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不器用なまま、踊りきれ。 超訳 立川談志

2021-10-25 11:24:47 | 

 通常なら2~5年で終えるところを10年弱務めた前座時代に浴びた、談志師匠の罵詈雑言に近い言葉を、師匠に「絵に描いたような不器用な奴」と称された弟子の談慶氏のフィルターで濾した上の、「人間の本質」を貫く、人間学の本です。

 談志師匠はどちらかと言えば、ややこしい人と思っていましたが、全くの誤解でした。天才と言われた人は言葉も一流です。

 「”努力“とは馬鹿に恵(あた)えた夢だ」は、努力して仕事をするのが当たり前なプロの存在を意味し、努力の過程よりも「結果だけで勝負しろ!」という𠮟咤激励です。高座ではやり直しは不能ですが、どんな職業でも同じです。

 「ちゃんと生きなよ」は自分の座標軸を持ち、「自分がいいと信じたものを、死ぬまで大事にし」、「非常識なくらいの情熱を注ぎ」、「好きな虫になれ!」とは落語の世界だけではありません。便利な社会では自身で考えることなく流されるまま生きている人に対する辛辣な意見でしょう。

 古典落語の舞台の江戸時代では、仕事と自分自身の時間の他はボランティアタイムであり、困った人を助けるのを普通としていました。様々な人を受け入れる土壌があり、心の豊かさ、余裕は持ち得ていたと思います。その世界を高座で描くからこそ、「不快感を他人で解消しようとする『文明』より、不快感を自力で解消する『文化』」を愛した談志師匠は、10年以上前から多様性を理解し、資本主義の将来は既知だったのでしょう。地球レベルの課題を解決するにも江戸の知恵は活きるはずです。

 筆まめだった談志さんを知って、さすがは大師匠だったと確信しました。談慶さんもちゃんと継承されていますもの。

『不器用なまま、踊りきれ。 超訳 立川談志』(立川談慶著、サンマーク出版、本体価格1,500円、税込1,650円)

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