにも見えます。2枚目の写真のように撮ると超高層ビルを上空から撮ったようにも見えました。
これはどのようにして階段状になったのでしょうか?
元々あった水晶の錐面部分が地震か何かの地殻変動で折れて欠けてしまい、その後、白い粘土質のものに覆われたように思われますが、このように階段状に割れてしまった事も不思議な事だと思います。それとも、何か他の鉱物が結晶成長を阻害して出来たのでしょうか?そうだとすると成長干渉水晶という事になりそうです。
何れにしても、この水晶の魅力は何と言っても、その「純粋階段」のように見える形状だと思います。階段とは、高低差のある場所への移動を行う為の構造物なのですが、そのような目的の為ではなく、純粋に階段のように見えるところが「純粋階段」と共通するところでもあり、鉱物の結晶好きにはこのような階段状の形態が琴線に触れるのです。
それは「純粋階段」のように何の役にも立っていません。その無用さが逆にトマソン的な面白さを醸し出すのです。
私は建築にも興味がある方で、特に階段好きでもあります。階段にはその形状に鉱物結晶に相通じるものを感じてしまう方だと思います。
階段にはそれ独自の美があります。例えば、JR京都駅ビルの階段はそのスケール感が好きですし、東京国立博物館の表慶館の階段室は最も美しい建築物のひとつだと思っている位に大好きです。
このようなマニアックな水晶に、そのような階段好きでもある私が「純粋階段」のように見える水晶に反応してしまったのは極自然な事で、水晶コレクターならずとも、結晶好き、建築・階段好きの方ならば、共感して下さるような気がしております。